多文化社会とリンクするミクスチャー感覚
-今回のタイアップはa子さんが原作のファンであることから決定したそうですね。作品とはどのように出会ったのでしょう?
いつもこの赤髪を染めてくれている美容師さんがマンガ好きなんですけれど、そのお店にいつも置いてあったので気になって読んでみたらハマって、続きを買って一気に読みました。ショッキングな出来事が多い作品だけど、そこが魅力的で。「一体どこからが人間か?」というテーマも面白いし、現代社会で問題になっているようなことや、それに取り組んでいる活動家たちがどういった存在なのかを考えさせてくれる。とても難しい内容なのに多くの人がわかりやすく受け取れる形の作品になっているから、うめざわ(しゅん)先生はすごいなと思います。自分もいかに音楽をより多くの人に聴いてもらうかを考えながら創作をしているので、リスペクトですね。
-確かに、アクチュアルな内容と軽いノリが共存しているのが特徴的な作品ですね。
すごくポップですよね。
-特にお気に入りのキャラクターは?
ルーシーは可愛いし面白いですね。めちゃくちゃ行動主義者で、思いついたらすぐに実行に移すところが好きです。
-そんな『ダーウィン事変』のために書き下ろされた「Turn It Up」ですが、歌詞には作中に登場する敵対組織・ALAの視点も盛り込まれているんだとか。
そもそも『ダーウィン事変』自体が目まぐるしく展開していく物語なので、その激しさを楽曲で表現するというコンセプトがありました。その中で、Aメロはこの人、Bメロはこの人……みたいな感じで視点を切り替えていこうという発想に辿り着いて。色んなルーツを持った人たちが登場する作品だから、楽曲も色んな立場を考えて作ることを意識しました。たとえばAメロの歌詞は、チャーリーが色んな人の思惑に巻き込まれる様子を描いていたり。
-なるほど。過激な行動を起こすキャラクターたちの思想を繊細な言葉で編み直すことによって、作品に奥行きを持たせるような歌詞になっていると感じました。言葉選びにあたって考えていたことはありますか?
「幸せに乗り込んで」というフレーズは、ALAのボス(リヴェラ・ファイヤアーベント)のセリフの中の「フリーライド」っていうワードにインスパイアされました。そこには皮肉も込められていて、ALAの人たちはこんな思想で行動しているけれど、それで本当に大丈夫そう? っていうニュアンスも含まれています。
-サウンド面はどのように組み立てていったのでしょうか?
歌詞の視点と同じように、サウンドでも色んなジャンルを組み合わせながら制作しました。当時すごくハマっていたWILLOWのアルバム『Empathogen』から受けたインスピレーションが大きかったですね。
-ジャズを取り入れて彼女の新機軸を示した一作ですね。
私は中学生くらいからプログレが好きでSOFT MACHINEとかを聴いて育ったので、このアルバムのプログレっぽい部分に惹かれたんだと思います。ジャズやプログレの要素が織り交ざっているけれどロックでまとめ上げていて、結果的にどこか日本のアニメ主題歌っぽくなっている曲もあるんですよね。それを意識して制作して、最終的にサウンドがスッキリまとまったのは、NewJeansやPinkPantheressなどの作品も手がけているミックス・エンジニアのNathan Boddyの力のおかげだと思います。
-Nathan Boddy氏とは2025年1月にリリースされたシングル「朝が近い夜」でもタッグを組んでいましたね。ミックスにはどのようなこだわりが?
最新のシーンでは、ギターや上物のサウンドをあまり前に出さないのが今っぽいのかなと思っていて。「Turn It Up」も元々はギターのトラックがたくさんあったんですけど、それを上手く奥に配置しながらドラムと声を際立たせて、聴きやすいサウンドにしてもらいました。
-NewJeans以降の軽やかなダンスミュージックとバンドサウンドの融合は、a子さんの近作における一つのテーマになっているように感じます。
はい。最新の音に惹かれつつ、やっぱりロックは好きなので、そこにどういうジャンルを組み合わせていくかを考えながら制作してます。でも、DメロにはDaft Punkっぽいギターを入れてみたりして、結構遊んでますね。
-ということは、そういったクロスオーバーの達成は、頭を使いながら頑張って新しいものを作り上げるというよりも遊びを繰り返しながら徐々に完成していくっていう感覚に近い?
そうですね。特にこの曲は割と素直にインスピレーションに従って生まれたものなので。たとえばイントロの英語のコーラスは、WILLOWもそうだけど、『攻殻機動隊』のような90年代のSFアニメや菅野よう子さんの楽曲みたいなテイストを出せたらいいなと考えてました。そこにNathanの現代的なセンスが加わった結果、良い形に着地したのかなと。
-リリース資料には「音楽のるつぼといえる楽曲」という表現がありますが、まさにアメリカの多文化社会をそのまま音に翻訳したようなイメージの楽曲で、言い得て妙だなと思いました。
めちゃくちゃ嬉しいです。原作を読んでいる時に、チャイルディッシュ・ガンビーノのことが思い浮かんだんですよね。だからサウンドもアメリカンなものにしたら面白いんじゃないかなって。Daft Punkはフランスだから結局はいろんなものが混ざっているし、私たちが日本人である以上J-POPにはなっちゃうんですけど。
-Bメロではクラクションの音が聴こえて、『ダーウィン事変』のカーアクションのシーンと重なるという仕掛けもあります。
一昨年、アメリカに行った時に録った音をサンプリングして使いました。
-そうなんですね!
やっと使えて嬉しかったです。
-そういった細かい音の遊び心もa子さんの楽曲の面白いポイントだと感じます。
実は他にもたくさん仕掛けていて、Nathanのミックスでかなり整理されてはいるんです(笑)。クラクションの音だけはどうしても残してほしくてお願いしました。他にもめちゃくちゃ時間をかけてレコーディングした音が結果的にそぎ落とされているんですが、その取捨選択も含めて面白かった。やっぱりNathanのサウンドはカッコいいです。
「オシャレ」で「ミステリアス」なa子像への抵抗
-ボーカルに関してはいかがでしょうか?
今回は自分以外の人の声もたくさん入れて、サウンドだけではなく歌も派手にしたいと思っていました。Sabrina CarpenterやClairoのレコーディングの様子を見てみると、結構多くの人がコーラスに参加してるんですよ。あと、PinkPantheressの最新ミックステープ(『Fancy That』)も、色んな声が入っているのが良いなと思って。声色がいくつかあった方が引っ掛かりが出るし音が映えるんですよね。途中の語りも最初は自分でやっていたんですけれど、ウチのチームのギタリストでもあるImu Sam(S.A.R.)にお願いしました。
-「Turn It Up」はa子さんにとって「ポップスを追求した一曲」だそうですが、ここで言うポップスとはあるジャンルを指しているのか、それとももっと概念的なものなのか、どちらなのでしょう?
新しく聴こえる曲を作りたくてずっと音楽をやってるんですけど、インディーなサウンドだったら「こんなの聴いたことない!」っていう面白い音を作ることは不可能じゃないと思うんです。でも私は、それをあくまでポップなサウンドでやりたくって。その上で、ただあるジャンルと他のジャンルをぶつけるだけだとナンセンスで、その中身をどうポップスの形に持っていくかを考えています。
-なるほど。
たとえばゴダイゴさんとかって、プログレっぽいサウンドだけどポップでキャッチーにまとめているのが素晴らしいじゃないですか。そういう意味では、この曲はまだプログレのままで上手くまとめきれてないっていう反省もちょっとだけあります。聴いたことない曲を作ること自体はできたけど、それをポップスとして達成できたとはあまり感じてない。もちろん私はめっちゃ好きな曲だし、新しい挑戦ができて面白かったんですけど、まだまだ追求の途中にある曲ですね。
-「Turn It Up」はセクションごとにノリが切り替わるので、そこに複雑な印象があるかもしれません。
そう、そこがプログレっぽいなって。最初は変拍子で始まっちゃうし、Bメロのドラムパターンもロックではなくて、サビだけはちゃんとロックしよう、みたいな。
-ただ、僕はその楽曲展開が逆にJ-POP的だと感じました。Aメロ、Bメロ、サビの区分けがハッキリしていて。
確かに。J-POPはいろんなカルチャーが混ざったミクスチャーなものですもんね。だからこそ、トップアーティストの方々は楽曲のまとめ方が本当に上手だし憧れを感じます。私たちはまだ土台のジャンルを崩すことが苦手で、その練習を続けている感覚です。
-様々なサブジャンルを組み合わせつつ、最終的に出来上がったものにはその枠組みが残っていないというのが理想なのでしょうか?
ジャンルの境界線は綺麗に消しつつ、それでも土台にちゃんとルーツを感じさせる音楽をやりたいと思ってます。「Turn It Up」もロックでまとめたいと思って制作していた楽曲なので。そういえば、この曲に関して「オシャレ」っていうコメントがあったんですけど、それを少し不安に思っていて。
-というと?
人って、よくわからないもののことをオシャレって表現すると思うんですよ。もちろん絶対的にオシャレなものもあるけど、パリコレとかを見て「自分にはよくわからないファッションだけど、オシャレかも」みたいな。その「わからないけどオシャレ」にはならないように、わかりやすい音楽を作っていけたらなって思ってます。
-確かに、「オシャレ」という評価にはどこか一歩引いた目線を感じますよね。
そうなんですよね。でも、やっぱりちゃんと色んな人に受け取ってほしい。言葉をちゃんと喋らないと相手に通じないっていうか。こちらから音と歌詞でわかりやすく表現したいことを提示して伝えられるようになりたいです。
-昨年7月にリリースされた「MOVE MOVE」(TVアニメ『宇宙人ムームー』第2クールオープニング主題歌)に続いて、今作は2作目のアニメタイアップとなりました。作品の世界観に寄り添って楽曲を制作することは、a子さんのクリエイティブにどんな影響を与えていますか?
タイアップがあると、めちゃくちゃ曲が作りやすいです。「MOVE MOVE」も「Turn It Up」もかなり早くて、2週間くらいで完成しましたね。マンガを読んでいるとイメージやアイデアがどんどん湧いてきて。
-制作にいつもはないガイドラインが加わるような感じ?
そうですね。JUDY AND MARY「そばかす」(アニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』オープニング主題歌)みたいに全然作品に寄り添ってないタイプのアニソンもめっちゃ好きなので、いつかはそういうのも作れたら良いなと思うんですけど、やっぱりアニメが好きだからつい熱くなってしまいます。
-a子さんって、その名前や佇まいからしてミステリアスで閉じた世界を持っているように見えるけれど、こうしてタイアップ作品にチューニングした楽曲も器用に作れるし、現にインタビューでもルーツやリファレンスを明かしてくれるオープンマインドな一面がありますよね。ご自身でその絶妙なバランス感覚について意識していることはありますか?
「ミステリアス」もある意味「オシャレ」と同じで……以前、中村(エイジ、a子率いるクリエイティブチーム・londog所属のキーボーディストであり、「Turn It Up」を含むa子の多くの楽曲を編曲している)に、「わかりにくいから『ミステリアス』って言われてるだけで、それはあまり良い言葉ではない」って言われたんです。実際はわかりやすい人間性をしてるんだから、もっとキャラクターを出していった方が良いんじゃないかって。そうしたらギャップがあるって言われるようになりました(笑)。
-確かに、ライブのMCでの雰囲気は初めてのお客さんにとって意外性があると思います。
SNSで自分のことを発信することでイメージが良い方向にも悪い方向にも変わるじゃないですか。幻滅させちゃうんじゃないかと思って、私はあまり我を出さないんですけど、一方で今の時代、謎めきすぎていて曲が伝わらないようじゃよくないかなと思って。ステージ上でのMCやインスタライブではなるべく素を出すようにしています。だから、エゴサした時に「ミステリアス」っていう表現を目にすると、嬉しい反面、もっと頑張ろうって思います。
-リスナーから一線を引かれてしまうことに抵抗があると。では、「a子の中の人」と「a子」はどのように距離を取っているんでしょう?
歌詞には自分が滲み出ちゃってると思いますね。「今、恋してるでしょ?」とか言われて、その通りだったりするし(笑)。ひねくれた暗い性格も言葉に表れちゃうし、お金がない時にはお金のことを書いちゃうし。自分から「a子」と距離を取ろうっていう思いはまったくないです。
-今日こうして話をしてみて、「オシャレ」や「ミステリアス」というワードへの抵抗を通して、a子さんは想像以上に自分の音楽が他人に理解されることを望んでいるということがわかって面白かったです。
そうですね。色んな人にちゃんと理解してもらいたい。そのために、聴いたことないサウンドだけどキャッチーな音楽を目指しています。難しいチャレンジだけど、それに向けて成長したい気持ちがあります。
-最後に、6月から開催される初の5大都市ツアー『JUNO』について聞かせてください。
このツアーのためにいっぱい曲を作っているので、それを演奏するのがとても楽しみです。今回の「Turn It Up」も、どうライブで盛り上げられるか、アレンジを考えてます。音だけじゃなく見た目でも楽しんでもらいたいので、パフォーマンスも含めて練っていて。
-昨年3月のツアー東京公演(『a子 LIVE TOUR 2025 "LOVE PROPHET"』)では、ステージ上に樹木が屹立していたのが印象に残っています。
生えてましたね。『LOVE PROPHET』では美術面に、その次の『Odyssey』ではVJに力を入れていたので、じゃあ今回はどうしようかなと。毎回来てくださってる方にも初めての方にも、新しい感覚を味わってもらえるようなライブにしたいです。
「Turn It Up」
a子
配信中
https://lnk.to/ako_Turn_It_Up
a子 LIVE TOUR 2026 "JUNO"
6月7日(日)SAPPORO PENNY LANE 24
6月13日(土)FUKUOKA DRUM BE-1
6月14日(日)OSAKA SANKEI HALL BREEZÉ
6月21日(日)NAGOYA CLUB QUATTRO
8月22日(土)TOKYO LINE CUBE SHIBUYA
https://akolondog.net/


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