2014年のデビュー以来、世界中のインディーポップ/ロックファンから愛されているカナダ・モントリオール出身の3人組バンド、Men I Trust(メン・アイ・トラスト)。エマ(Vo, Gt)の柔らかくしっとりした質感の歌声、ジェシー(Ba, Gt)とドラゴス(Key)が作り出すメロウでグルーヴィーなサウンド、聴く者をうっとりさせる楽曲は、リスナーのみならず多くのミュージシャンをも魅了している。


2025年には『Equus Asinus』『Equus Caballus』と名付けられた性質の異なる2枚のアルバムを発表。従来とは異なる挑戦的なサウンドを提示しつつ、Men I Trustらしいシグネチャーも共存させている。その2作を携え、約3年振りとなる来日ツアーを2026年1月に大阪・名古屋・東京で開催(名古屋公演はソールドアウト)。来日前の3人にメールインタビューを行い、最新作の制作プロセスやインディペンデントな活動を続ける理由、来日公演への思いなど、興味深い話を聞くことができた。

―あなた達は毎年のようにツアーで世界中を回っていて、常にライブが軸にあるバンドという印象があります。楽曲やアルバムの制作を主軸にして、それを披露する場としてライブ活動を行うミュージシャンも多いと思いますが、Men I Trustにとってライブ活動をどのようなものとして捉えているのかを教えてください。

ジェシー:僕たちも基本的には同じ考え方です。頻繁ではありませんが、時折リリース前の楽曲をライブで試してみて、その後にレコーディング版を作り込むこともあります。スタジオで制作した楽曲を、5人編成のライブ用に落とし込む作業は、いつも楽しい挑戦ですね。ライブでもできるだけ音源に近いサウンドになるよう、メロディやリズム、コード・ヴォイシング、各楽器の音色といった要素を分解して考え直しています。

ただし、必ずしも原曲に忠実であることが、ステージ上で楽曲を最も輝かせる方法とは限りません。そう感じた場合は、音色を変えたり、アレンジを組み替えたり、セクションを長くしたり、場合によってはパートを削ることもためらいません。
ライブアレンジは常に進化の途中にあるものだと考えています。

―2021年にリリースした『Untourable Album』はタイトルの通り、コロナウィルスの蔓延によりツアーが出来なかった期間に制作されたアルバムだと思います。ツアーで毎年世界各国を回っているあなた達にとって、ライブが出来なかったあの期間はどのような時間だったのでしょうか? また、その経験を経てからライブに対する思いに変化などはあったのでしょうか?

エマ:あの時期は誰もが本当に大変でしたが、私たちはその”立ち止まる時間”を、音楽にじっくり向き合うための機会として受け止めていました。『Untourable Album』は、まさにそうした内省的な時間の中から生まれた作品ですし、その空気感はこのアルバムのサウンドにもはっきり表れていると思います。もちろん、世界が再び動き出す兆しが見えた瞬間から、私たちはとてもワクワクしていました。早くまた演奏したくて仕方なかったんです。だから各々の国が再始動するのと同時に、たくさんの感情を胸に、すぐにツアーへ戻りました!

コロナ以前は、私たち5人だけで各地を回り、毎公演ごとに現地の照明や音響の技術スタッフと組んで問題なくライブを行っていました。ただ、ロックダウンの間に多くの会場が技術スタッフを失い、スタジオワークへ転向した方も多かったんです。そのため、ロックダウン後初めてのUSツアーでは、人手不足の会場が多く、技術的なトラブルにもたびたび直面しました(それも無理のないことでしたが)。

それ以降は、自分たち専属の照明/音響エンジニアと一緒にツアーを行うようになりました。時間をかけてクオリティも大きく向上し、より安定したショーを届けられるようになったと感じています。長年にわたって私たちと共に歩んでくださっているファンの皆さんには、本当に感謝しています。


―これまで『Forever Live Sessions』『Forever Live Sessions, Vol.2』とライブセッションを収録したアルバムを2度リリースしています。YouTubeでその収録の様子を動画で見る事も出来て、とても小ぢんまりとした空間でのリラックスした雰囲気とサウンドが個人的に大好きなのですが、ライブ音源をアルバムとしてリリースするのには何か理由やこだわりがあるのでしょうか?

ドラゴス:Jessyも話していたように、楽曲はライブで演奏を重ねるうちに少しずつ変化していきます。その過程を記録として残せるのは、とてもいいことだと感じています。いわばアーカイブを作るような感覚ですね。それに僕たちは、限られた音声入力だけで収録する、シンプルなライブセッション特有の温かいサウンドがとても好きなんです。

世界中をツアーで回ってはいますが、それでもすべての街を訪れることはできません。映像付きのライブセッションを通して、まだ足を運べていない場所の人たちにも、ライブの雰囲気の一端を共有できると思っています。

こうした映像セッションを始めた当初は、ここまで多くの方に気に入ってもらえるとは思っていませんでした。でもそこから、フィジカルで欲しいという声が寄せられたり、オリジナル音源と比較してどちらが好きかを語り合ったりするファンの姿を目にするようになったんです。コメントを読んだり、そうした反応の広がりを見るのは素晴らしい体験で、正直、想像以上でした。とても幸運なことだと感じていますし、これからもライブセッション作品を作り続けていきたいと思っています。

―日本や韓国をはじめ、アジア圏のインディーシーンをチェックしていると、Men I Trustの音楽的影響を感じる瞬間が度々あります。
ツアーでも毎回アジア各地を回ってくれていますが、アジアという地域にはどのような思いや印象があるのか。アジア各地をツアーする理由、アジアのポップミュージックへの興味などがあればそちらも含めて教えてください。

ジェシー:アジアをツアーで回り、僕らの音楽を聴いてくださっている皆さんと直接お会いできることを、心からうれしく思っています。街並みや風景、植物、文化、食べ物まで、どれも素晴らしいですよね。日本や韓国、中国を訪れると、まるで未来を旅しているような感覚になることもあります。同時に、地球の反対側に来ているにもかかわらず、ファンの皆さんと多くのものを共有していると実感できる瞬間があり、そのことにも強く心を打たれます。音楽を通じて、グローバルな文化としてつながり、コミュニケーションが生まれている。その感覚はとても美しく、ポジティブなものだと思います。

アジアのポップミュージックについては、現在の動向をすべて把握できているわけではありませんが、1970年代から90年代にかけてのアニメ音楽は、私たちのソングライティングにとって大きなインスピレーション源になっています。特に、今年リリースしたアルバム『Equus Asinus』には、その影響が色濃く反映されていると思います。

―先日、ビリー・アイリッシュのライブツアーにオープニングアクトとして出演されていました。普段のライブとはまた違った客層や雰囲気だったと思いますが、どのような経験だったのか教えてください。


エマ:幸い、これまでにも大規模な会場で、ビッグなアーティストのオープニングを務めた経験があったので、特に緊張することはありませんでした。大きなアリーナで演奏するというのは特別な体験で、ロジスティクスや技術的なセットアップだけでも圧倒されそうになります!

ビリー・アイリッシュのチームからオープニング出演のオファーをいただいたときは、もちろん即答で「ぜひ!」とお返事しました。彼女は、あの規模で活躍している現代のポップ・アーティストの中でも、私たちが心から好きな存在のひとりです。その誠実さや、あれほど若い年齢で成し遂げてきたことのすべてを、とても尊敬しています。毎晩、バンドとともに信じられないほど素晴らしいショーを作り上げていて、映像や照明も含めて圧巻でした。あれほど大規模なショーでありながら、パフォーマンスとプロダクションの完成度が非常に高く、私たち全員が強く感銘を受けました。

ツアーに参加した時点で、すでに公演はすべてソールドアウトしており、観客は完全に彼女のファンの方々でした。最初は、私たちの音楽を楽しんでもらえるか少し不安もありましたが、公演初日から観客はとても温かく、積極的に反応してくださって、その雰囲気はツアーを完走するまで変わりませんでした。素晴らしい経験でしたし、また機会があればぜひご一緒したいです。

インディであり続ける理由、最新作の背景、来日への想い

―あなた達はデビューの頃から一貫してレコード会社に所属せずインディペンデントな活動を続けていますが、その事に対するこだわりや思いがあれば教えてください。

ドラゴス:バンドを始めた当初から、そうあろうと決めていたわけではありませんでした。最初の2枚のアルバムは地元のいくつかのレーベルに送りましたが、どこからも関心を示してもらえなかったんです。
その後も音楽をリリースし続ける中で、試行錯誤を重ねながら、楽曲の配信方法やフィジカルの制作、ライブのブッキング、バンド運営のやり方を少しずつ学んでいきました。チケットブースも自分たちで担当し、ライブ会場では自ら物販を行い、ツアー中にレコードを発送しては小さな郵便局に長蛇の列を作ることもありました。古いダッジ・キャラバンにぎゅうぎゅう詰めで移動し、安いホテルで2つのベッドを分け合って、できる限り出費を抑えていました。結果的に、身軽に旅をする術はかなり身についたと思います!

インディペンデントでいることの最大の利点は、マスター音源や出版権を100%自分たちで所有できること、そして作品が完成したタイミングで迅速にリリースできることです。一方で、音楽そのものとは直接関係のない作業に多くの時間を割かなければならないという難しさもありますし、すべてを自分たちで負担する必要があるので、活動初期は特に大変でした。

現在は、長年の友人たちがライブのブッキングやツアーマネジメント、物販などを手伝ってくれています。ある意味では、私たち自身が小さなレーベルのような存在になったとも言えるかもしれません。それでも、ツアーに同行するチームは最小限にとどめていますし、知らない人たちと一緒にツアーバスで移動するスタイルに切り替えたいとは思っていません。自分たちで運転し、機材の積み下ろしも行い、親しい仲間どうしで移動することを大切にしています。レコーディングやミックス、マスタリングもすべて自分たちで行い、プレスリリースを出さずに作品を届けている点も、今も変わっていません。

―TOPSやHelena Deland、Ouriなど、カナダ モントリオールの音楽シーンにはあなた達を含めて魅力的なミュージシャンが数多くいますが、モントリオールという街の雰囲気や魅力を紹介して欲しいです。また同じモントリオール出身のミュージシャン同士の繋がりや交流はあるのでしょうか?

ジェシー:挙げていただいたバンドはみんな素晴らしいですよね。
モントリオールはフランス語話者が多い街で、地元出身のアーティストだけでなく、さまざまな国から集まった才能あふれる音楽家や表現者が数多くいます。街全体が大きな村のような感覚で、創作に関わる人たちは、何らかの形で自然とつながっていることが多いです。

近年は物価が上がってきましたが、以前はとても暮らしやすく、パートタイムで働きながらバンド活動のような趣味に時間を割くことも可能な環境でした。今でも規模感の異なるライブハウスが数多く存在しているので、キャリアのどの段階にあるバンドでも、演奏の場を見つけやすい街だと思います。

食事やバー、パーティー文化もとても充実していますし、春になると街全体が高揚感に包まれて、一気に生き生きとした雰囲気になるのも、モントリオールならではの魅力ですね。

Men I Trustが語る来日への想い、メロウな音楽を支えるDIY精神、ビリー・アイリッシュとの邂逅


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―最新アルバム『Equus Asinus』と『Equus Caballus』のタイトルは、それぞれロバと馬の学名だそうですが、そのようなタイトルにした理由はなんだったのでしょうか? また、前者は比較的アコースティックでフォーキーな楽曲、後者はポップな楽曲が中心という印象ですが、それぞれのアルバムのコンセプトやサウンドの違いについて、どのように考えて作られたのでしょうか? 2枚を別々にしてリリースした理由も含めて教えてください。

エマ:2024年から2025年初頭にかけて、私たちは共有のプロジェクトフォルダにたくさんの楽曲のデモやスケッチを録りためていました。1枚のアルバムに収めるには曲数が多すぎましたし、制作を進める中で、そこには大きく分けて2つの異なるエネルギーやスタイルがはっきりと存在していることに気づいたんです。その両方をきちんと形にして発表したいと考えました。すべてを1枚にまとめようとすると無理がありましたし、単純に1枚分には曲が多すぎたというのもあります。そこで、2作に分けてリリースすることを決めました。

『Equus Asinus』と『Equus Caballus』というタイトルを選んだのは、2作が同じ「属(genus)」から生まれた作品であることを示したかったからです。ロバと馬は異なる象徴性を持っていますが、そのイメージが、それぞれのアルバムの内容や性格とよく重なっているように感じています。

―今回のアルバムはメンバーがそれぞれの自宅スタジオで制作した楽曲を持ち寄り、その中から選抜した曲をブラッシュアップしていくというこれまでとは異なる過程で完成させた作品だと聞いています。制作過程の変化がもたらしたこれまでの作品との違いなどがあれば教えてください。

ドラゴス:実は、このやり方はこれまでとほとんど変わっていません。たいていは、メンバーの誰かがまずデモとなるプロジェクトを立ち上げ、そこにほかの全員がそれぞれのアイデアを加えていく、という形で制作しています。この方法には大きな柔軟性がありますし、全員の発想が重なり合うことで、最終的には必ず「Men I Trustらしい」サウンドに落ち着くんです。

また、こうしたオープンな制作スタイルは、私たちの音楽的な欲求とも合致しているように感じています。それぞれが最大限の余白と創作の自由を持って個別に探求できるからこそ、バンドの中で満たされ続けますし、常に「もっと作りたい」という気持ちを持ち続けることができているのだと思います。

―日本には今回の来日ツアーを心待ちにしているファンがたくさんいます。今回のライブの見どころや注目してほしいポイント、意気込みを教えてください。

ジェシー:日本を訪れることを、いつも本当に楽しみにしています。日本のオーディエンスの皆さんはとても熱心で、ライブ後に少し言葉を交わせるのも、私たちにとってはうれしい時間です。大阪、名古屋、東京の各公演いずれもほぼソールドアウトだと聞いています(※名古屋公演はソールドアウト)。本当にありがとうございます。

セットリストには、これまでのアルバムから特に愛されてきた楽曲をしっかり残しつつ、もちろんアジアでは初披露となる新曲も演奏する予定です。私たちの音楽が、これほど遠くにいる皆さんにまで届いていると実感できるのは、驚きでもあり、胸が温かくなる瞬間でもあります。おいしい日本の食事を楽しみながら、馴染みのある場所も、新しい場所も探索できるのを心待ちにしています。

Men I Trustの代表曲「Show Me How」

メイ・シモネスがツアー全公演でサポートアクトを担当

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MEN I TRUST EQUUS JAPAN TOUR
with:MEI SEMONES

2026年1月20日(火)大阪・Zepp Namba
開場18:00/開演19:00
・スタンディング:¥9,800 
・2F指定席:¥11,000
※ドリンク代別

2026年1月21日(水)名古屋Diamond Hall *SOLD OUT
開場18:00/開演19:00

2026年1月22日(木)東京ガーデンシアター
開場18:00/開演19:00
・アリーナ・スタンディング:¥11,000
・スタンドS席:¥11,000
・スタンドA席:¥9,800
※ドリンク代なし

公演詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4478
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