2013年、筆者と本誌は音楽ファンに向けて「ライブ会場では最低限、人間としての礼儀を保とう」ということを改めて言う必要があると勝手に判断した。別に酒を飲むなとか、踊るな、楽しむなと言いたかったわけじゃない。ただ、周りにいる他の観客をうんざりさせるような、度を越した迷惑行為はやめてくれと言いたかっただけだ。
残念ながら、世の中は聞く耳を持たなかった。むしろ、2025年の終わり──ねじ曲がったディストピア地獄みたいな世界を生きている私たちからすると、2013年はむしろ牧歌的で、きちんとした時代にすら思える。携帯電話は当時だって目新しいものではなかったが、それでもほとんどの人は、スマホが24時間365日、手に外科的に縫い付けられていなかった時代を少なくとも覚えてはいた。インスタはまだ目新しく、TikTokは中国共産党の頭の中にかすかな閃きとして存在する程度。しかもパンデミックはまだ、外出するときに私たちが守っていた基本的な社会規範を奪い去ってはいなかった。
だからこそ、私たちは改めて「ライブでの正しい振る舞い」をまとめた新しいリストを作った。いくつかは昔のルールをアップデートしたものだし、ほかはこの12年で私たちが経験してきた変化を反映したものだ。そしてもちろん、全員がこれに賛成するとは思っていない。「堅物でダサい奴らだ」「もっと楽しみ方を学べ」と言う人もいるだろう。
■おしゃべりはバーでやれ。知らないオープニング・アクトの最中だとしても
どんなライブに行っても、客席を見渡せばいろんな人がいる。年齢もノリも服装もバラバラだ。だけど共通点はひとつ。私たちはこのライブのチケットを買って、ここにいるということ。つまり、音楽を聴きたいんだ。あなたの会話を聞きたいわけじゃない。
オープニング・アクトが好みじゃないとか、特定の瞬間が退屈だと感じるなら、ロビーやコンコースに移動して、ドリンクでも頼んで、好きなだけ喋ればいい。ただお願いだから、席に居座ったまま音楽にかき消されないように、互いに叫び合うのだけはやめてくれ。全部聞こえてる。
(それにカクテルを何杯か飲んでしまうと、自分がどれだけ大声なのかまったく分からない。でもね、あなたは本当に、本当にうるさいよ)
■クラウドサーファーを助けろ。手は上げておけ
たとえばタンゲルウッド・ミュージック・センターでジェームス・テイラーを観るとか、ウェストゲート・ラスベガス・カジノ&リゾートでエンゲルベルト・フンパーディンクを観るとか、そういう場ならこの話は関係ない。だが、若い連中でぎゅうぎゅうのクラブで、誰かがモッシュを始めたりしたら、ちゃんと人として手を貸そう。
両手を上げて、クラウドサーファーのほうに寄り、危険なところへ落ちないように安全な方向へ導く。簡単じゃないし、うっかり頭に蹴りを食らう可能性だってある。でも、だからといって放っておけば、可哀想な誰かがコンクリートに頭をぶつける羽目になる。それだけは避けたい。誰だってそんな光景は見たくないはずだ。クラウドサーファーに関わりたくなければ、場が荒れてきた時点でフロアの後方へ下がればいい。
■前に割り込むな。暗黙のルールを尊重しろ
オールスタンディングの公演では、開演直前に照明が落ちたその瞬間、必ず一人か二人、前方に割り込んでいくクソ野郎が現れる。そいつらは、自分の前にいる人たちが良い場所を確保するために何時間も待っていたことなんて、心底どうでもいいと思っている。
もしそれを目撃して、あなたに勇気があるなら、相手が通り抜けにくい位置を取ってブロックしてやれ。さらに勇気があるなら、「お前はピットの神聖な掟を破ってる」と言ってやってもいい(ただし、言い方はもう少し工夫したほうがいいかもしれない)。
そして何より大事なのは、あなた自身が押しの強い嫌なやつにならないことだ。良い位置で観たいなら、早く来よう。それだけの話。
■ライブ中にsetlist.fmを見るのをやめろ
Phishみたいに日替わりで曲順を入れ替えるタイプのアーティストもいれば、レディー・ガガみたいにツアー期間中ほぼ同じセットを貫くアーティストもいる。事前に何をやるのか知りたいなら、setlist.fmがちゃんと用意されている。好きなだけ見ればいい。
でも、ひとたびライブが始まって、周りに「まだ見てない」人がいるかもしれない状況になったら、あのクソみたいなサイトを見るのをやめてくれ。
多くの人を代表して言うが、僕は次に何が来るのか知りたくない。仮に何週間も前に一度見ていたとしても、曲順を暗記してるわけじゃないんだ。頼むから、驚く権利を残してくれ。
■ステージに物を投げるな
わざわざ言わなきゃいけないことだろうか? 演者に向かってビール瓶を投げるな。硬貨を投げるな。デモテープだろうが、手書きの手紙だろうが、投げ込むのをやめろ。正気か? 頭おかしくなったのか?
(2004年には、デヴィッド・ボウイに向かって誰かがキャンディを投げて、よりにもよって利き目に直撃させたことがある。ボウイは痛みと驚きで悲鳴を上げた。
■座る/立つタイミングに気を配れ
2013年の前回も書いたことだが、これは繰り返す価値がある。指定席のあるコンサート、とりわけ視界があまり良くない劇場で観る場合、後ろの人がちゃんと見えるよう配慮するのはあなたの責任だ。
もちろん、客席全体に怒りを向けるのは違う。でも、周りの大多数が座っている状況で、自分ひとりだけ立ち上がって人の視界を遮るようなことはやめてほしい。今ちょうど大好きな曲が始まって、踊りたい衝動に駆られているのは分かる。けれど、それだけの価値はない。
ひとつの目安として、「ステージが完全に見えているなら、座ったままでいろ」というルールがある。あなたが楽しいからといって、もっと条件の悪い席にいる大勢の人を怒らせるべきではない。
(この項目については意見が分かれるだろう。「好きなときに立てばいい」と考える人もいる。でも、長時間立っていられない年配の人や、後ろの人に迷惑をかけたくない人のことも想像してほしい)
■画面の明るさは下げろ。フラッシュは切れ
理想を言えば、ライブ中にスマホをいじる必要なんてない。
それと、撮影するなら最低限フラッシュはオフにしろ。周りの人が眩しくて迷惑なだけじゃなく、演者本人の気も散ることが多い。
■動画も写真も撮るのをやめろ!!!
このリストの他を全部無視してもいいから、せめてこれだけは読んでほしい。僕らは一日中、画面を見続けている。ライブは、それを置いて「現実に起きていること」を体験できる貴重な機会だ。
なのに、どういうわけか本当に理解できないことに、会場のかなりの割合の人が、顔を上げて自分の目で見る代わりに、ちっぽけなスマホ画面越しでライブを観たがる。目の前で”スーパーHD・50万K”の現実が展開されているのに、わざわざそれをミニ画面で鑑賞するなんて。しかも最前列でも平気でやる。お金を払って観に来た演者が、目と鼻の先、ほんの数センチの距離にいるのに。はっきり言うが狂ってる。
もちろん、彼らは写真や動画を撮っている。でも、そのほとんどは出来の悪い写真・動画で、たぶん一度見返したらそれっきりだ。スマホをポケットに突っ込め。ライブを観ろ。たった1~2時間くらい、いまこの瞬間に生きろ。昔はいつもそうしていた。もう一度できるはずだ。
(分かってるよ。これが時代遅れの老人みたいな戯言だって。でもそんなの知ったことか。バカげたスマホが僕らの脳を溶かしてるんだから、誰かが言わなきゃいけない)
From Rolling Stone US.


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