2025年、Spotifyは無料プランの機能を拡張し、有料プランは高音質ロスレス再生となった他、さまざまな刷新を行った。また、MUSIC AWARDS JAPANでは一般投票部門を支援し、リスナーによる投票でベストソングを決定するという仕組みを提供。
リスナーと音楽を繋ぐために成長を続けるビジョンをSpotify Japan代表取締役・マネージングディレクターのトニー・エリソンさんに訊いた。

サカナクション「怪獣」を使用したCM

―Spotifyの月間アクティブユーザー数は世界では7億人を突破し、日本でもストリーミング市場が成熟してきたように思います。2025年の日本のユーザー数の推移やエンゲージメントをどう捉えていますか?

トニー:日本に住んでいる35歳以下の人が先進国なみに音楽配信を使っているというデータが出ているのですが、それより上の層では利用率がぐっと下がるんです。でも36歳以上の人が音楽を聴かないわけではないと思っています。今40~50代の人はかつてのCD市場を支えた人たちですよね。つまり音楽愛はあるんだけど、音楽配信に対してそこまで積極的ではないということ。

今年、その層の人たちにSpotifyを使ってもらうにはどうしたらいいかという戦略を展開し始めました。その一環がサカナクションの「怪獣」を使用したCMです。会社の部長と部下がカラオケに行って、部長が「怪獣」を歌うと部下が喜ぶ。部長世代の人も若い人たちが聴く音楽を知るといいことがあり、音楽が世代を繋げるというメッセージを微笑ましい形で表現しました。日本のデモグラフはいわゆるツボ型で若年層が少なくて40代~50代の人口が多い。音楽配信市場を拡大するために、その層に注力している最中です。
可能性はまだまだあるという強い手ごたえを感じています。

サカナクション「怪獣」を使用したSpotifyブランドCM「あなたの日々に音楽を」

―Spotifyの無料プランは従来のシャッフル制限を緩和し、アーティストページやプレイリストから好きな曲を直接選んで再生できるようになったほか、検索した楽曲や友人に共有されたリンクからも即時に曲を再生可能となるなど、大幅に刷新されました。

トニー:一人でも多くの人にSpotifyを利用していただきたいと思っているので、さまざまな面でアップグレードしました。無料プランの拡充を進める一方で、有料プラン(Spotify Premium)をご利用いただいている方は音質にこだわっている方が多いと思うので、さらに満足してもらえるように高音質のロスレス再生を提供開始しました。また、リスナーとアーティストの距離が縮まるリスニングパーティーを実施したり、ミュージックビデオをはじめ映像も一緒に楽しめるような展開もあり、耳だけじゃなくSpotifyを楽しんでいただけるところを目指しています。

MUSIC AWARDS JAPANを支援、Number_iが大躍進

―新機能の話と繋がりますが、今年初開催されたMUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)では、Spotifyが一般投票部門を支援し、国内外リスナーによる投票でベストソングを決定する仕組みを提供しました。

トニー:推し活と非常に相性が良い機能だと思います。国を挙げてのアワードに一般投票部門があることで、ファンにとってアワードは自分ごとになります。

―実際に一般投票の呼びかけがSNSで活発化し、大きな盛り上がりが見られました。〈ベスト・オブ・リスナーズチョイス:国内楽曲〉1位に輝いたNumber_i「GOAT」は、その後ランキング入りするほど再生回数を伸ばしています。

トニー:ウチの家族の中では、私がNumber_iにルビーのトロフィーを渡した場面の再生回数が上がりました(笑)。自分の「推し」に投票し、それをSNSで共有してもらうことで大きな盛り上がりが作れたように思います。


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―Spotifyは長年、米グラミー賞や英ブリット・アワードをはじめ、世界的な音楽賞とパートナーシップを築いてきました。MAJの日本の音楽シーンへの影響についてどんな期待を寄せていますか?

トニー:日本で音楽シーンが盛り上がるタイミングといえば紅白歌合戦が昔から定番で、ここ20年くらいは夏フェスの季節も出演者の話題などで盛り上がるようになりました。MAJができたことによって、大晦日と夏フェスシーズン以外の盛り上がるタイミングができたわけです。来年には2回目の開催も告知されてますし、日本国内のみならず、 アジア全体とかもっと広い範囲でステータスを持つようになったら素晴らしいですよね。長期的な視点でとても期待しています。海外に日本の楽曲をもっと送り出し、国内と海外の注目を同時に集めるために、MAJサイドがSpotifyをパートナーとして選んでくれたのだと思っています。

Spotify Japanの2025年と未来へのビジョン トニー・エリソン代表インタビュー

Spotifyまとめ〈2025年に日本で最も再生された音楽〉でもNumber_iが存在感を発揮

Ado、米津玄師、藤井 風──日本の音楽を世界へ

―CDの時代は国内と国外でヒットするアーティストに開きがありましたが、現在はストリーミングの普及により、その差がだいぶ近づいてきているそうですね。2025年のSpotify〈海外で最も再生された国内アーティスト〉1位であるAdoさんの楽曲は、国内でも多く聴かれているという話も先日お聞きしました。

トニー:日本の楽曲の海外での再生回数は、前年比で20%以上増加しました。それでも、もっと海外で聴かれるためにSpotifyがやらなければいけないことはまだまだあります。最近は海外でも、ハリウッド映画より日本のアニメ映画の方がお客さんも入りやすい。日本の音楽シーンにとって非常に良い状況で、人気アニメのタイアップ曲が取れればある程度は海外でも聴かれるわけです。
K-POPに比べてJ-POPがなぜ海外で聴かれないのか」と長らく叫ばれてきましたが、それは単純に日本の音楽業界が海外をそこまで意識してこなかったからだと思います。でも今はMAJも創設されましたし、AdoさんやCreepy Nutsを成功例として、もっと海外に目を向けるようになれば、さらなるヒットが生まれてもおかしくありません。

今年Spotifyが行った施策として、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開されたタイミングで『鬼滅の刃』マルチコンテンツプレイリストを公開するというコラボレーションを実施しました。「無限プレイリスト」を開くとSpotify限定のデジタルキャラクターカードが表示されるなどの仕組みを導入し、日本発のプレイリストとして初めてグローバルにおけるデイリーアクティブユーザー数で1位を記録しました(5日間連続)。また、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』主題歌である米津玄師さんの「IRIS OUT」も海外でものすごい数の人に聴かれていますし、改めてアニメが音楽シーンに及ぼす影響力の大きさを実感しています。

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12/31以降も『鬼滅の刃』公式プレイリストは… pic.twitter.com/TWb4JcQw1L— Spotify Japan (@SpotifyJP) December 24, 2025

―その一方、藤井 風さんやXG、BABYMETALはアニメ人気とは別の角度で海外でも多く聴かれています。

トニー:アニメ主題歌でなくとも、J-POPが海外でしっかり聴かれていることの証明だと思います。日本の音楽は多様性に富んでおり、さまざまなジャンルやスタイルが充実しています。国ごとに好まれる楽曲の傾向は異なりますが、その裾野が広がることで、全体として海外でのシェアが確実に積み上がっている。そう捉えるのが実態に近いのかもしれません。

Spotify Japanの2025年と未来へのビジョン トニー・エリソン代表インタビュー

Spotifyまとめ〈2025年に海外で最も再生された国内の音楽〉

―2026年の展望はどのようにお考えですか?

トニー:Spotify Japanのミッションは、国内の需要回復と音楽業界のV字回復のきっかけを作ること、そして日本の音楽のエクスポートです。引き続きそこに精進します。
また、2026年もプロダクト面でいろいろと進化する予定ですし、最初にお話ししたように、音楽配信の市場はまだまだ広げられると思います。

その話でいうとインバウンドに紐づけて、邦楽を自分の国に持ち帰ってもらえたらとも考えています。日本のライブ会場はアリーナクラスを筆頭にどんどん新設されてますし、海外から日本にライブを見に来るお客さんの数も右肩上がりなので、Spotifyもその流れにうまく対応して、海外からの観光客にSpotifyで日本の曲を聴いてもらえるような仕組みが作れればいいなと。それもあって、Spotifyは2019年にイープラスさん、2025年にZAIKOさんやローソンチケットさんとの連携をスタートさせ、Spotifyユーザーが普段聴いているアーティストのページに国内のライブイベント情報が表示されるような仕組みを整えてきました。今後もパーソナライズされたリスニング体験だけでなく、より多くのライブを発見しやすくなるような取り組みを進めていきます。

Spotify Japanの2025年と未来へのビジョン トニー・エリソン代表インタビュー

Spotifyではユーザーの実際の聴取履歴や嗜好等に基づいて、関連性の高いライブ公演をおすすめ。アーティストのライブが発表されたタイミングで、興味のある情報がより見つけやすくなる

Tony Elison(トニー・エリソン)
米国出身。京都とアメリカで育つ。スポティファイジャパン代表取締役として、日本における戦略策定や事業運営を統括。これまでMTV、任天堂(米国)、Google/YouTube、ウォルト・ディズニー・ジャパンなど、コンテンツ/テクノロジー業界のグローバルブランドにおいて、日本、米国、アジア太平洋地域で30年以上にわたりビジネスを推進。
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