TVアニメ『Fate/strange Fake』オープニングテーマとして、MAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyと10-FEETのTAKUMAをゲストに迎えたニューシングル『PROVANT』を完成させた澤野弘之。今回のインタビューではその新作についてはもちろん、作家活動20周年を迎えた2025年を振り返りつつ、この先の「自分だからこそ築ける道をつくっていきたい」というヴィジョンについてもがっつり語ってもらった。
改めて澤野弘之の音楽家としての魅力と飽くなき探究心を感じられるテキストになった。

―2025年は澤野さんにとってどんな1年になりましたか?

2025年は作家活動20周年を迎え、SawanoHiroyuki[nZk]としても10周年の記念ライブがあって、西川貴教さんやスキマスイッチさん、岡崎体育さんなどゲストの皆さんに参加してもらって特別なステージができたことは感慨深かったです。そこから数カ月後に澤野弘之名義で活動20周年のライブを開催したのですが、アニプレックスとのコラボレーションという形で久々にオーケストラを抱えた形で劇伴の曲をライブでやれたので、そこでもすごくやり甲斐のある貴重な時間を過ごせました。それらを今年いっぺんにやれたのはよかったですね。

―LAでのライブもありましたよね。

2023年に僕がプロデュースしているSennaRinがニューヨークのアニメイベントに出ることになって、一緒に出演する形で行ったんですよ。それが初めてのアメリカでのライブだったんですけど、そのときにお会いしたアメリカ側のソニーのスタッフの人たちも含めて「澤野弘之名義でもアメリカでライブをやってみませんか?」という話が出たんです。それで「需要があってできるんだったら、どこかでやれたらいいですね」と話していたら、その2年後の2025年に実際にLAでやることになったんですよね。1曲1曲に対するお客さんの反応も温かかったし、とにかく楽しいライブになりました。

―上海でのライブも大盛況だったと以前伺いましたが、アメリカにも澤野さんの音楽ファンがしっかり根付いているんですね。

アメリカもやっぱり『進撃の巨人』をはじめ、アニメ作品の影響が本当にすごいんだなと改めて感じました。そうでなきゃ、あれだけの人が集まってくれることもなかったと思いますし。
今回のライブはアニメの映像を背負ってやるものではなかったので、そういう状況にも関わらず、僕の音楽を聴きたいと思って来てくださったことはすごく有難かったです。音楽だけで演奏しているけれども、たぶん聴いている人たちは意識的にそのアニメたちが存在しているからこそ楽しめていると思うので、改めてアニメ作品に関わる音楽をいろいろな形でつくってこられてよかったなと思いました。

―そんな着々と海外展開の機会も増えている澤野さんですが、20周年を迎えられたことに対する感慨って何かあったりしますか?

振り返ってみると「こういう流れがあったからこそ、今の自分があるんだな」と。例えば[nZk]でこれだけいろんなゲストボーカルをフィーチャーできるようになったのも、あるタイミングでそれを試みたからこそだと思いますし。なので、感慨深くなろうと思えば感慨深くはなれるんですけど、基本的には前を見ていたいんですよね。現状に満足しているわけじゃないというか、もっといろんな人に多くの音楽を届けていきたいし、それに向けて自分がどういうことをやっていくか。20周年を迎えた今もそこを一番に考えているんですよ。常に自分が新しくつくる音楽に目を向けている。なので、感慨深さはちょっとありながらも、ここで得たものを次にどう繋げていくかという意識のほうが強いですね。

―実に澤野さんらしい返答ですね。

逆に言うと、20年経った今……これはネガティブな考えに捉えられちゃうかもしれないんですけど、アーティストって意外と20年目までにつくってきた音楽が重要だったりするというか、ライブをやるうえでもお客さんたちが求めている曲って10年目、20年目ぐらいまでの代表曲だったりするんですよね。もちろん新曲がどうでもいいということではないんですけど、その代表曲の影響力がどうしても強くなってしまう。
で、自分も20周年を迎えるところまで来てしまったと。ただ、僕の場合は、運良くアニメ作品を通して知ってもらえた曲はいくつかあるかもしれないけど、この20年でめちゃめちゃ大ヒットした曲があるわけじゃないし。例えば、僕も影響を受けた小室哲哉さんやCHAGE and ASKAさんみたいに「このアーティストと言えば、この曲!」というものがポンポン出てくるわけではないので。であれば、僕はまだまだこの先でそういう曲を残すべくトライしていかなきゃいけない。それもあって「次にどう繋げていくか」という意識が強いんだと思います。

―たしかに、新曲よりも10年目、20年目ぐらいまでのヒット曲をリスナーは求めてしまいがちですよね。でも、澤野さんは自身の追及したい音楽で着実にファンを増やしつつも、20年目以降にもっと求められる音楽=ヒット曲を生み出そうとしている。だからこそ、ゆっくり振り返っている場合ではないというか。

もちろん振り返って「有難いな」と思うことはたくさんあるんですけどね。書籍を出すこともあって、自分のことを振り返っていろいろ客観的に考えたりもするんですけど、あくまで自分の道。自分だからこそ築ける道をつくっていきたい。それを目標として掲げてはいるんですけど、自分の性格的に「憧れてきたアーティストは何をやっていたか」というのを気にしているんですよね。
そこと同じレールを進んでも意味がないと分かっているからこそ、自分の道を進もうとしている。でも、まったく対比しないかと言うと、なんだかんだで「ASKAさんはこの歳でこういうことをやっていたんだよな」とそのアーティストの人生を調べて知っているから、客観的にそういう見方をしちゃうところがあったりするんだと思うんです。

―ゆえに小室哲哉さんで言うところの「Get Wild」とか、CHAGE and ASKAさんで言うところの「SAY YES」とか、そういう誰もが知るレベルのヒット曲を澤野弘之だからこそ築ける道の先で生み出したい?

そうですね。そういうところを目指していないと、逆に言えば目標を下げちゃうと、簡単に満足しちゃうと思うんです。で、自分は性格的に満足しちゃうと辞めちゃうタイプなんですよ。でも「全然まだまだだよな」と納得しないからこそ、音楽を20年続けてこられたんだなと思うんです。もちろんバーン!と大ヒットを出せたらそれに越したことはないし、出しても音楽は続けていたかもしれないですけど、どこか冷めてしまっていただろうなって。だから、冷めないで「こんちきしょう!」と思いながら音楽活動を継続できているのは、そういうものがなかったからこそだと思っているので、もしかしたら延々とこんなことを言っているのかもしれない(笑)。

―小室さんやCHAGE and ASKAさんってスーパースターじゃないですか。音楽的な評価はもちろんありますけど、それに付随したアイコンとしての人気もあったりしますよね。ただ、澤野さんっていわゆるスーパースターを目指しているイメージの人じゃないから、どこまでいったら達成感を得られるのか気になるところではあります。

今から言うことは先々変わっていくかもしれないですけど、僕はこれまで作品と関わっている音楽が多かったので、多くの人が僕の発信したものの中で興味を持つのは、作品に付随している音楽なんですよ。
例えば、YouTubeでの反響も『進撃の巨人』に関連する音楽だと海外の人たちが集まる。でも、完全に作品と無関係の音楽を出したときに同じぐらいの注目が集まるかと言うと、そこはやっぱり弱いんですよね。ということは、作品の音楽として聴かれているところが強い。なので、より「澤野がつくった音楽」に興味を持ってもらえるようになって「作品に付随していなくても、自分のサウンドを求めてくれる人がこんなにいるんだな」と感じられたら、そこで「ステップアップしたな」と思うんじゃないですかね。

―純然たる澤野弘之の音楽への評価を実感できますもんね。

自分自身が元々劇伴をやる道を選んだ時点で、作品ありきの音楽を目指しているわけで、そこに不満があるということじゃないし、そこに反応が起きていることは純粋に嬉しいんですよ。ただ、そこと切り離した音楽家として目指さなきゃいけないのは、自分個人でつくったものがどう評価されるかというところなのかなと思います。

―自分で「劇伴作家になりたい」と思ってここまで築き上げてきたストーリーがあって、そこに評価が集まるのはもちろん嬉しいことなんだけれども、ゆえに生まれたジレンマもあるというか。

僕がASKAさんを好きになったのは、CHAGE and ASKAさんのドラマ『101回目のプロポーズ』という作品に付随した音楽「SAY YES」がきっかけだったんですけど、それ以降は作品の主題歌とかじゃなくても「このアーティストの曲が聴きたい」と思うようになっていったし、そういうリスナーがかなり多かったからこそ、別に作品に関係なくても名曲がいっぱい残っていると思うんですよね。なので、自分もそうなることが目標のひとつとしてあるんだと思います。

―たしかに「SAY YES」でCHAGE and ASKAさんを知った人たちが、その直後にリリースされた『SUPER BEST II』の影響も大きかったと思いますが、過去の楽曲たちに対しても「こんなに良い曲がたくさんあったんだ!」と好きになってカラオケでも歌うようになり、数え切れないほどの楽曲が「名曲、ヒット曲」と呼ばれるようになった現象がありましたもんね。

そうそう! まさに僕もあの現象に背中を押されているところはあって。
ASKAさんたちもシングルヒットに恵まれないジレンマがあった中で、「SAY YES」の大ヒットによって、元々自信があった楽曲たちにもスポットライトが当たってみんな聴くようになった。過去に自分たちを信じてつくった楽曲も間違いじゃなかったことが実証されたんですよね。僕がこれまでつくってきた楽曲も、作品が大ヒットしたことによって聴いてもらえたものもあるんですけど、みんながみんな『進撃の巨人』のようにヒットしたわけではないので、そうすると「この曲たちだって同じように聴いてもらいたい」と思うわけで。そういう楽曲もいつかCHAGE and ASKAさんのあの現象のようにスポットライトが当たるようになったらいいなと思いますね。

―どこかで「SAY YES」~『SUPER BEST II』的な現象を起こせるタイミングがあるかもしれないですもんね。

CHAGE and ASKAさんの中で「WALK」をいちばん好きな曲として挙げさせてもらっているんですけど、その「SAY YES」~『SUPER BEST II』のエピソードと共に語ることが多いんですよね。のちのちそのムーヴメントの中で評価されるようになったのは、すごく良い話だなと思っていて。

―個人的には、それに近い現象を澤野さんは起こせると思っているんですけど、その理由としては「澤野さんが関わっているアニメなら観てみよう」と思うユーザーがどんどん増えている印象があるんですよね。かつての菅野よう子さんみたいに。

ちょっとでもそう感じてもらえているのなら、とても嬉しいですね。それこそ僕も菅野よう子さんの音楽にすごく惹かれて、菅野さんのサントラを先に買ってから「こんな格好良い音楽が流れているアニメはどんな作品なんだ?」と思って、そのアニメも観たりしていたので。自分もサントラファンの人とかにそんな風に感じてもらえていたら嬉しいです。


―今回、TVアニメ『Fate/strange Fake』オープニングテーマとして手掛けた「PROVANT」もそうした現象を起こせるナンバーだと思うのですが、そもそもどんな楽曲を目指して制作されたんでしょう?

『Fate/strange Fake』の舞台がアメリカだったり、英語吹替版も同時配信していったり、海外も視野に入れた作品として展開していくというところもあったので、だからこそ「海外の人たちも観るんだ」ということを踏まえてどう音をつくっていくのか。そこが大事だなと思って取り掛かりました。これは「INERTIA」(アニメ『TO BE HERO X』オープニングテーマ)の話とも被っちゃうかもしれないんですけど、僕は海外のサウンドが好きでヒットチャートも気にしていますが、「アメリカの今のチャートはヒップホップがほとんど占めているから、ヒップホップをがっつりやろう」という感じではなくて、その要素も踏まえたうえで、ヒットチャートとはまた違うジャンルのもの、ロックとかいろいろフィーチャーされている、マーベルなどのエンディングや挿入歌として流れてくる楽曲、あのエンタメ感みたいなものを『Fate/strange Fake』の主題歌の中に落とし込みたいなと思いました。あとは、自分は本作のサントラも手掛けさせてもらっていて、サントラではパーカッションのエピックみたいな要素が重要だったりするんですけど、「PROVANT」の中にもそのエピック感を入れていって、それを取っ掛かりにラップを取り入れたり、ちょっとロックな要素を入れたりしながら仕上げていきました。

―その「PROVANT」には、MAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyさんと10-FEETのTAKUMAさんもゲストとして参加しています。どのような流れでご一緒することになったんでしょう?

曲が出来たときに、ラップパートもあることを踏まえたうえでパッとすぐに頭に浮かんだのが、Jean-Ken Johnnyさんだったんですよ。ミクスチャーロックでラップもされるし、歌も歌われるし、いろんな格好良いアプローチができる方だと知っていて、以前「Chaos Drifters」でご一緒したときにその歌声の魅力は存分に体感したので、機会があればまたご一緒したい気持ちがずっとありました。楽曲的にも、Jean-Ken Johnnyさんがやってくれるならお願いしたいなと思ったんです。TAKUMAさんはJean-Ken Johnnyさんと交流があって、おふたりが食事か何かされていたときにJean-Ken Johnnyさんから連絡をいただいて、TAKUMAさんが僕のことを知ってくださっていて「澤野さんの音楽に興味を持ってる」と。それで「自分のことを知ってもらえているんだったら、いつかどこかでコラボとか引き受けてもらえないかな」と思っていたので、今回のタイミングでJean-Ken JohnnyさんとTAKUMAさんで一緒にフィーチャーできたら特別感もあるし、サウンド的にも面白くなるんじゃないかなと思ってお願いしました。

―実際にコラボレーションしてみていかがでした?

まずJean-Ken Johnnyさんのレコーディングに立ち合わせてもらったんですけど、こちらが何も言わなくても楽曲に対してどんなボーカルを乗せればいいのか判断して、即座に格好良い歌声を乗せてくれたので、それを素直に受け取りました。それができた段階でTAKUMAさんに投げることができたので、TAKUMAさんもそれを受けてJean-Ken Johnnyさんのボーカルとコントラストをつくったり、サビではふたりの勢いが上手くハマる感じの歌声でアプローチしてくださったんですよ。おふたりともキャリアを積んで、自分たちの音楽を持っているからこその、この「PROVANT」にぴったりなサウンドをつくってもらえたなと本当に感謝しています。

―Jean-Ken Johnnyさんとは以前もコラボしていて、TAKUMAさんは近年10-FEETとして『THE FIRST SLAM DUNK』や『ウマ娘 シンデレラグレイ』などアニメのテーマ曲もよく手掛けているので、このタイミングで3人が『Fate/strange Fake』でひとつの楽曲を完成させる流れに面白い必然性を感じました。

僕は意外とJean-Ken JohnnyさんもTAKUMAさんも知るきっかけはアニメだったかもしれなくて。マンウィズと僕が最初に間接的に仕事しているのは『七つの大罪』で、僕が劇伴を担当して、マンウィズが主題歌を担当していたんですよね。TAKUMAさんは、僕が二十歳過ぎたぐらいの頃かな。当時ハマっていたアニメ『BECK』に10-FEETが曲を提供していて、その時点で存在は知っていたんですよね。そうした接点みたいなものもあったので、僕自身も今回のコラボには必然性を感じています。

―そんなおふたりと完成させた「PROVANT」。どんな風にリスナーに響いてほしいなと思いますか?

そもそも僕は、アニメ『Fate/strange Fake』の絵の質感が数年前に放送された0話の時点からめちゃくちゃ好きで。マンガをそのままアニメにしたみたいな質感が好きなんですよね。あと、物語としてもダークな感じだったり、群像劇的にいろんなキャラクターをフィーチャーしている感じも好きなので、自分もこういう作品に関わりたいなと思っていたんですよ。それもあって、僕の音楽でこの作品の激しいシーンをより派手に感じてもらったり、泣けるシーンをより泣けるように曲を制作させてもらったので、主題歌「PROVANT」も含め映像と併せて音楽にも興味を持ってもらえるような、日本の人にも海外の人にも注目してもらえるようなコンテンツになっていったらいいなと思っています。

―そんなTVアニメ『Fate/strange Fake』と「PROVANT」と共にスタートする2026年。澤野さんにとってどんな1年にしたいなと思っていますか?

2026年は頭のほうにスタートする作品が偶然集中していて、1月末から『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』も公開されますし、同じクールに放送されるドラマにも関わったりしているので、わりと僕の音楽を聴いてもらえる機会が多いと思うんですよね。あと、いくつかのライブについても今考えていて。なので、これから放っていく音楽とタイミングを見ながら展開していくライブに興味を持ってもらえるような1年にできたらいいなと思っているので、楽しみにしていてほしいです!

<リリース情報>

SawanoHiroyuki[nZk]:Jean-Ken Johnny & TAKUMA
「PROVANT」
配信中
https://nzk.lnk.to/PROVANT_DG

澤野弘之が語る、作家活動20周年を経て見据える「自分だからこそ築ける道」


SawanoHiroyuki[nZk]
14th Single『PROVANT』
2026年2月18日(水)発売
ご予約はこちら https://nzk.lnk.to/260218SG

通常盤(CD)
品番:VVCL-2844 金額:1430円(税込)
期間生産限定盤(CD+Blu-ray)
品番:VVCL-2845~6 金額:2200円(税込)
※TVアニメ『Fate/strange Fake』描きおろしイラストデジパック仕様

[CD] ※通常盤・期間生産限定盤共通
1. PROVANT by SawanoHiroyuki[nZk]:Jean-Ken Johnny & TAKUMA
2. FAKEit by SawanoHiroyuki[nZk]:Laco
3. BELONG by SawanoHiroyuki[nZk]:Benjamin & mpi
4. PROVANT(TV size)
5. PROVANT(instrumental)
[Blu-ray] ※期間生産限定盤
1. PROVANT Music Video
2. TV アニメ『Fate/strange Fake』ノンクレジットオープニングムービー

澤野弘之オフィシャルサイト http://www.sawanohiroyuki.com/
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