ヒップホップフェスティバル「POP YOURS OSAKA」が2025年10月18日(土)に大阪城ホールにて開催された。ヒップホップアーティスト中心の大型フェスティバルとして2022年から千葉・幕張メッセにて毎年春に開催されてきた「POP YOURS」が初めて関西圏に上陸。
チケットは一般発売で即完売。当日は、YouTubeにて生配信も行われた。オフィシャルレポートを掲載する。

【画像】「POP YOURS OSAKA」(全39枚)

今回の会場は約13000人の観客がステージをぐるっと取り囲むセンターステージ仕様。DJブースからセンターステージまでまっすぐ一本の花道が伸びた。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

Red Eye(Photo by Hoshina Ogawa)

オープニングDJのryotaがプレイするさまざまなヒップホップを堪能していると、あっという間に開演時間に。客電が落ちて白いライトに照らされた花道を住之江区出身のRed Eyeが凱旋するように歩いてきた。代表曲「Pocket」に加えて、大阪のレジェンド・SHIGO★西成との「うしろきいつけや」で観客のテンションを焚き続けた。2番手のMIKADOは和歌山出身。観客の「オイ!オイ!」という呼び声で迎えられ、「言った」で大きな一体感を生み出した。MFSはUKスタイルの洗練されたスピットとキュートなダンスで、城ホールの観客のハートを鷲掴みにした。

NEW COMER SHOT LIVEでは、幕張の「POP YOURS」でJin Doggの客演として登場して、凄まじいインパクトを残したPxrge Trxxxperと、京都を拠点にするFANIがフックアップされた。
多士済々のヒップホップシーンに、また唯一無二のキャラクターが現れたことを感じさせたステージとなった。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

Kaneee(Photo by Daiki Miura)

あっという間にシーンの人気者となったKaneeeは、「LOST」をはじめ今日も安定したラップスキル、歌唱力で、観客からのリスペクトを一身に集めていた。続くアクトは言わずと知れた大阪代表のひとり、WILYWNKAがシークレットアクトで登場。フッドスターという言葉に相応しいワンランク上の大声援が城ホールに響き渡った。「メチャ楽Shit」など人気曲をメドレー形式でパフォーマンスし、最後には盟友Vigormanを迎えて変態紳士クラブのヒット曲「YOKAZE」で全員を大合唱させた。

BIMとkZmのユニット・bZmではそれぞれの人気曲に加えて、「おととい完成した」という2人名義の新曲「YingYang」を披露。初お披露目にも関わらず、ジャージースタイルのアッパーなナンバーで観客を踊らせた。STUTSは今年、「99 Steps feat. Kohjiya & Hana Hope」やSTUTS on the WAVEなどでスマッシュヒットを連発している。その充実度が伝わってくる気迫のパフォーマンスだった。また「POP YOURS OSAKA」で新鮮だったのが、ステージの真上に設置されたカメラの映像。STUTSが巧みに激しくMPCを叩く様子もはっきりと見ることができた。「Mom & Dad」にはKaneeeと和歌山出身の7をフィーチャー。
7の登場で場内が歓喜にどよめいた。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

STUTS(Photo by Ray Otabe)

一本のスポットライトがステージを照らして、その中央に悠々と収まったのが東大阪出身のguca owlだ。これはRed Eye、WILYWNKA、のちに登場するJin Doggにも言えるが、大阪のラッパーを大阪で観ると臨場感がまったく違う。地元の観客は「DIFFICULT」や「Working Class King」でぶち上がり、他の地方から来た観客は地元の雰囲気を堪能した。POP YOURS OSAKAのオリジナル楽曲の新曲「Blood In My Hood」でSTUTSと、日本を代表するサックス奏者の梅津和時と共演。ヒップホップのローカル性をドラマチックな演奏とともに聴かせてくれたステージだった。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

Elle Teresa(Photo by Masato Yokoyama)

「POP YOURS」常連のElle Teresaは出演するたびに最高を更新していく。ピンクのウイッグに露出度の高い衣装。ヒップホップ、レイヴ、ギャルを高次元にハイブリッドさせた世界観で観るものすべてを圧倒。今年の「POP YOURS」オリジナルソングの「I JUST」をswettyと爽やかに披露し、ラストソングの「LOVE」では女の子の観客が中心となって大きな声で合唱していたのが感動的だった。Vingoは黒いロングコートに、首にゴツいチェーンを巻いて登場。特徴ある声質を活かしたRage Tune「楽笑」から、歌唱力の高さを感じさせたミクスチャーテイストの「IKANAIDE」などを歌う。
これからの活動も注目していきたいと思わせるステージだった。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

Jin Dogg(Photo by Masato Yokoyama)

Jin Doggもこのフェスの常連だ。しかも地元。明らかに気合いが入っており、なにより嬉しそうにパフォーマンスしているようだった。一瞬のマイクトラブルもにこやかに対処。90sヒップホップノリのアッパーな「Flip」からハードな「街風」まで、大阪のバイブス満載でテンションを上げ切った。

デニムのセットアップを着こなしたLEXにはロックスターの風格が漂っていた。彼が足で大きくリズムを取ると、観客も一緒に体を揺らし、両手を広げると大きな声援を送る。火柱の特効も相まって、クライマックスへの期待が高まる。「力をくれ」で強固な一体感を生み、「この世界に国が無かったら」はマイクスタンドを使って歌った。歌い終わった後にスタンドを蹴飛ばすアクションに、他にはないカリスマ性を感じた。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

Tohji(Photo by Jun Yokoyama)

Tohjiは「POP YOURS」のオルタナティブなカラーを象徴するアーティストだ。
観客のTohjiコールに応えるように、「Super Ocean Man」や「Goku Vibes」といった人気曲を連発した。しかし最後の曲の前のMCで2026年での音楽活動からの引退を発表。あまりの衝撃に場内は静まり返り、「Crystal 世阿弥」を聴いた後も場内は困惑が渦巻いていた。

トリのAwichは難しい雰囲気でライブを始めた。思えば、2023年のDAY2に大トリを務めた際も前日にBAD HOPが解散を発表していた。だが彼女は今回もプロフェッショナリズムを貫いた。音楽へのピュアな衝動と、同時にミュージシャンとしての向上心を同居させた彼女は、首にキラキラ光る「亜」のチェーンを下げて、8人のダンサーと完成度の高いパフォーマンスを披露。MCで「私も、さっきのTohjiの発表で動揺しています。やだよね。でもいままでお疲れ。あなたが成長して、またおっきな夢を持って、おっきなビジョンを持って、みんなの前に戻ってくることを楽しみにしています。あなたにはあなたの道があると思う。
それに対してごちゃごちゃ言ってくるやつがいたら、この曲を歌ってやろう」と「WHORU?」に突入し、京都のスター・ANARCHYとともにTohjiの選択を肯定するパフォーマンスを見せた。さらにAwichは「ALI BABA」でMFS、極め付けはアメリカからFERGを招聘して「Butcher Shop」などをパフォーマンス。そしてラストの「Wax On, Wax Off」には、Lupe Fiascoまで加わった。彼らが出演したことの背景には、Awichのアーティストとしての実力、人間としての豊かさも関係しているのだろう。Awichは、ラストソングでLupe Fiasco、FERGと3人で凄まじい一体感を作り出した。人種も国境もなくパフォーマンスの強度でピュアに繋がる。この大団円は、歴史的な瞬間と言っても差し支えないだろう。

「POP YOURS OSAKA」が示した、ローカルの重要性とヒップホップの現在地点

Awich(Photo by Ray Otabe)

日本のヒップホップシーンは日々変化し、成長している。それは、アーティストたちが絶え間なく努力し、挑戦を繰り返しているからだ。その結果として、さまざまな場所で、さまざまな選択が生まれる。「POP YOURS OSAKA」は、「日本のヒップホップ」というストーリーにおけるローカルの重要性を再確認させたことに加え、複雑に広がり続ける現在地点を可視化した点でも大きな意味があるフェスだった。なお、終演後に、2026年4月3、4、5日に幕張メッセ国際展示場1~6ホールで「POP YOURS 2026」の開催が発表された。
出演アーティストは後日発表される。

text:宮崎敬太

<ライブ情報>

POP YOURS 2026
日程:2026年4月3日(金)、4月4日(土)、4月5日(日)
会場:幕張メッセ 国際展示場1~6ホール (〒261-8550 千葉県千葉市美浜区中瀬2丁目1)
編集部おすすめ