ロバート・デュヴァルは、映画史において「静かな重み」を体現した稀有な俳優だ。1960年代から2020年代まで60年以上にわたり、父親、軍人、犯罪者、宗教家など多様な人物像を演じながら、どの役にも共通する”人生の厚み”を滲ませてきた。
とりわけ1960~70年代、ハリウッドに新たなリアリズムと反体制的な視点をもたらした「アメリカン・ニューシネマ」の時代において、彼はその中心的作品群を支える存在として確かな足跡を残した。主役でも脇役でも物語を支え、時に奪う――そんな彼の代表的な15の役柄を、ここに振り返る。

【写真を見る】映画史を支えた”名脇役”の決定的瞬間15

1. 『アラバマ物語』(1962)

デュヴァルの映画デビュー作。ブー・ラドリーはほとんど台詞がないにもかかわらず、作品の核心を担う重要人物だ。社会から隔絶された”恐怖の対象”でありながら、実は子どもたちを救う存在。ラストの無言の視線に込められた優しさと誇りは、彼の演技スタイルの原点といえる。わずかな仕草と存在感だけで観客の感情を動かすこの演技は、デュヴァルが後に確立する”静の表現”の完成形をすでに示していた。Brian Tallerico

2. 『雨のなかの女』(1969)
©EVERETT COLLECTION

コッポラとの初仕事。役自体は小さいが、魅力と不穏さを同時に漂わせる存在感を発揮。後に続く”威圧的な父親像”の片鱗も見える、重要なキャリア初期の一作。画面に登場する時間は短いながら、観客の記憶に残る強さがあり、彼の「場の空気を変える力」が早くも際立っている。David Fear

3. 『M★A★S★H マッシュ』(1970)
©20THCENTFOX/EVERETT COLLECTION

融通の利かない軍医フランク・バーンズを演じ、コメディの中で”真面目すぎる男”として笑いを生む。
周囲のカオスを引き立てる「ストレートマン」としての巧みさが光る。滑稽でありながらも人間的な弱さを感じさせるバランス感覚が絶妙で、単なる笑いの標的に終わらない奥行きを与えている。Kory Grow

追悼ロバート・デュヴァル 写真で辿る15の名演──すべてを語る“沈黙の力”

4. 『ゴッドファーザー』(1972)
©EVERETT COLLECTION

冷静沈着な相談役トム・ヘイゲン役で、シリーズの均衡を支える存在に。激情に満ちたファミリーの中で理性を体現し、「忠誠」と「家族」の意味を体現する人物として強い印象を残す。派手さはなくとも、この作品に不可欠な柱だ。感情を抑えた演技だからこそ、裏切りや葛藤の瞬間に深い痛みが滲み出る。物語の倫理的重心を担う重要な役割だった。B.T.

5. 『トゥモロー』(1972)
©EVERETT COLLECTION

寡黙な農夫を演じ、完全に役へと溶け込む変身ぶりを見せた隠れた傑作。演技というより”そこに生きている人間”のように感じさせる、彼の本領が発揮されている。方言や身体性までも自然に馴染ませ、文化そのものに入り込むようなアプローチは、俳優としての探究心の高さを物語る。D.F.

追悼ロバート・デュヴァル 写真で辿る15の名演──すべてを語る“沈黙の力”

6. 『ザ・アウトフィット』(1973)
©EVERETT COLLECTION

兄を殺された元犯罪者がマフィアに復讐する物語。強い意志と執念を持つ男を、爆発的なエネルギーで体現し、ハードボイルドな魅力を示した。
感情を露わにしすぎず、それでも内側に燃え続ける怒りを感じさせる演技は、デュヴァル流のアクション映画のあり方を示している。K.G.

映画史に残る”戦争映画の象徴”

7. 『ネットワーク』(1976)
©EVERETT COLLECTION

冷酷なテレビ局幹部フランク・ハケットを演じ、企業社会の無慈悲さを象徴する存在に。利益至上主義の怪物としての説得力は圧倒的で、現代にも通じるリアリティを持つ。冷静さの裏に潜む暴力性をにじませることで、”成功者の狂気”をリアルに可視化した点が、この役を特別なものにしている。Tim Grierson

追悼ロバート・デュヴァル 写真で辿る15の名演──すべてを語る“沈黙の力”

8. 『地獄の黙示録』(1979)
©EVERETT COLLECTION

「朝のナパームの匂いは最高だ」の台詞で知られるキルゴア中佐役。豪放で狂気的でありながら、戦争に執着する複雑な心理を滲ませ、単なる誇張を超えた人間像を作り上げた。一見カリカチュアのような人物に、妙な現実感と魅力を与えたことで、映画史に残る”戦争映画の象徴”となった。B.T.

9. 『グレート・サンティニ』(1979)
©ORION PICTURES CORP/EVERETT COLLECTION

家庭でも軍隊式の規律を押し付ける父親を熱演。暴力的で支配的な人物ながら、その裏にある不器用な愛情も感じさせ、初のアカデミー主演男優賞ノミネートを獲得した。観る者に不快感と共感を同時に抱かせる難役を成立させ、父性の光と影をリアルに描き出した点で高く評価されている。D.F.

10. 『テンダー・マーシー』(1983)
Robert Duvall in 'Tender Mercies.'

落ちぶれたカントリー歌手の再生を描き、アカデミー主演男優賞を受賞。歌唱も自ら担当し、静かな誠実さで”贖罪と再生”を体現したキャリア屈指の名演。
大きなドラマを避け、日常の積み重ねで変化を見せる演技は、観客に深い共感を呼び、作品全体に温かみをもたらしている。T.G.

追悼ロバート・デュヴァル 写真で辿る15の名演──すべてを語る“沈黙の力”

11. 『カラーズ』(1988)
©ORION PICTURES CORP/EVERETT COLLECTION

ベテラン警官として若手と対比を成す存在に。経験に裏打ちされた落ち着きと説得力で、物語に現実感を与えた。
派手なアクションではなく、言葉や態度で”生き残る術”を示す姿が、リアルな警察像として印象に残る。K.G.

晩年における集大成的パフォーマンス

12. 『ロンサム・ダヴ』(1989)
©CBS/EVERETT COLLECTION

自由奔放なカウボーイ、ガス・マクレーを演じ、人生の喜びと哀愁を体現。この役は本人が”キャリア最高の仕事”と語るほど重要で、世代を超えて愛されるキャラクターとなった。ユーモアと哲学を併せ持つ人物像が物語に温度を与え、観る者に”生き方”そのものを問いかける深みを持つ。D.F.

追悼ロバート・デュヴァル 写真で辿る15の名演──すべてを語る“沈黙の力”

13. 『ランブリング・ローズ』(1991)
©NEW LINE CINEMA/EVERETT COLLECTION

善良で誠実な父親役。大げさな演技に頼らず、細やかな仕草で人間性を表現し、作品全体の土台を支える存在となっている。控えめな演技だからこそ説得力があり、他のキャストの感情を引き出す”受けの演技”の巧みさが際立つ。B.T.

14. 『アポストル』(1997)
©OCTOBER FILMS/EVERETT COLLECTION

脚本・監督・主演を兼ねた野心作。罪を犯した伝道師の再生を描き、カリスマ性と弱さを併せ持つ人物像を熱演。
アカデミー賞ノミネートを再び獲得した。信仰と暴力という相反する要素を同時に成立させ、アメリカ南部の宗教文化をリアルに描き出した点も評価が高い。Joseph Hudak

追悼ロバート・デュヴァル 写真で辿る15の名演──すべてを語る“沈黙の力”

15. 『ゲット・ロウ』(2009)
©SONY PICTURES CLASSICS

孤独な老人が自分の葬式を生前に開くという異色作。長年の後悔を語るモノローグは圧巻で、晩年における集大成的パフォーマンスとなった。静かな語りの中に積み重なった人生の重みがにじみ出し、”告白”をひとつのドラマとして成立させる力量を改めて示した。D.F.

from Rolling Stone US
編集部おすすめ