そんなNonoのルーツに、日本の音楽があるという。とりわけ影響を受けているのは椎名林檎で「自分の歌唱や発音の癖に、ある程度スタイルが内面化している」と過去のインタビューで認めている。また、日本の音楽やJ-POP特有の情報量が多いアレンジ/プロダクションにも傾倒しており、「音楽には聴覚的な刺激が必要。多くの人が反復から生まれるムードを好むけど、私は何かひと味違う要素がほしいんです」とも語っている。
11月30日に渋谷で開催されるアジア・インディーの祭典「BiKN shibuya」での初来日(中国以外での初ライブ)を前に、Nonoへのメールインタビューが実現。音楽的バックグラウンドと創作哲学、日本や欧米のポップミュージックからの影響、故郷・中国での経験などについて話を訊いた。「自分の中だけに閉じこもらず、文化の行き来が生まれることで新しい刺激を得られるし、成長していける気がします」とは本人の弁。境界線を飛び越える彼女の音楽に、今こそ耳を傾けてほしい。
なお、このあと掲載するQ&Aの質問は、彼女のデビューアルバムを日本のSNSで広めたKun氏(@Rock_n_roll_Kun)に作成してもらった。
中国の25歳SSWの1枚目。Cornelius『FANTASMA』や椎名林檎を想起させるにロックやジャズなどをアグレッシブに横断する楽曲、しかも大学院在学中に演奏からマスタリングまで自宅で制作したそう、ただただ新たな才能に圧倒される1時間。今年トップクラスの傑作誕生。
『No,no!』by 张醒婵 pic.twitter.com/r55y90WfSG— Kun (@Rock_n_roll_Kun) May 20, 2024
「淤青了吗?!」(ユー・チンラマ=青アザ?!)日本語字幕MV。歌詞に登場するのは、ライブ出演に向けて急ぐあまり膝に青アザを作り、予期せぬトラブルに見舞われるミュージシャン。挫折からの再起がもたらすカタルシスを、歪んだギターサウンドに乗せて歌う
エクレクティックな音世界の背景
―『No, no!』はさまざまなジャンルの要素を感じる、ある種「雑多」な印象の作品です。椎名林檎やCorneliusといった日本の音楽にも通じる「雑多さ」だと感じたのですが、ご自身にとって「雑多さ」は音楽のテーマのひとつだと考えていますか? 日本の音楽からの影響についても詳しく教えてください。
Nono(張醒嬋):そうですね。私はずっと、いろんな要素が混ざることで曲に「面白さ」が生まれると感じてきて、自分の作品でも、その混ぜ方をいろいろ試してきました。
日本の音楽から受けた影響は、本当に大きいです。初めて椎名林檎さんの曲を聴いたとき、「どうしてこんなにも独特な個性を、こんな自由さで音の中に走らせられるんだろう」と衝撃を受けましたし、あの大胆さや、どこか狂気がありながら破綻しないアレンジにも強く惹かれました。
日本の音楽は、私の「音の捉え方」をずっと広げてくれる存在です。次の一音がどこに向かうのか分からない──そんな予測できない感じがあって。その感覚に触れるたびに、自分もコンフォートゾーンから抜け出して、いろいろ挑戦してみたくなるんです。
椎名林檎「丸ノ内サディスティック」カバー映像(2021年投稿)
―その「雑多さ」はいつ頃から意識されていたのでしょうか。そういった嗜好性が育まれるまでの過程、幼少期や武漢での学生時代についても教えてください。
Nono:子どもの頃から、カラオケで同じAメロやサビを二度繰り返して歌うのがあまり好きじゃなくて、同じ展開が続くとちょっと退屈に感じるところがあったんです。その感覚は、私の曲の構成がときどき「きれいに整わない」理由にもつながっている気がします。
それに、私はもともとセンシティブで、物事を一方向じゃなくていろんな面から受け取ってしまうタイプで(それは多分、育ってきた環境とも深く関わっていると思います)、だから自然とマルチエンディングや意外な展開、パラレルワールドみたいな世界観に惹かれていったんだと思います。歌詞にもその感じはそのまま出ているはずです。
曲のテーマはいつも一つとは限らなくて、その時々の自分の「核」にある考えに合わせようとすると、使う要素や編成も自然と変わっていくんですよね。そうした積み重ねが、作品として聴いたときに「雑多さ」として現れているんだと思います。でもそれは、私の中では単なる「雑多」というより、いろんな感覚が混ざり合ってできた自然なかたちに近いんです。
―大学では法律を専攻されたそうですが、そこから音楽の道へ進む決意をしたきっかけはなんでしょうか? また法学を学んだ経験が楽曲制作にどんな影響を与えていると感じますか?
Nono:『No, no!』というアルバムを作り始めるまでは、音楽で「すごいものを作りたい」とか、「高いところを目指したい」みたいな気持ちは、別にそんなに強かったわけでもなくて。バンドをやったり、自分のペースで曲を書いたり……本当にそれくらいだったんです。
でも、本当に音楽の道を歩き始めるきっかけになったのは、このアルバムが完成して、実際に世に出たことだったのかもしれません。
それに、法律を学んでいた頃に強く感じていたのは、「いや、やっぱり私はこの世界には向いてないな」という事実で(笑)。その気持ちをそのまま曲にしたのが、「絶対不考司考」(=司法試験なんて絶対受けたくない)なんです。
―ギターとの出会いはいつですか? 影響を受けたギタリストや演奏スタイルの原点についても教えてください。
Nono:ギターを始めたのは、高校の受験が終わったあとの夏休み(18歳)のときです。
自分が聴いてきた曲の中のギターも、いろんなミュージシャンたちの影響がごちゃっと混ざったような感じのもので、どちらかと言えばクリーンな音色より、ちょっと”ダーティ”なギターサウンドに惹かれることが多かったですね。
このアルバムでのギターは、ジョージ・ベンソン、ビリー・コーガン(スマッシング・パンプキンズ)、ニック・ラインハート(Tera Melos)、ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)、スティーヴン・カーペンター(デフトーンズ)といったギタリストたちから強く影響を受けていると思います。
それに、自分がギターを弾くときは、理屈というよりは、どっちかと言うと直感で弾いている部分が大きいと感じています。
―あなたの作る音楽は、ジョーディー・グリープやメイ・シモネスといった、優れたギタリストでありながらジャンルを越境するアーティストたちとの音楽的な共鳴を感じます。彼らからの影響や同時代性を感じることはありますか? また他に影響を受けている近年のアーティストがいれば教えてください。
Nono:ブラック・ミディはすっごく好きですし、メイも本当にいいアーティストだと思います。自分の創作にも、やっぱり影響は受けてます。バンド全体で一気に持っていかれるような、あの解放感のあるアンサンブルとか、セクションが急に切り替わるあの感じ、自分の内側をぐっと照らすような視点、そして想像力をためらいなく広げていく歌詞……そういう表現にはすごく惹かれるし、自分でももっと踏み込みたいと思ってます。
近年のアーティストで言えば、GEZAN、Fellsius、Kate NV、jizue、betcover!!などもとても好きですね。今はいろんなスタイルの音楽が次々と生まれてくる時代で、そんな作品をリアルタイムで聴けることが本当に幸せだなと思っています。
デビューアルバム『No, no!』制作背景
―CDに封入されていた「切れた弦」が印象的でした。アルバム制作の過酷さを象徴しているように思いますが、156日という短期間で全17曲を、自身で演奏・ミキシング・マスタリングまで仕上げた過程で、最も苦労した点は何でしたか?
Nono:いちばん大変だったのは、正直アレンジです。今回のアルバムには、自分の中にある「4つの視点」みたいなものがあって、それぞれのパートが持つ感情の方向性はざっくり決まっていたんですよね(※)。だから、それをどう音符で表すかは、時間をかけてすり合わせたり、試しながら探っていく必要がありました。こういう部分って、アレンジの基礎みたいなところの理解が問われるので、まだ自分にも伸ばせる部分があるなって感じました。
でも、そこがパッと通った瞬間に、気持ちとしては7割くらい安心できて。録音やミックス、マスタリングは、どちらかといえばそのアレンジを支えるための作業という感覚が強いですし、もともと音色に徹底的にこだわるタイプでもないので、そこまで悩むことはなかったです。
※編注:『No, no!』における「4つの視点」について、張醒嬋はSOHU.comのインタビューで以下のように語っている。
「今の私は断片化され、4つの分身に分かれています──世界、人間関係、自分自身、理想。インターネットやマスメディアを前に苛立つ観察者でもありつつ、ときに空をまっすぐ見上げるロマンも残っている。
張醒嬋がルーパーを駆使してギター、キーボード、ベースを次々と重ねていく「ひとりバンド」パフォーマンス映像
―あなたのソングライティングについて知りたいです。実際の曲作りのプロセスはどのようなものだったのでしょう。「滤镜」を例に教えてください。この曲はギターリフや複雑な展開が印象的ですが、サウンド面のコンセプトについても知りたいです。
Nono:当時はちょうどTera Melos(米サクラメント出身のマスロック・バンド)を聴いていて、ある曲で”全音でずれていく感じ”がすごく面白くて、自分でもそのモチーフを使ってみようと思ったのが始まりです。
それと、この曲で急にテンポが変わったり、8/9拍子・4/3拍子・8/5拍子みたいな変拍子がバンバン出てくるのは、単純に Logicの中で意識して実験していた結果なんですよね。曲を「写真を加工する」とか「現実をゆがめる」といったテーマの荒っぽさに近づけたくて、この世界に好きに落書きしても全然アリだな、っていう感覚がありました。
自分たちはもう、哲学者ボードリヤールが言う「ハイパーリアリティ(超現実)」 の世界に落ちているわけで、その感じをそのまま音にしたかったんです。
「滤镜」(=フィルター)では「醜い人も美しい人も皆Photoshopで加工している。新聞サイトも君の称賛も僕の目も、世界中が加工まみれで、何が本物か分からなくなる…」といった趣旨のフレーズが飛び出し、フェイクだらけの現代社会を風刺している
―「25歳のうちにアルバムを完成させる」と決めていた理由を教えてください。
Nono:もともとは、大学院を卒業する24歳のうちにアルバムを作ろうと思っていたんです。
そのときは、ちょっと宿命っぽい悲しさというか、「もうここで先延ばしにするのをやめないといけないな」と思ったんです。ちゃんと覚悟を決めてアルバムに向き合って、その瞬間の自分の人生を、音楽に焼き付けておきたいと思ったんです。
それに、人ってなぜか「5」とか「10」の区切りで物事を考えがちじゃないですか。25歳って、自分の人生が可視化されて区切られるような感覚があって……100年の4分の1、みたいな。そういう感覚も確かにありました。
―『No, no!』がインターネット上で大きな注目を集めた際、どんなお気持ちでしたか? また当初は中国のみの配信でしたが、全世界に向けて、他のプラットフォームにも配信を拡大した理由についても教えてください。
Nono:正直、けっこうびっくりしました。さっきも言ったように、もともとそんなに期待していなかったので、急にたくさんの人に見つけてもらえて、「え、マジで?」みたいな、ちょっと身に余る感じがあったんです。
それで、もっと配信したほうがいいよって、音楽でつながっている友だちに言われるようになって。自分でも調べながらTuneCoreの使い方を覚えて、各ストリーミングにアップするようになりました。
浪潮音楽大賞で最優秀新人賞にノミネートされ、「從a到z」をパフォーマンス。冒頭で「ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ」と全てのアルファベットを並べるところから始まり、その後アルファベットの文字たちが登場人物のように物語を展開。ユーモラスかつ寓意的な歌詞のなかで、抑圧に屈せず自分自身で道を切り拓くというテーマを提示している
日本でのライブと文化交流の意義
―「滤镜」や「如果一天都不带手机」では、SNS社会やデジタル時代に関して表現していました。『No, no!』を発表する前と後で、インターネットやSNSとの関わり方について意識の変化はありましたか?
Nono:今でも、インターネットとかSNSはあまり触りすぎないほうがいいなって思っています(笑)。私は、今みたいに情報が爆発的に流れる時代じゃない幼少期と青春を過ごしていて、あの頃はすべてがすごくシンプルで純粋で、ひとつのことに集中しやすかったんですよね。
もちろん、SNSがあることで外の世界と自然につながれる手段や、いろんなアプローチが増えたのはわかるんですけど、それでも、そこに時間や気持ちを持っていかれすぎないように、自分なりに距離を取るようにしています。
―近年、BiKNをはじめとする音楽フェスやアーティストのツアーを通じて、日本と中国の音楽交流が活発化しています。この動きをどのように見ていますか? あなた自身はその動きにどのようにコミットしていきたいですか?
Nono:中国では近年、日本のアーティストを招いてライブを行う動きが活発になってきていて、「あ、いま交流がどんどん広がっているんだな」と実感しています。こういう行き来が生まれると、新しい刺激や、その場でしか得られない体験・気づきが絶対にあって、自分の中だけに閉じこもらずに、いろんな”養分”を取り込んで成長していける気がします。
今回の日本への旅では、自分の曲をちゃんと、心を込めて日本のリスナーのみなさんに届けたいですし、現地の音楽シーンにもたくさん触れて、いろいろ学べたらと思っています。
―日本の読者に向けて、華語圏の音楽について、あなたに影響を与えたアーティストやバンドを教えてください。また中国で生まれ育ったことは、あなたの音楽にどのような影響を与えたと思いますか?
Nono:私はソーダグリーン(蘇打綠/Sodagreen)というバンドがすごく好きで、彼らの曲には本当に心を動かす力があると思っています。ボーカルの呉青峰さんの声もとても特徴的で、一声で誰だかわかるんですよね。
それから、中国で育ったことも、やっぱりどこかで私の音楽に影響していると思います。まわりには、いろんな現実的な理由から、自分の好きなことを「自由に」できない人が多くて、私自身も、そういう場面で感じたことをそのまま曲に込めてきました。
だからこそ、「何かの制限を破りたい」という現実的なテーマが、曲の中に出てくることがあるのかもしれません。
―次回作やツアーなど、今後の活動について教えてください。最近はバンド形態でのライブも行われていますが、今後の録音では一人ではなく複数人で制作する構想もありますか?
Nono:今は、時間があるときにまた曲を作りたいと思っています。曲がある程度そろって、ちゃんと準備ができたら、まずは一度ツアーをやってみたいですね(自分のライブ経験も、正直まだそんなに多くないので)。
それから、誰かと一緒に音楽を作ることは、前にやっていた「触発器(Trigger)」というバンドでしっかり経験しています。なので、これからもチャンスがあれば、いろんな人と一緒に音を合わせて曲を作るのもやってみたいです。
―最後に、BiKNでの日本初ステージへの意気込み、今回のライブはどのようなものになりそうか、そして日本のリスナーへメッセージをお願いします。
Nono:海外でライブをするのは本当に初めてで、全部がすごく新鮮です。先のことは全然わからないけど、私もお客さんと同じ気持ちで楽しみにしています。とにかく、自分と仲間たちで、今の私たちをできるだけそのまま届けられたらいいなと思っています。
会場で会いましょう!
Shibuya, Im coming!
「BiKN Shibuya」ではバンドセットで出演
『BiKN shibuya 2025』
日時:2025年11月30日(日)OPEN 11:00 / START 12:00
会場:東京・渋谷 Spotify O-EAST(Main / Sub / 3F Lobby) / Spotify O-Crest / duo MUSIC EXCHANGE
主催:BiKN 2025 実行委員会
https://linktr.ee/biknshibuya
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