テレビ業界は、もともと金によって動いてきた。だがいま、その欲望が業界そのものを縮小へと追い込んでいる。
ストリーミング各社がシェア争いよりも利益確保を優先するようになった結果、ハリウッドでは仕事が激減した。

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その象徴のひとつが、医療ドラマ『The Pitt(ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室)』だ。この作品は近年の配信ドラマに多い”全8話一挙配信”でも、陰のあるアンチヒーローものでもない。1シーズン15話を週1話ずつ届ける、かつてのテレビドラマを思わせる作りで、理想や使命感をまっすぐに描いている。そしてもうひとつ、この作品を”いまでは珍しい作品”たらしめている点がある。ロサンゼルスで撮影されていることだ。

テレビや映画の制作がハリウッドを離れていく流れ自体は、いまに始まった話ではない。だが、ここ数年の落ち込みは深刻だ。2022年後半以降、ロサンゼルスでは業界の雇用が約4万2000人分失われた。これは約30%の減少にあたる。『The Pitt』で主演と製作総指揮を務めるノア・ワイリーも、今年3月の議会公聴会でこの問題に触れ、「この6年で、かつて活況を呈していた業界は崩壊寸前まで追い込まれた」と語っている。

もちろん、雇用減少の背景はひとつではない。
海外との競争、業界再編、視聴習慣の変化――複数の要因が重なっている。少なくとも現時点では、AIだけを元凶とすることはできない。ただ、話を単純化すれば、メディア企業はコンテンツを作る本数そのものを減らし、さらにロサンゼルスで作る本数も減らしている。理由は明快で、コストを抑えるためだ。カリフォルニアでの制作には金がかかるうえ、組合スタッフには生活を成り立たせる賃金を支払う必要がある。議会公聴会で連邦レベルの税制優遇が求められていたのも、ハリウッドで撮影する経済的なうまみを取り戻すためだった。

ただ、その背後にはもっと根深い問題がある。

2000年代まで、テレビ業界は拡大を続けていた。アメリカでは多くの人がケーブルテレビを通じて番組を見ており、2010年にはその普及率が9割を超えていた。1990年代以降に定着したケーブルテレビの仕組みは、きわめて儲かるものだった。ケーブル会社は機器のレンタル料を取り、視聴者から利用料を取り、さらに広告主からも収益を得る。番組を供給するネットワークも、ケーブル会社からの配分と広告収入の両方を手にしていた。
複数の収入源があるこの構造のなかで、視聴者には膨大な量のコンテンツが供給されていた。

その最大の特徴は、チャンネル数の増加だった。2000年代にケーブル契約をすれば100以上のチャンネルがついてきたが、実際に視聴されていたのは平均17チャンネルほどだったという。それでも、1990年代の規制緩和によって、ネットワークはチャンネルを増やせば増やすほど稼げるようになった。ミリタリー専門、恋愛映画専門、男性向け専門――内容がどれほど細分化されようと、とにかく数を増やして束ね、視聴者に高い料金で売る。その仕組みのなかで、現場の労働者にも仕事が行き渡っていた。

チャンネルが増えれば、制作される番組も増える。カメラアシスタントも衣装担当も、限られたネットワークのわずかな仕事を奪い合う必要はなくなった。AMCの『Mad Men(マッドメン)』、TNTの『The Closer(クローザー)』、MTVの『Laguna Beach(ラグナ・ビーチ)』など、さまざまな作品の現場を渡り歩くことができたのだ。もちろん、すべてがロサンゼルス制作ではなく、すべてが組合案件でもなかった。だが、全体として見れば十分な仕事があった。ケーブル業界とメディア企業はたしかに強欲だったが、その強欲さは少なくとも業界全体を回す力にもなっていた。


その構造を変えたのがNetflixだった。もともとDVDレンタル事業者だった同社は、2011年に単独のストリーミングサービスを開始し、2013年にはオリジナル作品にも乗り出した。『House of Cards(ハウス・オブ・カード 野望の階段)』や『Orange Is the New Black(オレンジ・イズ・ニュー・ブラック)』のような話題作を独占配信したことも大きかったが、それ以上に視聴者を惹きつけたのは、「本当に見たいものにだけ金を払える」「しかも広告なし」というシンプルな魅力だった。

広告だらけで、見もしないチャンネルが大量に付いてくる高額なケーブル契約は、しだいに”お得なパッケージ”ではなく”不透明な抱き合わせ商法”のように映るようになった。「なぜ自分は、ほとんど見ないチャンネルのために金を払っているのか」。そう感じた人々は、月額7.99ドルのNetflixへ流れていった。

Netflixの成功は、2010年代のストリーミング競争を加速させた。最初はHuluやAmazon Prime Videoといったテック企業が続き、その後は既存の大手メディア企業も次々と自前のサービスを立ち上げた。Peacock、Disney+、Discovery+、Paramount+、CNN+――乗り遅れまいとする各社は、利益を生んでいたケーブルや地上波の部門からリソースを引きはがし、新たな”+”付きプラットフォームに注ぎ込んでいった。

業界で働く人々にとっても、しばらくのあいだはこの流れは悪いものではなかった。なぜなら新興ストリーミング企業にとって最優先だったのは、当面の利益ではなく加入者数の拡大だったからだ。ケーブル向けの番組発注は減っても、新作そのものは大量に作られた。
多様なジャンルの作品をとにかく揃え、ラインナップを厚くすることが加入者獲得につながると考えられていた。この時代はいわゆる”Peak TV”であり、実際にうまく機能していた。とりわけミレニアル世代やZ世代はケーブルを解約し、ストリーミングへ移っていった。

ストリーミングは「拡大」から「利益」へ転じた

だが2022年、そのモデルは転機を迎える。脚本家と俳優によるストライキが起き、ストリーミング作品の残余報酬の低さが大きな争点になった。そして同じ年、さらに象徴的な出来事が起きる。Netflixが初めて加入者数の減少を報告したのだ。

そこでNetflixは、投資家に示す指標を「加入者数」から「利益」へと切り替えた。FXのジョン・ランドグラフが2024年のインタビューで述べたように、「収益性を早く高めるためにできることは、制作本数を減らすこと、つまりコストを削ることしかない」。そして、他社もそれに続いた。

ストリーミング各社は番組の発注を減らし、スタッフを削減し、料金を引き上げた。こうして3月の議会公聴会で語られていた問題も、単に「ロサンゼルスで撮ると高い」という話ではなくなった。
いまや彼らは、ロサンゼルスかどうかにかかわらず、「そもそもあまり作らない」方向へ進んでいる。

2025年末、業界誌『Deadline』はストリーミング各社の業績を総括し、「5年以上にわたる巨額赤字の末に、2025年はようやく業界全体が黒字化へ向かった年だった」と評した。だが、その黒字化の代償は大きい。何千、何万という人々に安定した中流の仕事をもたらしてきた仕組みは壊され、同時に”ストリーミングの劣化”とも呼ぶべき状況が進んだ。2023年以降、月額料金は上がり、安いプランには広告が付き、パスワード共有は厳しく取り締まられ、新作は減っている。利益を得ているのは、ウォール街だけだ。

とはいえ、もう後戻りはできない。いまやアメリカの成人の83%がストリーミングサービスを利用しており、若い世代ほどその割合は高い。今後は巨大合併やAI導入も進み、さらに不安定さが増すだろう。もちろん、業界もそこで働く人々も変化に適応していくはずだし、利益一辺倒ではない、より持続可能な形へとバランスが移る可能性もある。連邦レベルの税制優遇も助けにはなるだろう。

ただ、ひとつ見逃せないのは、Z世代の視聴習慣そのものがすでに大きく変わっていることだ。
彼らは従来型テレビよりストリーミングを好む一方で、実際にはYouTubeやTikTok、SNSで過ごす時間のほうが長い。そこで見られているのは、ユーザー生成コンテンツやライブ配信、短尺動画であり、その多くはハリウッド型の大規模な制作体制を必要としない。しかも彼らは番組を早送りし、好きな場面だけを切り出して見て、複数の画面を同時に操作する。腰を据えて『The Pitt』のような長尺ドラマを見る視聴者は、X世代やミレニアル世代が最後になるのかもしれない。

そう考えると、ストリーミング企業がいま利益に全振りしているのは、冷酷ではあっても合理的な判断にも見える。若い視線を再び長尺コンテンツへ引き寄せ、プロが作る作品に価値を感じさせる方法を見つけられなければ、彼らにとってこれが最後の”稼げる局面”になるのかもしれない。

from Rolling Stone US
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