マネスキンのギタリスト、トーマス・ラッジが初のソロアルバム『MASQUERADE』のリリース2日前、12月3日に開催したスペシャル・フリー・イベントは、「ロックンロールは死んだ」「ギターヒーロー不在の時代」といった世間の揶揄を一蹴して余りある、ロックンロールの復活祭だった。

ロサンゼルス・ハリウッドのロックシーンのメッカ、サンセット大通りで実に61年もの長きにわたり君臨する殿堂、Whisky A Go Goが会場だったことも、この祝祭にこれ以上ないほど完璧。
『MASQUERADE』の収録曲はまだ一つも発表されていなかったわけだが、メインストリームのロックシーンでギターセントリックなヒットソングを連発するマネスキンのトーマス・ラッジに加えて、同作のプロデューサーとしてタッグを組んだギター・レジェンドのトム・モレロ、そしてマット・ソーラム(ex. ガンズ・アンド・ローゼズ、ヴェルヴェット・リヴォルヴァー)、ニック・セスター(ジェット)、ルーク・スピラー(ザ・ストラッツ)、若手女性シンガーソングライターのアップサールというラインナップだけで、老舗ヴェニューが沸き立つことは火を見るより明らかだ。

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『あの頃ペニー・レインと』のペニー・レインのようなファーとブロンドのカーリーヘアの女性がいたかと思えば、『パイレーツ・ロック』でビル・ナイが演じた破天荒な船長クエンティンを彷彿とさせるスーツ姿の紳士風な英国人男性が、ステージ最前から人混みをかき分けてお調子者のようにジョークを話しながら何度もドリンクを買いに行く姿、ミュレットヘアに80sのグラムフェイスペイントを施した男性、若きトム・モレロのような風情をした、シャープな眼差しが印象的な黒人男性などがフロアを埋め尽くし、2階の関係者エリアも身動きが取れないほどの混雑。群衆に紛れて、スマッシング・パンプキンズのジェームズ・イハ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのマイケル・シューマンや、オーディション番組『アメリカン・アイドル』でライオネル・リッチーやケイティ・ペリーら審査員を前に披露したローファイなラップソング「STFU」で人気者となったソフィー・パワーズの姿もあった。

開演予定時刻の20時30分を過ぎ、トーマスたちの登場を待ちきれないフロアのファンが指笛を鳴らすなどしていた20時50分、地元のハードロックシーンの著名パーソナリティ、マット・ピンフィールドとアリソン・ヘイゲンドルフがペアで前説。「今夜は豪華ゲストが一堂に会するが、彼らをひとつにまとめた男が信じられないほど素晴らしいアルバムをリリースする。僕にとっては身体、精神ともに見事なロックンロールを体現するような作品で、本当に大好きなんだ」(マット)と賛辞を送ると、さらに会場のボルテージはさらに上昇する。

マネスキンのトーマス・ラッジ×トム・モレロら超一流が集結「ロックンロール復活祭」LA現地レポート

ニック・セスター(ジェット)とトーマス(Photo by Ilaria Ieie)

CO2による白煙と青紫の照明に包まれながら、間もなく21時になろうとする頃、マイクスタンドがステージ中央に設置されたのを合図に、2階からステージに繋がる階段を駆け降りるニック・セスターに続いて、トーマスが颯爽と姿を現した。観客に深々とお辞儀をするトーマス、観客と一緒に拍手をするニック。エッジーかつ重厚なギターリフのイントロが特徴的で、アルバムの冒頭曲でもある「GETCHA!」を鳴らしてショウが開幕した。トーマスの無駄を削ぎ落とした無骨なギターの音色が心のド真ん中に刺さり、グイグイ突き上げるようなグルーブに体の芯が熱く呼応する。ちなみにこの「GETCHA!」はライヴ終盤にもう一度、アウトロの長いバージョンで再演されたが、そちらのほうがニックの野獣のようなキラーボーカルの脂が乗って断然良かったのはここだけの話。

「GETCHA!」当日にWhisky A Go Goで撮影されたライブ映像

マネスキンのトーマス・ラッジ×トム・モレロら超一流が集結「ロックンロール復活祭」LA現地レポート

Photo by Ilaria Ieie

ニックと入れ替わり、ファンからの熱狂的な歓声を受けて登場したのはアップサール。
アルバムではカサビアンのセルジオ・ピッツォーノが歌う「CAT GOT YOUR TONGUE」をペルシャ猫のような気品と妖艶さをまとって披露。普段の彼女のスタイルとは異なるハードロックサウンドもしっかりと自分のものにしていたのは見事。彼女はこの日、自身の参加した「LUCY」、オリジナルではザ・プロディジーのマキシムが歌う「FALLAWAY」、そしてブロンディのカバー「Call Me」という、他の誰よりも多い4曲でボーカルを担当していた。

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アップサールとトーマス・ラッジ(Photo by Ilaria Ieie)

ライブ序盤、会場が興奮に包まれたのが、トム・モレロとマット・ソーラムが現れた「KEEP THE PACK」。500人収容の小さな会場のフロアで聴く機会などもちろん今までなかったマット・ソーラムのドラムの破壊力と、最後部にいながら立ち上がるだけでグッと前に迫ってくるような存在感に圧倒される。曲のイントロが始まると、トム・モレロは少年のような笑顔を浮かべて軽やかなステップを踏みながら、ボーカルを取るトーマスの後ろで両腕を掲げて盛り上げた。さらにこの曲のギターソロでは、十八番のスクラッチやパイプを指にはめてのタッピングなどを惜しみなく叩きつける。そんなトムとギターソロ・バトルをしながら、トーマスのポーカー・フェイスが笑顔で緩む一幕もあった。

「KEEP THE PACK」でほとんどのギターパートをトムに託していたトーマスは、続けてアルバムからもう1曲、自身がボーカルを務める「FOR NOTHING」を披露。トーマスのボーカルは彼のギターとは対照的にソフトで繊細。終始ギターをかき鳴らし続けるなか、この2曲だけは目を閉じて歌唱にウェイトを置いていたのが印象的だった。

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トム・モレロ、マット・ソーラム、トーマス(Photo by Ilaria Ieie)

そこからライブは、アルバム収録曲でデッド・オア・アライヴのカバー「YOU SPIN ME ROUND (LIKE A RECORD) 」から続くカバーソングの部へ。
今グラムロックを歌わせたらこの人の右に出るものはいないと言っても過言ではないザ・ストラッツのルーク・スピラーが登場し、ハンドクラップで観客を煽って会場は一気にダンスフロア化。マット・ソーラムのドラムが冴え渡ったレッド・ツェッペリンのカバー「Whole Lotta Love」では、ニック・セスターによる魂の叫びのようなエモーショナルな歌声、トーマスの”歯ギター”も飛び出し、ハイライトのひとつを創り出した。この曲が終わった後、ほんの数秒のあいだ会場が静寂に包まれたのは、「すごいものを見てしまった」という恍惚によるものだったと思う。

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ルーク・スピラー(ザ・ストラッツ)とトーマス(Photo by Ilaria Ieie)

ラストは再びトムがステージに現れ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの名曲「Killing In The Name」をカバー。公演後に知ったことだが、この曲にはルークも参加予定だったようだが登場せず。代わりに我々観客がトムのギターに合わせてボーカルパートを担うというまたとない好機が訪れた。トーマスにとっても想定外のエンディングだったかもしれないが、ボーカル不在で敢行することにゴーサインを出したのはバンドマスターのトーマス本人。きっと我々ロックファンへの粋なギフトになると考えての計らいだったに違いない。心血をロックンロールに捧げる男、トーマス・ラッジと、彼に魅了された人々によるロックンロールへの愛しかない空間は、一言で言って”悦楽”だった。

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Photo by Ilaria Ieie

〈セットリスト〉
1. GETCHA![Nic Cester]
2. CAT GOT YOUR TONGUE[UPSAHL]
3. LUCY[UPSAHL]
4. KEEP THE PACK[Matt Sorum / Tom Morello]
5. FOR NOTHING[Matt Sorum]
6. YOU SPIN ME ROUND (LIKE A RECORD)[Matt Sorum / Luke Spiller] *Dead or Alive cover
7. Whole Lotta Love[Matt Sorum / Nic Cester]*Led Zeppelin cover
8. Call Me[UPSAHL] *Blondie cover
9. FALLAWAY[UPSAHL]
10. THE RITZ[Matt Sorum / Luke Spiller]
11. GETCHA! (Reprise, extended outro) [Nic Cester]
12. Killing in the Name[Tom Morello] *Rage Against the Machine cover

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トーマス・ラッジ
『MASQUERADE』
発売中
日本盤CDのみボーナス・トラック収録
解説/歌詞対訳付
再生・購入:https://thomasraggi.lnk.to/Masquerade_japanRS

1.GETCHA! - With Nic Cester & Chad Smith & Tom Morello
2.KEEP THE PACK - With Matt Sorum & Tom Morello
3.LUCY - With Upsahl & Hama Okamoto & Chad Smith
4.CAT GOT YOUR TONGUE - With Sergio Pizzorno
5.FOR NOTHING - With Matt Sorum
6.YOU SPIN ME ROUND (LIKE A RECORD) - With Alex Kapranos
7.THE RITZ - With Luke Spiller
8.FALLAWAY - With Maxim
9.FOR NOTHING (Alternative Version) ※日本盤CDボーナス・トラック
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