ジャマイカはキングストンのゲットーにて、サウンドシステム運営/カッティング・エンジニアをやっていたキング・タビー(本業は、街の電設技師)がダブ・ミックスの技術を生み出して約50年。ブーストされたベースライン、エコー、リヴァーブによって新たな躍動感を与えられるリズム・アンサンブル──ダブはさまざまな音楽に、その音響にミームのように組み込まれ、ダンス・ミュージックなどを中心に、現在ではジャンルを超えたよりファンデーションなレコーディング・技術/音響要素として広がった。
昨年夏に刊行した拙監修本『DUB入門』も、ジャマイカのルーツ・レゲエのダブにはじまりポストパンクなどを経由し、現代のエレクトロニック・ミュージックへと援用されまでの動きをディスク・ガイドという形でまとめたもので、そのニッチな内容ながらも、今夏には品薄に、そして今秋重版3刷目も決定するなど売れ行きも好調と聞く。手前味噌で恐縮だが、ダブがいま現在、広く遍く、音楽ファンが注目している様がうかがえるエピソードでもある。
『DUB入門ールーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ』(ele-king books)
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「ダブとは何か?」マッド・プロフェッサーとエイドリアン・シャーウッドによるワークショップ(日本語訳付き)
そんななかでUKダブの名匠、エイドリアン・シャーウッドが13年ぶりのソロ・アルバム『The Collapse Of Everything』をひっさげてこの11月に東名阪に来日する。1970年代後半のUKルーツ・レゲエにそのキャリアの端を発しながら、ポストパンク、インダストリアル、EBM、そしてインディ・ロックやレイヴ・カルチャー以降のダンス・ミュージックへも横断し、まさにダブの音響感覚をさまざまな音楽へと伝搬・拡張させた名プロデューサー/ダブ・エンジニアだ。そしてこの来日公演は、2005年にいまはなき西麻布Yellowにてスタートしたエイドリアン・シャーウッドの来日/ライヴ・ダブ・ミックス・イベント〈DUB SESSIONS〉シリーズの記念すべき20周年目の公演となる。ザ・スリッツやアフリカン・ヘッド・チャージ、ホレス・アンディ&クリエイション・レベルなどこれまでUKダブのレジェンドたちのダブ・ミックスをまさにライヴ&ダイレクトに届けてきたイベント・シリーズだ。
エイドリアン・シャーウッド
ソロ・アルバム『The Collapse Of Everything』は、Rolling Stone Japanのウェブにて、高橋健太郎氏によるコチラのインタヴューにもあるように、ヴォーカリストをフィーチャーせず、朋友とも言えるミュージシャンたちと作り上げたドープな美しさに満ちたダウンテンポ・ダブの逸品となっている。楽器のフレーズ、ノイズ、エコー、重低音、それらが随所にきめ細やかに配置され、ダブの音響処理によって、サウンドトラックのような壮大なコスモロジーを描く作品だ。
アルバムは、元シュガー・ヒル・ギャング(オールドスクール・ヒップホップの殿堂〈シュガーヒル〉のバック・バンド)出身で、1980年代後半のエイドリアンのメイン・プロジェクトとも言えるエレクトロ・ダブ・ファンクなタックヘッドのメンバーでもあるベーシススト、ダグ・ウィンビッシュ。
今回の〈DUB SESSIONS〉では、アルバム参加メンバーからダグ、ギターにセッション・ギタリストとして大量の作品にクレジットを残しているマーク・バンドラ、プライマル・スクリームやファット・ホワイト・ファミリーでも活躍するマルチ・インストルメンタリストのアレックス・ホワイトが帯同する。この3人によるライヴ演奏に、エイドリアン・シャーウッドによるライヴ・ダブ・ミックス。ダグを含めて凄まじいスキルのベテラン・アーティストたちと、エイドリアンによるダブ・ミックスの妙技はぜひともその音圧も含めて生で体感すべきライヴとなるだろう。
2024年の〈DUB SESSIONS〉アフタームービー。ホレス・アンディ、クリエイション・レベルらの歌/演奏に「神業」ダブ・ミックスを施すエイドリアン
デニス・ボーヴェル、マッド・プロフェッサーも登場
また今回の〈DUB SESSIONS〉には、UKダブの2人のレジェンドも参加する。まずはエイドリアンの、初期のコラボレーターでもあるデニス・ボーヴェル。ジャマイカと同じく、カリブ海の、当時は大英帝国植民地の島国バルバドスに生まれ、戦後期の労働力を求めたイギリスの移住政策のなかで両親についてロンドンへと移住(いわゆるウィンドラッシュ世代)。1970年代から自身のサウンドシステム〈Jah Sufferer〉を中心に活動をはじめ、また自身のバンド、マトゥンビを率いてUKレゲエの礎を築いた。ロンドンにおいてもジャマイカ産よりも下に見られていたUK現地のレゲエの評価を、そのサウンドのオリジナリティとクオリティによって高めることに尽力した。
デニス・ボーヴェル
また彼の卓越したダブ・ミックスも評価の大きな要因にもなっていく。
デニス・ボーヴェルのコラボワークをまとめたプレイリスト
そしてマッド・プロフェッサーことニール・フレイザーもまたジャマイカ系ではなくカリブ海沿岸の当時は大英帝国の植民地だったガイアナに生まれ、ロンドンに両親について移住してきた(デニスと同様のウィンドラッシュ世代)。カリビアン・コミニティのなかでレゲエにのめりこみ、1970年代末にたった4チャンネルではあるもののカリビアン・コミニティ初の独立系スタジオとして〈Ariwa〉を立ち上げた。ここは在英、もしくはジャマイカから来英するレゲエ・アーティストたちのよりどころとなっていく(1980年代初頭のUKニュー・ルーツ/ダブのオリジネイター、ジャー・シャカの初期作品はここでほとんど録音され、1980年代初頭、欧州を放浪していたリー・ペリーも長期滞在していた)。こうしたアーティストたちの作品をリリースするレーベルとしても〈Ariwa〉を1980年代初頭にはスタートさせ、UKのルーツ・レゲエ、ラヴァーズ・ロックの分野で成功を収めていく。もともと電気技師でもあった彼はレコーディング・テクノロジーに並々ならず心血を注ぎ、様々なエフェクターを使ったトリッキーなダブ・ミックスを体現、それは1982年以降にダブ・アルバム・シリーズ『Dub Me Crazy!!』にてまとめられ、レーベルの看板シリーズとなる。
マッド・プロフェッサー
また彼は、おそらくアンダーグラウンドなレゲエ・コミュニティ出身のプロデューサーのなかで1990年代のダンス・カルチャーのなかで最も成功したアーティストで、そのテクノロジーへの探求もあって純粋なるダブ・ミックスだけでなく、いわゆるリミックス・ワークもこなしてきた。やはり彼の名前をより広く知らしめる仕事となったのは、その後のトリップホップの隆盛にも影響を与えたであろうマッシヴ・アタックの『Potection』の全編ダブ・ヴァージョン『No Protection』(1994年)の存在だ。新たな世代にダブを意識させるきっかけにもなったのではないだろうか。
今回の〈DUB SESSIONS〉ではデニスは「UK dUb MaNiAc」と題したDJセットで出演する。自らその歴史を作ってきたUKダブのさまざまなサウンドを、サウンドシステム仕込みのそのパワフルなトースティングとともにプレイするのではないだろうか。かたやマッド・プロフェッサーは、その膨大なマルチ・チャンネルのマテリアルを駆使するお得意のライヴ・ダブ・ミックスを披露する。
〈DUB SESSIONS 20th ANNIVERSARY〉は、1970年代からスタートするUKダブの歴史を作った三巨頭の三者三様のサウンドを体験できる、またとないチャンスとなる。ジャマイカで生まれて、UKで独自発展したダブの、そのルーツ、そしてオリジネイター/イノヴェイターたちによる最新のサウンドが楽しめることだろう。
デニス・ボーヴェルが2022年、英Phonica Recordでパフォーマンス
マッド・プロフェッサーによる2025年のダブ・セット
ADRIAN SHERWOOD presents DUB SESSIONS 20th ANNIVERSARY
2025年11月19日(水)東京・EX Theater
2025年11月20日(木)名古屋・Club Quattro
2025年11月21日(金)大阪・Gorilla Hall
〈出演〉
エイドリアン・シャーウッド:live with DOUG WIMBISH, ALEX WHITE, MARK BANDOLA
マッド・プロフェッサー:Electronic Dub Show
デニス・ボーヴェル:UK dUb MaNiAc (DJ SET)
〈チケット〉
前売:8,800円 (税込 / 別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
・東京:1F オールスタンディング / 2F 指定席
・名古屋・大阪:オールスタンディング
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15187


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