その舞台にて初めて披露され、11月19日にドロップされた「結晶」は、歌謡曲の系譜を継ぐメロディラインやストリングスによるサウンドの拡張をはじめ、脈々と受け継がれてきたウィンターソングのトーンとマナーを押さえつつ、冬の美しさを翻訳したメロディが流れていくナンバー。これまで以上に間口の広い、しかし確かに切なさのど真ん中を射抜く1曲に仕上がっている。
これまで、ヒーローにも主人公になれない無力さと頭を掻きむしりながら対峙し、それでも何者かになりたいと咆える楽曲たちを打ち鳴らしてきた五十嵐ハル。初ライブを終え、3月に開催される自身初のワンマンライブへ向かう旅路の最中、その変化の兆しを聞いた。
「愛されているんだとようやく思えた」
初ライブ『NO TITLE』で気づき直したファンの体温
―11月13日に五十嵐ハルにとって初めてのライブとなる『NO TITLE』が開催されました。ステージを拝見させていただきましたが、初ライブとは思えないほどの佇まいで。「恋花火」をはじめとするバラードの響かせ方も、「めんどくさいのうた」から突入したクライマックスで会場を巻き込んでいく力も見事でしたし、ファンとのやり取りを全身で楽しもうとしている様子も印象的でした。初めてのライブを終え、どのようなことを感じたのか、まずは率直に教えてください。
とにかく楽しすぎましたね。終わってからも興奮が止まなくて、朝になっても眠れないくらいでしたし、自分の人生においても一番の気持ち良さを感じられたというか。僕はマイナス思考な部分があるので、「ここを間違えたらどうしよう」「歌詞を忘れたらどうしよう」とばかり考えていたんですけど、結果的にはファンのみんなと一緒に温かい空間を作ることができた。何よりそれが良かったと思っています。
―具体的にどのようなシーンで、ライブの面白さや気持ち良さを感じましたか。
これまでファンとして体験してきたライブが始まる瞬間の高揚感を、舞台に立つ側として経験できたことがまず嬉しくて。バンドメンバーが次々に登場し、ボーカリストが最後に現れる流れを自分でもやってみて、僕自身が喜んでもらえる存在になれたことを実感できたんですよ。MCの時や曲終わりの歓声もそうですけど、直接ファンと会えた喜びが、楽しさや気持ち良さに繋がったんじゃないかな。
―直接ライブで膝を突き合わせたことで、さらにファンの顔がハッキリ見えるようになったと。
これまでもSNS上でたくさんのコメントをいただいたり、ファンの存在は感じていましたけど、やっぱりネット上だけだと自分に対してどれほどの熱を抱いてくれているのか、完全には分からないじゃないですか。でも、ライブでは僕を見る視線や歓声から、その熱量が伝わってきて。改めて、ファンの存在を強く実感しましたね。
―MCの中では、「警察官時代に夢を笑われたことや活動の中で苦心したことが報われた気がする」という旨をお話されていましたけれど、もともと五十嵐さんの作品の根源にはネガティブな側面が横たわっていて。そういう負のベクトルを孕んだ音楽を積み上げてきた結果が、先日のようなポジティブな景色に繋がっていったわけですが、ライブを経たことで今後の作品はどのように変わりそうですか。
おっしゃっていただいたようにネガティブな性格なので、ハッピーな側面を押し出す楽曲は自分に向いてない気もしていて。ただ、ライブで感じた「諦めないで良かったな」という気持ちだったり、続けることの重要性は発信しても良いのかなと考えるようになったんですよね。
―その変化の兆しは前々からあったもの?
いや、ライブを終えて突然そう思うようになりました。というのも、「ここまで頑張ってきた意味があったな」と100パーセント実感できたのは初めてだったから。コピーバンドから音楽を始め、ぺむという名前でボカロPとして活動もしてきましたけど、なかなか存在を知ってもらえなかったし、楽曲を聞いてもらえないことへの苛立ちもあって。振り返ってみると、しんどい道のりだったと思うんです。
―実際、<人生ずっとハードモード 疲れちゃう!>と言い切る「めんどくさいのうた」や、<いまパズルがバラバラ壊れちゃって 笑えるくらいの余裕もなくて>と綴られた「パズル」にはそうした苦しさが表れていますよね。
そうですね。そういう不満や鬱憤を詰め込んだ楽曲が、段々と色んな人に聴いてもらえるようになって。もちろんそれは嬉しかったんですけど、流行りの曲として聴かれているのか、たまたま耳に入っただけなのかも分からないし、どれほどの存在になれているのかもピンときていなかったんです。だけど、ライブを通じて、ファンの熱を受けとったことで「愛されているんだ」とようやく思えた。これまで感じてきた喜びとはまた違った喜びを得ることができたので、変化の可能性が見えてきたんだと感じています。
―そもそも、五十嵐さんの楽曲が日々の生活における鬱憤や不安を宿してきたのは、なぜなのでしょう。
性格的な理由もありますし、リスナーとしてもネガティブな曲に救われる瞬間ばかりだったんです。だから制作においても、マイナスの方角を向いた楽曲を作った時の方が「最高の曲ができたな」と思える。その両面が合わさって、これまでの作品が生まれたんじゃないかなって。
―自らの暗い部分に切り込みながら、曲を作るようになったキッカケは?
高校生の時、かなり悲しい失恋をしたのが1つのポイントだったかもしれません。自分がしんどい状況に置かれたことで、ネガティブな音楽に対して深く共感するようになって。これまでと楽曲を聴いた時の感覚に明らかな違いがありましたし、「この曲を聴いている間だけは、何とかなりそうだ」と思えたんですよね。その時に根付いたものが今でも残っているような気がしますし、歌詞に関しても、自分が世に出してみたいメッセージを書いた結果、自然と暗いものになっていて。本能的に自分の毒素を排出したがっているというか、膿みたいなものを曲に入れ込むことで消化したいんだと思います。
―言い換えれば、日々のフラストレーションや報われない現実に対する懐疑心が五十嵐さんの楽曲には込められているわけですが、先ほどお話いただいたようにファンの存在をはじめ、プラスの要素も増えているわけで。作品の宛先は、これからどのように変化していきそうですか。
おっしゃる通り、これまでとは違って、みんなに向けて書く曲もあっていいと感じています。ただ、自分のために作った楽曲に共感してくれる人もいたわけだから、今までの自分のやり方も無くしちゃ駄目で。
Photo by しおみわかば
美しくて寂しい冬を詰め込んだ、
自身初のウィンターソング「結晶」
―先日の1stライブで初披露された「結晶」が、11月19日にリリースされました。ストリングスや織り込まれる鈴の音でウィンターソングらしいトーンを加えつつ、低音の温もりと柔らかさを活かしたメロディとサビでのパワフルな歌唱の接続が美しい1曲だと受け止めています。改めてこのナンバーを振り返って、どのような楽曲になったと感じていらっしゃいますか。
言っていただいたように冬らしさは強く意識していて、ストリングスをはじめ、サウンド的にも納得できる形になりましたし、純粋に好きな曲ができたと感じています。あと、この曲は歌謡曲的なメロディを取り入れていて。冬のお洒落でキラキラとしたイメージに、少しレトロな要素をぶつける挑戦もできました。
―五十嵐さんはRADWIMPSやBzなどバンドサウンドを響かせているアーティストから影響を受けてきたとのことですが、歌謡曲からの影響に関してはいかがですか。
歌謡曲を歌われている方から影響を受けたというよりも、Bzだったり、サザンオールスターズだったり、昔から日本人が好んできたようなメロディを大切にしているバンドに影響されていますね。とはいえ、歌謡曲に寄せすぎることはしたくなくて。AメロやBメロは懐かしさのあるメロディを混ぜつつ、サビは綺麗なイメージで作り上げていったことで、丁度良いバランスになったかなと。
―サビのメロディラインは冬の幻想的な風景と強く重なりますが、冬のイメージをどのように紐解いていったのでしょう。
単純ですけど、冬は綺麗な季節だと思うんですよ。夜になれば街もキラキラするし、地元が雪の降る街だったので、冬になると銀世界の特別な空気が浮かびますし。あと、映画や映像で、ツリーに家族で飾り付けしていくシーンがあるじゃないですか。そういう場面を見ているうちに、冬は暖かい瞬間が生まれる季節なんだと思ったんですよね。だから、物理的にも精神的にも美しい、冬の綺麗なイメージを表現していきました。
―楽曲リリースに伴うコメントには「どうにも冬が苦手なのは、綺麗すぎる思い出が切ない気持ちを強くするから」とも書かれています。
切ない経験をした時期が冬ばかりだったこともあり、脳内に冬イコールお別れの季節みたいな図式が染み込んでしまっているんです。だから、苦手という言葉をあえて使っていて。冬が来るたびにやるせない気持ちになったり、ただ独りで「また切ない季節になったか」と感傷的になることもある。その辺は、曲に織り込めていましたかね?
―ええ。ぐっと沈み込むような奥行きのある歌唱で始まるAメロからは、コートのポケットに手を入れて黄昏れているような情景が浮かんできますし、街に漂う空気が乱反射しているみたいな美しさと儚さをない交ぜにした輝きも織り込まれていると思います。もうひとつ、本作のリリースコメントには「いつまで経っても変わらないであろう美しい記憶を形にしてみたくて、気づいたらこの曲が出来てました」という言葉もあって。
自分のことが分かっていなかったというか、冬という季節を僕自身がどう捉えているのかを理解したかったんですよね。「冬は綺麗だ」って考えも、「冬は寂しい季節だ」って思いも、感覚だけじゃなくてきちんと形にしたかったんです。あと、冬から受け取った切なさと、これまで作ってきた切ない曲はまた別の感覚だから、冬をテーマに作曲することでこれまで見せてこなかった部分を出したかったのも一因でした。
―冬に対する印象を整理するために「結晶」を書いたとのことですが、過去の作品たちについても同じなのでしょうか。ド直球な歌詞も多数ありますし、既に整頓されたものを落とし込んでいる感覚なのかと推測しているんですけど。
言っていただいたように、ストレートに吐き出した歌詞もたくさんありますが、実際に作りはじめてから「これはこういう曲なのか、どんなことを思っているのか」を改めて考え直すパターンもありました。むしろ、そうやって振り返ってきた経験があったからこそ、今回もイメージを整頓したいと思うようになったのかもしれません。
―冒頭で「本能的に自分の毒素を排出したがっている」とも語っていただきましたが、まさしくそれは自分の思考について考え直すことで。客観視するためにぐちゃぐちゃの考えを吐き出すことと、デトックスのために歌を作ることは、深く結び付いているのかなと。
おっしゃる通りだと思いますね。ボツになってしまった曲を考えてみると、歌詞がデトックスになっていないというか、自分の吐き出したい言葉がない状態なんですよ。やっぱり完全な妄想だけで、人に響く楽曲を作るのは難しくて。まとまっていなくとも自分の言いたいことを考えた上で、実体験に基づいて制作をしていかないと、なかなか納得はできない気がしています。
―先ほど冬のイメージについてもお話いただきましたけれど、これまで「蛍」や「恋花火」をはじめ、夏の楽曲もリリースされてきたわけで。冬に対して、夏はどのような季節だと考えていらっしゃいますか。
「冬と同じじゃん」と思われるかもしれないですが、夏も切ない季節だと思っていて。みんなが活気づいている中で、都合の良い関係性にハマってしまったり、しんどい関係性に囚われてしまう季節なのかなと。ただ、夏の方が、絶望度が高いというか、冬の方がまだ希望を感じられる気がしています。
―それで言うと、「結晶」も明るさや温もりを感じられる仕上がりで、冬の希望がかすかに見えている雰囲気が反映されているように思いました。
まさに。暗くなりすぎない、絶望すぎる曲にしないことは意識していたかもしれないです。やっぱり自分の冬のイメージはこの曲に込められているし、自分が聴いてみたいウィンターソングを作ることができたんじゃないかなって。
五十嵐ハル
「主人公としても救世主としてもまだまだやらなければならないことがある」
―東京と大阪でのワンマンライブ『Mr.Sentimental Vol.1』が3月に開催されます。五十嵐さんにとって初となる単独公演に、このタイトルを掲げた理由を聞かせてください。
自分が一番しんどかった時期、生きる意味に悩んでいた時期に作った「センチメンタルヒーロー」という楽曲があるんですけど、その歌が最も自分自身を表している気がしたんですよね。で、今回のワンマンでも僕の根底を表現するために、センチメンタルという言葉を使うことにしたんです。
―では、そもそも「センチメンタルヒーロー」という表題は、どのように思いついたものだったんですか。センチメンタルというワードに対してヒーローという言葉を当てがったことが、今回のワンマンライブにも、ひいては五十嵐さんが音楽を鳴らす理由にも結び付いていると考えているんですけど。
ヒーローになりたい気持ちはありながらも、どこかで無理だなと思う自分がいたんですよね。ここで言うヒーローは、救世主というニュアンスだけじゃなくて、主人公っていう意味も強くて。主人公になかなかなれないけれど、なりたがっている。そういう自分自身の葛藤を楽曲のクライマックスに詰め込んだ時、タイトルにもヒーローという言葉を入れたいなと思ったんです。だけど、僕は決してヒーローではないから。それで色々考えた末に、最も自分らしいワードとして「センチメンタルヒーロー」を選びました。
―先日のライブでは、本編最後の曲として「センチメンタルヒーロー」がセレクトされていて。オーディエンスと合唱している光景からは、五十嵐さんが誰かのヒーローになっていることを感じましたよ。
確かに、あの瞬間はなりたかった自分になれていた気もします。でも、まだ100パーセント叶ったわけじゃないので。主人公にも救世主にもまだなりきれてないとは思っているし、もっと大きな会場に立って「ここまで来れたな」と思えるまでは「自分が主人公だ」なんて感じることもないんじゃないかなと。救世主という意味でも、もっと根本的に救える音楽を鳴らしたいですし、生活の深いところにまでたどり着きたいですね。
―その理想像に向けた次なるステップが、3月のワンマンライブになると思います。改めて、どのようなステージにしたいですか。
今からセットリストを考えてしまうくらいワクワクしているので、その楽しさがお客さんにも伝わるようなライブをしたいなと。あとは、どんどんと完成度を高めて、前回以上に良いライブをしなきゃいけないとも感じていて。毎回のライブでベストを更新していきたいと強く思っています。
「結晶」
五十嵐ハル
配信中
配信リンク:https://haruigarashi.lnk.to/kessyou
五十嵐ハル LIVE TOUR 「Mr.Sentimental Vol.1」
2026年3月5日(木) 渋谷WWWX
2026年3月13日(金) 大阪JANUS
開場18:00/開演19:00
詳細:https://eplus.jp/haru-igarashi/


![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)








