新日本プロレスで活躍するイングランド出身のザック・セイバーJr.の2025年プレイリストには、厳選された150曲が収められていた。UKアンダーグラウンドの電子音楽からアンビエント、ポストパンク、シューゲイザー、グライム──ジャンルを横断しながら、その選曲眼はどこまでも鋭く、深い。
試合後の深夜、渋谷や表参道のベニューで音を浴び、移動のバスや飛行機ではアンビエントに癒される。静と動。その振り子のような日常のリズムが、そのまま彼のプロレススタイルにも宿っている。

【リストを見る】ザック・セイバーJr.が選ぶ2025年のベストソング

2024年、G1 CLIMAX制覇からIWGP世界ヘビー級王座を獲得し、キャリア最高の高みに立った男は、しかし安全策を取らない。そのアティチュードについて、「ヒットした1stアルバムの後に実験的な2ndアルバムを出すアーティストのように」と彼は言う。メインストリームに迎合せず、自らのスタイルを押し進める。14歳でプロレスの世界に足を踏み入れた少年が、同時期にのめり込んだインディーミュージックから学んだ「自分に正直であれ」という哲学は、38歳になった今も揺らぐことがない。2025年の1.4東京ドームのメインイベントで鳴り響いた入場曲は、長年リスペクトしてきたMechatokとkamixloによるリミックスだった。音楽とプロレス、二つの世界が最も美しく交差した瞬間だった。

ザック・セイバーJr.が語る2025年の音楽体験と、プロレスラーとしてのこれからの旅路──。

─1年前に自身のユニットであるTMDKとしてご登場いただいたインタビューで、ザック選手のコアなミュージックラバーぶりが判明しまして(笑)。今年はさらに深くザック選手と音楽の関係性を語っていただくためにご登場いただきました。
そして、今回、2025年のプレイリストを見せてもらってあらためて驚いたのは、その量と深度です。音楽好きを自称する人でも知らないようなアーティストと楽曲がずらりと並んでいます。

年が明けると、その年にリリースされた曲で気に入ったものを片っ端からプレイリストに放り込んでいくんだ。それが気づいたら312曲になっていた。今回の企画で「100曲くらいがいいかな」と思って絞ろうとしたんだけど、どうやっても無理で。結果的に、150曲。半分にするだけでも相当な我慢だったよ(笑)。

─すみません!(笑)。DJのプレイリストを見ているような壮観ささえありました。ジャンルの横断の仕方も、掘り方も。

歳を重ねるにつれて、エレクトロニックミュージックへの傾倒が強くなっている気がする。理由のひとつは単純で、試合が週に5回、6回とあると、普通のライブには行けない。
でもDJやエレクトロニック系のアーティストのライブは深夜にやることが多いから、試合後でも間に合う。自然とそちらに足が向くようになったね。

─東京ではどのあたりに?

渋谷のO-EASTや表参道のVENTに行くことが多いかな。あとFORESTLIMITという幡ヶ谷の小さなライブハウスでも、すごくいいアクトを観たことがある。

─クラブで踊るというより、ライブを観に行く感覚が強い?

そう。ロックバンドのライブと同じ感覚で、この人の音楽を聴きたいから行く。知らない場所に踊りに行くのとは違うね。友人と一緒に行くことも多いけど、みんな好みが違うから──ロック好きの友達とはロックのライブに行くし、エレクトロニカが好きな友達とはそういうライブに行くという感じ。

─UKや欧州のアンダーグラウンドな電子音楽、アンビエントやドローン、ポストクラシカル、ポストパンクやシューゲイザー、現行のインディーバンド、グライムやUKドリルなどなど、本当にコアなプレイリストになってますが、内省的かつ静謐な曲が多いのも印象的です。

アンビエント系の音楽やシューゲイザーなど、攻撃的ではない音楽も好きで聴いている。ただ、トレーニングや試合前はもっとエネルギッシュな音楽が必要になる。一方で、移動時間が多いからね。
バスや飛行機での移動中が一番音楽を聴いている時間で、そういうときはアンビエント系の音楽に癒される。

─一日中、音楽に触れているという感じですか?

そうだね。朝起きたらすぐに何かをかける。寝る前も聴いている。ニュースを見るときは音声を消して、字幕を読みながら音楽を流していることもある。まさに一日中、音楽に包まれている生活。試合の10分、15分前、ウォームアップやストレッチをしながらも聴いている。特に試合前はテクノが多いかな。

─プレイリストの静と動の両面が、そのままザックさんの日常のリズムに対応している。

そうかもしれない。その二つは常に並行して存在している。

ザック・セイバーJr.が語る、2025年プレイリスト150曲──音楽が宿るプロレス哲学

©新日本プロレス

音楽とプロレスが最も接近した瞬間

─今年、音楽とプロレスが最も接近した瞬間はどこでしたか?

1.4東京ドームの入場曲だと思う。
Mechatokとkamixloという、以前から好きだった2人のアーティストが僕の入場曲をリミックスしてくれた。もともとは彼らの音楽のファンとして知り合って、数年前に「いつか機会があれば入場曲で一緒にやれたらいいね」という話をしていた。2025年の1.4が僕にとって初めての東京ドームのメインイベントで、入場演出を最大限に活かしたいと思ったときに、彼らのことが頭に浮かんだんだ。Mechatokはアルバム制作の最中だったけど、それを終えてすぐに作ってくれた。本当に感謝している。

─近年、どんどんミュージシャンの友人が増えている?

僕がプロレスに関わってきた間に、プロレスと音楽の世界の壁は確実に薄くなっていると感じてる。日本だけでなく、欧米のシーンでもそう。ミュージシャンとレスラーは、パフォーマンスの内容は全く違う。でも「何かを成し遂げようとする旅」であったり、「ツアー生活のリアル」という部分で一致するところが多い。毎日違う街に行き、違うホテルに泊まり、会場に何時間も前に到着して待つこと。そういう部分で強く共感し合える。大変なことも、素晴らしいことも、お互いに理解できるんだ。


─去年のインタビューで、Barkerの「キックドラムのないテクノ」が好きだと話してくれました。それは、ザック選手のプロレス哲学と通底する部分もある、と。あれから1年、プロレスに対する考え方に変化はありましたか。

自己分析は難しいけど、この2年間はキャリアで最も成功した時期だった。東京ドームのメインイベント、IWGP世界ヘビー級王座という世界最高峰のタイトルの獲得、海外の大きな会場での試合。でも、音楽で言えば、ヒットした1stアルバムの後に、安全策を取らずに実験的な2ndアルバムを出すアーティストがいるよね。僕もそれに近いことをやろうとしている。より広いファンを獲得するために自分のスタイルを単純化することはしたくない。むしろ自分のスタイルを押し進めたい。それは、一般的な「プロレスとはこういうもの」という概念とは違うかもしれないけど。例えば今回のプレイリストに入れたJames Massiah。

彼はUKヒップホップやグライムのシーンに属しているけど、プロダクションや音楽の作り方がそのシーンの他とは全く違う。
あまりにレフトフィールドで、技術的にはそのシーンの一部なのに、ほとんど別物に感じる。僕もプロレスの世界の中でそういう存在でありたい。

─ラップでいえば、KNEECAPも入っていますね。北アイルランドの、アイルランド語でラップするグループで、2025年は本人たちが出演する半自伝的な同名映画も日本で公開され話題を呼びました。

アイルランドの友人から数年前に「このグループをチェックした方がいい」と教えてもらって、ずっと聴いている。映画は日本公開前に飛行機で観たよ。あの映画も大好きだよ。バンドの結成過程を少しコミカルに脚色した擬似的な伝記映画だよね。すごく楽しかった。彼らはUKとアイルランドの音楽シーンを象徴するような存在だと思う。もし30~40年前だったら、パンクバンドだったんじゃないかな。アウトスポークンで政治的な姿勢がありながら、同時にすごく楽しい。真剣なメッセージを持ちながら、ユーモアのセンスも忘れていないのがいいね。プレイリストの中で、KNEECAPの曲はおそらく今年いちばん試合前に聴いた。闘争心を掻き立てられるから。

─ちなみにプレイリストに入っているJim Legxacyの曲(「'06 wayne rooney」)には、三沢光晴さんの技「タイガードライバー91」がそのまま曲名になっているものがありますね(「tiger driver 91」)。

Jim LegxacyをはじめUKには本当にエキサイティングな若いプロデューサーがたくさんいる。プレイリストに入れた曲を普通に聴いていたときに、その他の曲で「タイガードライバー'91」というリファレンスがあるのに気づいて驚いたよ(笑)。音楽とプロレスが自然に交差している感覚があったね。アメリカのメインストリームのアーティストがWWEをリファレンスするのはわかる。それは世界最大のプロレス団体だから。でも、Jim Legxacyはアンダーグラウンドなイギリスのプロデューサーで、タイガードライバー91はかなりマニアックな日本のプロレス技の参照だ。それを見つけたときは「このアーティストをリスペクトする」と思ったね。

─Jim Legxacy がプロデューサーとして関わっているFred again..やCentral Ceeの方がメジャーな存在ですが、Jim Legxacyをフィーチャーするのがザック選手らしいです。

もちろん、Fred again..も大好きだよ。音楽ファンとして、プロレスラーがウォームアップやトレーニングについて聞かれるのと同じように、僕はアーティストがどうやってレコードを作るのか、どうコラボレーションするのか、特にプロデューサーがどうやって自分の音楽をリリースするようになったかに興味がある。Fred again..のような存在が、何年も他のアーティストのために音楽を作っていて、突然世界のトップDJになる──その過程に惹かれる。

ザック・セイバーJr.が語る、2025年プレイリスト150曲──音楽が宿るプロレス哲学

©新日本プロレス

「若い頃に触れた音楽が、自分自身に忠実であり続けることを後押ししてくれたと思う」

─今年、DDTの両国大会ではザック選手とクリス・ブルックス選手との試合がありました。ザック選手は試合中の映像演出も含めてDDTのスタイルに自ら入っていきながら、自身のプロレスも貫いていた。今の話と繋がる部分があるように感じます。

それは意識的にやっていた部分はある。今の僕は、いわゆる「メジャー団体のレスラー」という立場にいる。だからDDTのような団体に行くときは、そこへの敬意を示したかった。「DDTが何であるか」を知っていること、なぜそこに関わりたいのかを示すこと。もちろん自分のスタイルはどこにいても貫くけど、その環境に適応し、リスペクトを示すことが重要だと思っている。

─音楽でもプロレスでも、インディーへのリスペクトがある。

成功や名声のためではなく、純粋な情熱から何かを追求している人々には常に敬意を感じる。僕がプロレスの世界に入ったのは14歳のとき。同時期にメインストリームではない音楽にのめり込み始めた。その二つは常に並行して成長してきた。今好きなジャンルの音楽、やりたいプロレスのスタイル──若い頃に触れた音楽が、自分自身に忠実であり続けることを後押ししてくれたと思う。2000年代初頭、欧米のプロレス界は大きな選手が派手な技をやるスタイルが主流だった。僕のスタイルとは全く違う。でも、聴いていた音楽が「自分に正直でいろ」と励ましてくれた。

─その感覚を具体的に言うと?

高校時代、友人にポストロックを紹介したとき、「ボーカルがない、歌詞がない、退屈じゃないのか?」と言われた。プロレスでも同じことを言われる。「技を出さないのか、飛ばないのか、テクニカルな関節技だけでいいのか?」と。でも、それが僕のスタイルだ。

─プレイリストにはHomie Homicideも入っていますね。東京を拠点にしているインディーバンドです。

共通の知り合いがいて繋がった。彼らのEPは今年のお気に入りの一つで、日本の若いバンドの中で最もエキサイティングな存在だと思っている。明らかにUKのシューゲイザーやポストパンクからインスピレーションを受けているのがわかるけど、それでも「日本っぽさ」がある。僕自身も同じような立場かもしれない。UKのプロレススタイルがベースだけど、14年間日本で生活してきたから、日本のプロレスの風味が自分のスタイルに入り込んでいる。その二つのブレンドが面白い。

─東京のインディーシーンどう見ていますか?

東京の音楽シーン全体がとても面白い。選択肢が本当に多い。数十人しか入らないような地下のベニューでアンダーグラウンドのノイズアクトを観られる一方で、道を挟んだ向かいには1000人入る大きなライブハウスがあったりする。日本には、どんなジャンルでも小規模なイベントを開催できる自由がある。欧米では、スペースが巨大すぎるか、そのジャンルの音楽に人が集まらないかで、イベントを開催すること自体が難しくなっているように感じるんだ。東京では、好きなスタイルがあれば選択肢がある。プロレス団体もそうだよね。いろんなスタイルが選べる。

─2024年は「G1 CLIMAX」での優勝からIWGP世界ヘビー級チャンピオンになり、一度失いましたが、奪還もした。そして、11月にそのタイトルを失った後も、天龍プロジェクトでの藤波辰爾選手というレジェンドとのシングル、そしてDDTへの参戦など、様々な場所で試合をしていました。

普通ならプロレスラーとしての章の終わりに感じるかもしれないけど、僕にとっては自分を試し、より広い日本のプロレスシーンに浸る重要な機会だった。僕にとって日本は14年目になる。新しい環境に挑戦し続けること、自分自身に緊張感を持ち続けることが大事だと思っているよ。

─今年はフィリピン、シンガポール、タイでも選手のトレーニングを担当したそうですね。

そう。プロレスへの情熱はあるのにリソースが限られている、経験豊富なレスラーが少ない、スポットライトが当たらない。そういう場所をサポートしたい。新日本プロレスのレスラーとして、新日本を代表しながら、日本国内の他の団体や、アジアでプロレスが成長している地域にスポットライトを当てることが目標だ。フィリピンには2回しか行っていないのに、「2回しか会っていないのに、昔からの友人のようだ」と言ってもらえた。小規模だからこそ、自分の支援が直接的なインパクトとして感じられる。それがすごく嬉しいよ。

─現地の音楽には触れましたか?

フィリピンの友人たちが「プレイリストを送る」と約束してくれている。まだ待っているところだよ(笑)。2025年2月か3月にはチリでの試合もある。そういう機会を活かして、その国で何が流行っているのか、どんな音楽シーンがあるのか、自分の目で見たい。ローカルの音楽を知ることは、その文化の脈拍を感じる良い手がかりになると思う。

─2026年のビジョンを聞かせてください。

今年はIWGP世界ヘビー級王者として始まり、「WORLD TAG LEAGUE 2025」の優勝で終わった。タッグのベルトを狙うつもりはなかったから、これも新しいチャレンジだ。タッグマッチというのはプロレス独特のもので、他の格闘技やスポーツにはほとんどない形式。キャリアを通じてシングルに集中してきたけど、タッグレスリングで成長し学べる部分がまだある。タッグパートナーである大岩陵平との関係では、彼は将来すごいスターになると思っているから、その成長をサポートするのが個人的なプロジェクトになるね。

─タッグリーグの試合を見ていても、大岩選手をサポートする気持ちが伝わってきました。

誰かの成長を自分の目で見届けられることは、最近すごく嬉しく感じている。子どもの成長を見るような──とは言いたくないけどね。そんなに歳を取ったわけじゃない(笑)。

─新たな音楽との出会いについてはどうですか?

プロレスで新しい国に行く機会を活かして、その土地の音楽シーンを理解したい。聴いたこともないジャンルと出会いたい。来年のプレイリストがさらに広がることを楽しみにしている。

─来年のプレイリストは400曲を超えるかもしれない(笑)。

それはあるかもしれない(笑)。僕もすごく楽しみにしているよ。

ザック・セイバーJr.が語る、2025年プレイリスト150曲──音楽が宿るプロレス哲学

©新日本プロレス

ザック・セイバーJr.が語る、2025年プレイリスト150曲──音楽が宿るプロレス哲学


WRESTLE KINGDOM 20 in 東京ドーム

2026年1月4日(日)14:30開場 16:00開始
■東京ドーム
■特設サイト:https://wrestlekingdom.njpw.co.jp/

”イッテンヨン”として知られる、新日本プロレス年間最大のビッグマッチ「WRESTLE KINGDOM」。”100年に一人の逸材”棚橋弘至の引退試合、そして元東京オリンピック柔道男子100kg級金メダリストであるウルフアロンのデビュー戦が行われるメモリアルな大会。棚橋弘至の引退試合の相手は、AEW所属のオカダ・カズチカに決定。今大会は1月4日(日)夜10時15分より、テレビ朝日系列地上波にて全国ネット放送される。

ザック・セイバーJr.が語る、2025年プレイリスト150曲──音楽が宿るプロレス哲学

©新日本プロレス

>>記事に戻る
編集部おすすめ