マムフォード&サンズ(Mumford & Sons) が前作から1年弱という短いスパンで発表した、最新アルバム『Prizefighter』が大きな反響をもたらしている。「僕たちは今、クリエイティブの面で全盛期を迎えている」と語るのは、中心人物のマーカス・マムフォード。
インディ・フォークの大ブームを巻き起こし、2013年のフジロックで苗場を揺らした彼らが新たな黄金期を迎えた背景とは? 音楽ジャーナリスト・柴那典が解説する。

アーロン・デスナーとの再会

マムフォード&サンズが、今、高らかに復活の凱歌を鳴らしている。

今年2月20日にリリースされた新作『Prizefighter』は全英1位を獲得。昨年3月28日リリースの前作『RUSHMERE』に続いて2作連続の快挙だ。その背景には、ノア・カーンの世界的なブレイクをきっかけにしたフォーク・ポップ再興のムーブメントがある。

数万人の観客が足を踏み鳴らし(=Stomp)、手拍子を叩き、一斉に叫び、シンガロングする(=Holler)。そういうアンセミックな高揚をもたらす”Stomp & Holler(ストンプ・アンド・ホラー)”というジャンルが、2020年代に入って大きな注目を浴びてきている。マムフォード&サンズはその源流として再び存在感を増しているのである。

『Prizefighter』を一聴して感じるのも、エモーショナルなメロディの持つ抗えない力だ。彼らが最も得意とする土の匂いのするサウンドと、拳を振り上げて共に昇りつめていくような高揚感が、そこにはある。『RUSHMERE』は久しぶりにそれを真っ向から取り戻したバンドの原点回帰だったが、そこからわずか11カ月で届いた新作は、その音楽的な核心を、カントリーとインディ・ロックが交差する2020年代の音楽シーンの文脈に接続した一作と言える。

マムフォード&サンズは「21世紀のフォーク・ポップ」のオリジネーターの一組だ。
もちろんフォークのルーツを辿ると幾多のレジェンドがいるが、少なくともここ10~20年のムーブメントを考えるならば、彼らの存在が持つ意義はとても大きい。

2009年のデビューアルバム『Sigh No More』で一躍ブレイクを果たした彼らは、続く2012年の『Babel』でキャリアのピークを迎える。ロックが勢いを失いR&Bやヒップホップが隆盛する時代に登場した彼らのスタイルは非常に鮮烈なものだった。ドラムキットなしのバンジョーを含む編成で、ボーカリストのマーカス・マムフォードが足でキックドラムを踏み鳴らしながら歌う。バンジョーの高速アルペジオやカッティングが疾走感を生む。彼らのライブは、アコースティック編成でありながら、巨大なエネルギーを生む祝祭の場として機能した。『Babel』は全米・全英1位、アメリカのみで初週60万枚を記録し、グラミー年間最優秀アルバムも受賞。セールス的にも評価的にも全盛期にあった。

『Sigh No More』収録の代表曲「Little Lion Man」

しかしその後の数作は、よく言えば「実験と挑戦」、悪く言えば「迷走」の時期だった。2015年の『Wilder Mind』ではバンジョーを封印し、エレクトリックサウンドへの転換を図る。2016年のEP『Johannesburg』ではアフリカ音楽に影響を受け、2018年の『Delta』ではヒップホップ以降のビート感覚やエレクトロニカの要素を取り入れた。得意のパターンを繰り返すのではなく音楽性の拡大を志してきたという意味では意欲的なキャリアだったとも言えるが、リスナーやファンが求める姿からは少しずつ乖離していった。


その後にバンドは長い空白期間に入る。パンデミックによるツアーの中断だけでなく、初期のサウンドの核を担ったバンジョーのウィンストン・マーシャルの脱退も痛手となった。

その一方で、フォーク・ポップには新たな旗手が登場していた。それがマムフォード&サンズをルーツとして敬愛するノア・カーンだ。2022年にリリースしたアルバム『Stick Season』がTikTokを起点に注目を浴び、2023年に全米3位を記録。ホージアやグレイシー・エイブラムスとのコラボレーションも話題を呼び、グラミー最優秀新人賞にノミネートされるまでのブレイクを果たす。そして、その熱はオリヴィア・ロドリゴのカバーをきっかけにイギリスでさらに爆発的に広がった。同作は全英1位を獲得、さらにシングル「Stick Season」は2024年の全英での年間最大ヒットに輝いた。若きスターの登場、そしてUSのバーモント州で育った彼がマムフォード&サンズの故郷であるUKで大ブレイクしたことにより、バンドの復活への道が用意されていたのだ。

だからこそ『RUSHMERE』で彼らは再びバンジョーを取り戻し、足を踏み鳴らし、高らかに歌った。そして、その復活劇には続きがあった。それが『Prizefighter』だ。
アルバム制作のきっかけについて、マーカス・マムフォードはこう語っている。

「エレクトリック・レディ・スタジオで『RUSHMERE』の仕上げをしていた最中に、アーロン・デスナーが階下へ降りてきました。実は、彼は同じ建物の別のスタジオでグレイシー・エイブラムスと作業中であり、僕たちはただ近況を話していました」

アーロン・デスナーこそ「フォークがポップ・ミュージックのメインストリームになった2020年代」の最重要キーパーソンだ。ザ・ナショナルのメンバーとしてだけでなく、プロデューサーとしてテイラー・スウィフトを筆頭に数々の作品を送り出してきた。そして、マムフォード&サンズとは『Wilder Mind』の制作に関わった旧知の間柄でもあった。

「あっという間に一緒にアルバムを作ることになりました」と、マーカス・マムフォードは言う。表題曲「Prizefighter」はアーロン・デスナーとジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)が作っていた曲のスケッチをもとに完成した。アーロン・デスナーがプロデューサーとして名乗りを上げたことで、原点回帰を果たしたバンドの進む道に「USインディの系譜を経由して、ポップの中心へ再接続する」という新たな文脈が加わったのだ。

2020年代フォーク・ポップのキーパーソンが集結

「Badlands」も、ボン・イヴェールが描いてきた幽玄の世界と通じ合うような神秘的な美しさを持った曲だ。5/4拍子のリズムにグレイシー・エイブラムスとのハーモニーが溶け合うこの曲も、アーロン・デスナーとの出会いなしには生まれなかった。

「曲にぴったりのメロディーと、彼らが心から共感してくれる歌詞をどうしても見つけたくて、頭の中にボニーとクライドの姿を思い描きながら、この曲全体を書き上げました。そしてグレイシー・エイブラムスに全曲を聴かせ、彼女がこの曲を歌うことを選んでくれたとき、僕は本当にワクワクして、同時にほっとしました」

アルバムのリードシングル「Rubber Band Man」は制作過程の最初期で生まれた曲だという。
この曲ではアーロン・デスナーに加え、ブランディ・カーライル、ホージアという彼らの長年の友人とのコラボレーションが実現している。

「ブランディ・カーライルが、この曲の核となる歌詞をメールで送ってくれました。そして、それを長年の友人であるアンドルー・ホージア・バーン、別名ホージアにそれを送ったところ、彼も深く共感し、『ぜひ歌いたい』と言ってくれました。こうして僕のイングランド西部の家に集まり、僕たちはこの曲を一緒に完成させました。その曲がある程度形になったとき、僕たちはアーロンと一緒に作ることで、これは本当に特別な何かにたどり着けそうだ、と強く感じました」

前述したように、ノア・カーンはホージアと「Northern Attitude」で、グレイシー・エイブラムスとは「Everywhere, Everything」で、ブランディ・カーライルとは「You're Gonna Go Far」でコラボしている。つまり『Prizefighter』と『Stick Season』のコラボ相手は相当重なっているわけである。さらに「Icarus」にはジジ・ペレスがゲスト参加しているのだが、彼女はノア・カーンの2026年のスタジアムツアーに全公演帯同することが決定している。

これは偶然ではないだろう。「2020年代のフォーク・ポップ」のキーパーソンがここに集結しているのだ。

もちろん『Prizefighter』のポイントは、そうした人脈や文脈だけではない。アルバムのハイライトとも言える「Run Together」は、シンプルなバンジョーの響きから徐々に分厚いコーラスが重なっていく一曲。前半ぐっと溜めてから後半でバンドサウンドが広がるところも含めて、ライブの絵が思い浮かびそうな楽曲だ。
シンプルな構成だがそのぶんメロディの躍動感が印象に残る「The Banjo Song」もそうだろう。そういう彼らの得意技を惜しげもなく見せているアルバムでもある。

もしここにノア・カーンとのコラボ曲が収録されていたら完璧だったとは思うが、それもきっと近いうちに実現しそうな気もする。オリジネーターが、自ら蒔いた種が育った場所に帰還した。そういう「2020年代のフォーク・ポップ」の充実を感じられる一枚だ。

マムフォード&サンズ「復活の凱歌」2020年代フォーク・ポップの隆盛と、オリジネーターの新たな黄金期

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