1980年にデビュー・アルバム『ギヴ・ミー・ユア・ラヴ』のリリース以降、「ヘヴン」や「想い出のサマー(Summer of 69)」(ともに84年発表)、「アイ・ドゥ・イット・フォー・ユー」(91年)、「オール・フォー・ラブ」(ロッド・スチュワート、スティングとの共演、93年)など、多数のヒット曲を持ち、世界40カ国以上で1位を獲得、6,500万枚を売り上げている、ロック界の至宝、ブライアン・アダムス(Bryan Adams)。

キャリア45年を迎えた彼が、初めて自身のレーベルBad Recordsを立ち上げ、最新アルバム『Roll with The Punches』を完成させた。
収録された全曲は、どれも躍動感と生命力に満ちあふれたロックンロールばかり。特徴であるハスキーなボーカルも、色あせるどころか、ますます燃えたぎる魂を感じさせる。先行きの見えない世界に光の道を照らすような作品になった。

このアルバムを携えて、2026年1月には自身27回目となる日本武道館公演も決定。2デイズにわたり、最新アルバムの収録曲はもちろん、キャリアを飾るヒットの数々も多数披露するという。ロックンロールが放つ情熱と感動を閉じ込めた、ブライアンの現在をご堪能あれ!

最新作とキャリア45年の現在地

―2025年でデビュー・アルバム『ギヴ・ミー・ユア・ラヴ』のリリースから45年を迎えました。あなたにとってはどんな1年でしたか?

ブライアン:デビューの年よりは、ずっといい1年だった(笑)! とにかく忙しくて、今年だけで144本のショーをこなしたよ。世界中を見て回り、曲を演奏した。でも45年やっていても「タダで楽にできる」ことなんて何一つなくて、いまだに「出てって働かなきゃならない」んだ。でも僕は前に進みたいタイプなんで、そういうのは好きなんだ。だから、今年は本当にクリエイティブな一年だった。テレビ特番もやったし、144本のライブをこなし、アルバムも出した。
他にもあったっけ? いや、もうこれくらいで十分だよね?

―(笑)。その通り、今年はアルバム『Roll with The Punches』を自身のレーベルからリリースしました。この作品はあなたにとってどんな意味を持つものになりましたか?

ブライアン:本作は、僕自身のインディペンデント・レーベルBad Recordsから出す初めてのアルバムで、日本ではソニーがディストリビュートしてくれているんだけれど。だからか、これまで以上に本気でやってみたかったんだ。僕はデビュー以来、ずっとメジャーでやってきた。でも、ユニバーサルとの契約が終わったのを機に、メジャーを離れることが新しい冒険になるかも?と思ったんだ。アルバムのタイトルも『Roll with The Punches』だしね。で、結果どうだったかというと、今のところはうまくいってるんじゃないかと思うよ。

―自身のレーベルということで、制作環境に変化はありましたか?

ブライアン:気持ちの上で、とにかく自分に作れる限りいいアルバムを作りたいと思いながら、制作をしていたよ。今の状況から判断するに、前のアルバムを出した時と比べて、同じくらいのところまで来てると思うんだ。そのくらい、前作と同じくらいいいものができたと思える。それをメジャー・レーベルじゃなく、自主レーベルでやれたっていうことは、大きな前進だったと言ってもいいんじゃないだろうか。


―今回のアルバムには、何かテーマはありましたか? 音楽という力で、世界をひとつにしようという思いが伝わってくる楽曲が多いように思いましたが。

ブライアン:実際、音楽って世界をひとつにできる力があると思う。それに、前からずっと思ってるんだけど、ソングライターや物書きは、自分の「真実」を書けなきゃいけないんだ。自分が今どんな状況にいるかを言葉にするというか。そのために、まずはきちんとした視点を持つことが大事だ。それだけじゃなく、世界がどこに向かっているのか、という視点も持つべきだと思う。その二つの視点の間にあるものが形になって、曲になる。だから僕は、自分の周りからもたくさんの影響を受けているんだ。ネットやニュースを見たり、友人から話を聞いたり……そういう情報のどこかに必ず曲のインスピレーションがあって、あとはこちらがそれを受け取る準備ができているかどうかだ。曲が降ってきたときに、ちゃんと言葉にできるようにね。

―あなたがパンチをくらっているビジュアルはとても印象的です。このビジュアルにした理由は?

ブライアン:このアルバムの、いわばcornerstone(土台)となる曲「Roll with The Punches」ができたことでアルバムは固まったので、じゃあこれにあうビジュアルを作ろうということになったんだ。
そこで最初に思いついたのは、当然ながらボクシングのイメージだった。あとはアート・ディレクターとアルバムの雰囲気にフィットする、コンセプトを考えていったんだ。ボクシングをベースにね。

―撮影裏話などあったら教えてください。

ブライアン:「Roll with The Punches」のMVは、バンクーバーにある僕のThe Warehouse Studioで撮影したんだけど、曲のパフォーマンス部分を撮り終わり、「何かもう一つやりたいな」と思ったんだ。それで、ディレクターのキースに「ロバート・デ・ニーロの『レイジング・ブル』、覚えてる? 顔をぶん殴られ、飛沫がスローモーションでブワ~っと飛ぶあれ。あのシーンを再現しようぜ!」と言ったんだ。で、やったら最高に楽しくて。結局、そのシーンもミュージック・ビデオに入ったよ。

―この楽曲は、ライブで拳を高らかにあげて大合唱したくなる楽曲ですね。どういう思いをこめて制作された曲なのですか?

ブライアン:タイトルだけが先にあったんで「どんな状況にあっても、起こることを受け入れながら前に進む(Roll with The Punches)」という曲の本質と言える部分を、マット・ラングと2人で作り上げていった。そのインスピレーションがなんだったのかと言われたら「自然と降りてきた」っていうしか言いようがない。


―アルバムのなかで、特に日本のリスナーに聴いてほしい楽曲はありますか? その理由を含めて教えてください。

ブライアン:僕としては、アルバム全部を聴いてほしいんだ。曲ごとにそれぞれ世界が成立していると思うんでね。僕が「この曲いいな」と思っても、他の人がそう思うとは限らない。だから聴くみんながそれぞれに好きなのを選んでくれればいいよ。というか、そうしてくれ。

―アルバム全体から音楽への思いがますます熱くなっているアティテュードを感じました。その情熱を持ち続けられる理由はどこにありますか?

ブライアン:情熱の源はまだ尽きないっていうか、蛇口をひねれば水が出てくるように、曲はまだどんどん生まれ、アイデアが湧いてくるんだ。それが自分にとって刺激的で楽しく感じられる限りは、レコードを作り続けるんだと思う。

―また、特徴的なハスキーボイスも変わらない輝きを放っています。それを維持する秘訣は?

ブライアン:紅茶を飲むこと。普通の紅茶、それを1杯飲むだけでいいんだ。


―体力維持はどうしてますか? ライブとなると、2~3時間に及ぶステージになることも多いと思うのですが、常にエネルギッシュなステージを披露されています。相当な体力やエネルギーが必要になると思うのですが。

ブライアン:レンズ豆をたくさん食べることだね。

―食べ物とか節制をすることも多いと思うのですが、時にチート・デイみたいに自分を甘やかす瞬間はあるのですか?

ブライアン:基本、砂糖は食べないんだ。それだけは守ってるかな。でもフルーツは好きなので、果糖はとってるけど、砂糖を使った甘いお菓子は食べないよ。基本的に、できるだけ健康的な生活を心がけている。だって、自分の身体は一つしかないわけだから。ちゃんと大事にしなきゃ損だろ?

日本と武道館への熱き想い

―さて、年明けには3年ぶりの来日公演が迫ってきました。ツアーは1年近く続いているわけですが、それをようやく日本に届ける現在の心境は?

ブライアン:また日本に戻れるのが、本当に嬉しいし、楽しみだ。日本武道館2デイズだなんて。やったぜ!(とガッツポーズ)。
27回も僕は武道館のステージに立つことになる。海外アーティストで、武道館公演の記録を持っているのは、僕の上はエリック・クラプトンらしいね。彼の記録を抜くのは難しいとは思うけど、トライはしてみるよ。

―これまでのツアーの様子からするに、ヒットパレードのようなステージになるようですが、最新アルバムからの曲は何曲披露するのですか?

ブライアン:2、3曲は演奏すると思うけれど、それ以上にはならない気がする。みんな「知っている曲を聴きたい」と思って、僕のコンサートに来るわけだからね。新作からの曲は、紹介程度にやるので十分だと思う。

「想い出のサマー(Summer of 69)」2024年のライブ映像

―ツアーを続けてきて、昔の曲で「これはやっぱりいい曲だな」と改めて思うこととかありますか?

ブライアン:というか、ライブでやると、その曲に「未来があるかどうか」って、割とすぐにわかるものなんだ。これだけ何枚もレコードを作ってきた今でも、曲を試す一番の方法はライブで演奏することだと思ってるよ。

―新作の曲だと「Make Up Your Mind」をよく演奏されているようですね。改めて、どんな曲なのか日本のリスナーに紹介してください。

ブライアン:ちょうど一つ前の質問で答えたように、録音し終えた「Make Up Your Mind」を、ライブで演るために、バンドとリハーサルで合わせた時のことさ。僕たちとしては、レコーディングの時と同じテンポで演奏してるつもりだったのに、なぜかすごく速く感じたんだ。でもそれがすごく気持ちよくて。スタジオに戻って確認したら、レコーディングしたものよりも、ライブでは6bpmも速くなってたってことに気づいたんだ。それで、またスタジオに戻り、その曲を6bpm速いテンポで録り直したっていう、そういう曲なんだ。ミュージシャンたちとバンドとしてやることがいかに大切かを再確認する出来事だった。スタジオで録るのと人前やステージでやるのは、全く別世界だ。ステージでやってこそ、その曲の本当の姿は明らかになるんだよ。

―デビュー(80年代)から応援しているファンはもちろん、最近あなたの音楽を耳にして会場に駆けつける観客も多いと思います。そういう人へ向けて、あなたのライブの特別な楽しみ方があれば教えてください。

ブライアン:こう言うよ。「ロックしようぜ!みんな一緒に!」

―日本のオーディエンスの特徴ってなんだと思いますか?

ブライアン:日本のオーディエンスのおかげで、僕は27回目となる日本武道館のステージに立てるんだ。どれだけ、彼らのことを大切に思っているかは明白だよ。それ以上、何が言える? 待ってろよ、武道館! 

―これまで何度も来日していますが、いつも楽しみにしていることは何ですか?

ブライアン:今、娘たちに、彼らの義理の母親を日本に連れて行かせてほしいと説得してるところ。前回の来日で娘たちもすごく気に入ってしまったんだ。特に新幹線に乗れたのが楽しかったらしい。とにかく、また日本に戻れるのを楽しみにしてる。数日早めに行って、少し日本を楽しんでから公演に臨もうかな、と今は考えてるところさ。

「今の政治家は情けない」

―音楽以外で、一番関心があることって何ですか?

ブライアン:今は家族と過ごす時間を持つことが一番の関心事。今年も、長いことツアーで家を空けていたからね。

―ロックスターとして人から愛されてきたわけですが、ロックスターであることと、良き父親、良き家族の一員であることの両立については、どう考えていますか?

ブライアン:決して楽なことではないよ。僕の場合、家を留守にする時間が長いからね。でも何とかうまく両立できているんじゃないかと思う。

ブライアン・アダムスが語る日本への熱き想い、キャリア45年の現在地、政治家への怒り

2023年の来日公演にて撮影(Photo by Masanori Doi)

―そんなあなたの音楽や存在から、かっこよさを感じる人が多くいますが、逆にあなたが思うかっこいい人や生き方は?

ブライアン:ロールモデルと呼べる人がいるかと言われると、正直わからないんだけど……僕のヒーローはほとんどがミュージシャンだ。でも音楽界のヒーローは自分自身に対して、責任感ある行動をとっているかと言われると、生き方も自滅的で破壊的だったりする。そういう生き方を尊敬するわけには行かない。彼らの音楽は心から尊敬してるけど。僕が尊敬するのは、Earth Heroと呼べる人たち、つまり地球のため、他の人たちのため、あるいは他のもののために立ち上がって、声をあげている人たちだ。

つい先日亡くなったジェーン・グドールもその1人だし、グレタ・トゥーンベリのような平和活動家、もしくはケン・ニーデマイヤーもそうだ。彼はサンゴを育て、また海に戻す活動をしている。そうやって、ポジティブな方法で地球を前進させるのに一役買っている人たちが、世界中には大勢いて、彼らからは大きなインスピレーションをもらうよ。ところが政治家となると、残念ながらほとんどいない。皮肉なのは、政治家こそ、人々のリーダーとなって物事を前に進め、責任ある態度で手本になる立場にいるはずなのに、今の政治家を見てると、情けないとしか言いようがない。手本になるどころか……娘たちに「この人を見てごらん。世界のために、平和のために、こんなに頑張っているよ」と言える政治家はどこにもいないんだ。世界に尊敬すべき個人はいるけれど、その中に政治家は含まれていないね。

―政治家の話が出ましたが、今の政治に関して思うことはありますか? 世界中を見ると色々とありますが……。

ブライアン:ひどいよ。見るに堪えないくらいだ。なんでこんなにもひどい世の中になってしまったんだろうと思う。無責任で、目先のことしか考えていない人間ばかり。大きすぎる問題だと思う。一言で言うなら、がっかりさせられることばかりだ。政治家にはがっかりさせられるとしても、僕らはそれを交わしながら、前に進むしかない(Roll with The Punches)んだ。

「ヘヴン」2005年のパフォーマンス映像

―最近よく聴いている音楽はありますか?

ブライアン:うーーん、特にないかなぁ。聴いて「これはいいな!」と思えるアーティストがいたなら良かったんだけど、思い浮かばないんだ。正直な話、僕の家では音楽は一切流れていなくて、静かなんだ。流れる唯一の音楽は、僕が弾くギターくらい。ツアーで一日中、音楽を浴びているから、家に帰ると音楽は聴かない。曲が降りてくるのを待っているのでね。

―新作に、他の人の音楽からの影響はありますか?

ブライアン:僕はヘヴィなロックを聴いて育っているし、自分よりも年上の世代の音楽やアーティストは、一通り全部、人生のどこかのタイミングで聴いてきたと思う。なので、その影響はあるにはあるだろう。特定の誰か1人、という影響はないけどね。

―2026年に向けて、望むことを教えてください。どんな1年にしたいですか?どんなキャリアを重ねたいですか?

ブライアン:まずはRolling Stone Japanで僕のインタビュー記事を読むのを楽しみにしている! あとはツアーを楽しみにしているよ。南アフリカ、南米、アジア、そしてもちろん日本……これがすべて2026年7月までのスケジュールだ。そのあとにはラスヴェガスで『The Bare Bones』というアコースティック編成のライブがあって、秋には短いカナダ・ツアー、そのあと大々的なヨーロッパ・ツアーに出る。そしたらまたクリスマスだ。余分なマイルがある人を探しているんだったら、僕に連絡をくれ(笑)!

ブライアン・アダムスが語る日本への熱き想い、キャリア45年の現在地、政治家への怒り

ブライアン・アダムス ROLL WITH THE PUNCHES TOUR 2026
2026年1月26日(月)東京・日本武道館
2026年1月27日(火)東京・日本武道館【追加公演】
2026年1月28日(水)Asueアリーナ大阪
18:00開場/19:00開演
チケット料金(各税込):S席 ¥20,000/A席 ¥19,000
公演ページ:https://udo.jp/concert/BryanAdams26
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