2024年、ホリー・ハンバーストーンはイングランドの田舎町グランサムにある実家で、思い出の品々に囲まれて座っていた。3歳の頃から暮らしてきたその家を家族が手放すことになり、26歳になった彼女は、これまでの人生で手にしてきたあらゆるものを整理していたのだ。
プリンス、ポール・サイモン、カイリー・ミノーグ、PJハーヴェイといったアーティストのCDが積み重なった山から、古いジュエリーボックス、そして大切にしていた『グリム童話』の初版本まで。その一つひとつに刻まれた無数の記憶が、ホリーの2作目『Cruel World』を形作る助けとなった。
「忘れていた自分自身のことを、たくさん再発見したんです」と、ホリーは本誌に語る。「だからこそ、アルバム全体が今の自分、そしてずっと変わらない自分と深く結びついているように感じています」。彼女は今、ロンドンのサーキット・キングストンで行われるミニ・アコースティック・ツアーのステージを数時間後に控え、バックステージにいる。このツアーで、彼女は新曲をいち早く披露してきた。
4月10日の『Cruel World』リリースと、ステージへの復帰を心から楽しみにしているという彼女の緑色の瞳は、生き生きと輝いている。
「自分が心から自信を持てる新しい曲たちを携えて戻ってこられたのは、本当に素敵なことです」と彼女は言う。「これまでの私の音楽は、どちらかと言えば内省的で、自分の内側に向かっているものが多かった気がします。でも今回は、もう少し自分に確信を持てているような感じがするんです」
2020年以降、彼女は誠実さのあふれる日記のような楽曲で、ポップミュージック界において無視できない新星としての地位を確立してきた。
以下、ホリーが『Cruel World』の主要な楽曲について語ってくれた。子供時代の記憶がいかにしてこれらの曲、そして彼女の新たな章を彩る鮮やかな背景にインスピレーションを与えたのか。
Photographs by MARIA-JULIANA ROJAS
「Cruel World」
この曲は、曲作りのプロセスのちょうど中盤あたりで生まれました。それまでに、自分でもすごく気に入っていて、夢中になれる曲をたくさん書いていたんですけど、それらがどう一つの作品としてまとまるのかが、まだ自分でもよく分かっていなかったんです。そんな時に「Cruel World」を書いて、アルバムとしての筋が通ったというか、自分の中で腑に落ちた感じがしました。「これこそが、今自分が経験していることすべてを象徴している」って思えたんです。この曲のおかげで、すでに書き終えていた曲たちがサウンド面でも歌詞の面でも同じ場所に集まって、アルバムを完成させるための設計図が手に入りました。
今回のアルバムで通底している大きなテーマは、この1年半の間に、愛というのは本当に苦しい感情なんだと気づいたことです。愛は間違いなく世界で最高のものだけど、同時に、世界で最悪のものにもなり得ますよね。「Cruel World」は、遠距離恋愛がもたらす混沌とした状況と向き合うことについて歌っています。
「To Love Somebody」
もし、本物の愛と呼べるような経験をする機会に恵まれたのなら、たとえそれが思い描いていたような結末にならなかったとしても、あるいは望んでいた形ではなかったとしても、少なくともその経験ができたこと、真実の愛を感じられたこと自体に意味があると思うんです。……なんて言うと、すごく恥ずかしい感じがしちゃいますけどね。別れた後に感じる悲しみというのは、それだけ深い愛を経験したという証(あかし)でしかありません。誰かと別れた直後や、関係が終わってどん底にいる時は、なかなかそうは思えないものですけど。私のすぐ近くで今まさにそういう経験をしている人がいて、その姿を私の視点から書くことで、あなたの前にはまだ多くのことが待っているんだよ、と伝えたかったんです。
今の自分を象徴するような、聴いていて喜びを感じられる音楽を作りたいと思っています。この2年間に自分が感じてきたことや、周りの人たちが経験してきた同じような出来事、そうした「人間であること」のすべてを祝したいんです。制作のプロセスで本当に楽しかったのは、広がりのあるハーモニーを考えたり、あえて音をぶつけさせてから面白い形で解決させたり、ちょっとした対旋律を加えたりする作業でした。私にとって、それは曲をドレスアップしてあげるような感覚なんです。私はシンセサイザーや80年代の音楽が大好きなので、この曲の随所でその影響を感じてもらえると思います。
「Die Happy」
怖くなってしまうくらい誰かを激しく愛している人のために、ゴシックなラブソングを書きたいと思ったんです。「愛してる」というすごくシンプルな言葉を、いかに面白い形で表現するかということにこだわりました。この曲はアルバムの中で一番シネマティックで、視覚的な要素が強い曲だと思います。
ちょうどハロウィンの時期に書いたのですが、私はハロウィン映画が大好きなんです。ホラーではなくて、ダークでゴシックな、まるでおとぎ話のような世界観の物語が。特にティム・バートン監督の映画は、その世界構築のスキルが比類なくて大好きですね。この曲を書いている時は、頭の中で小さなティム・バートン映画を再生させているような感覚でした。歌詞よりも先にコードができたのですが、その不気味なコード進行にすごくインスピレーションを刺激されました。
「Beauty Pageant」
子供部屋のクローゼットで見つけた、壊れた古いジュエリーボックスにインスパイアされた曲です。箱は壊れていたんですけど、ネジを巻くと中のバレリーナはまだくるくると回って、あの小さなメロディも流れて……。幼い頃以来ずっと聴いていなかったその音を耳にして、すごくノスタルジックで不思議な気持ちになりました。
この曲には、きっかけとなった特定の出来事があるわけではなくて、私の人生にずっと漂っている普遍的なテーマを描いています。
これまではいつも男性ばかりのライティング・ルームにいたので、こういう話を切り出すタイミングなんてないと感じていました。その場にいる誰も共感してくれないし、理解もしてもらえないだろうと思ったから。でも、ステージ上の自分や、みんながネット上で見せている姿と、全員が帰った後の楽屋の姿や、画面の向こう側の現実……そのギャップについて率直に語ることは大切だと思うんです。たった3分間の曲にまとめるにはあまりに複雑すぎる問題ですけど、私たち向けに作られているとは言い難いこの世界で生きる一人の女の子として、私の視点から表現してみようという試みでした。
「Lucy」
私たちはお互いに育て合ってきたようなところがあるので、姉妹たちのために、彼女たちに寄り添った曲を書きたいとずっと思っていました。
それから、今まさに多感な時期を過ごしている若者たちのための子守唄も書きたいと思いました。今の世の中は変で、恐ろしくて、混乱に満ちていて、怖い場所ですから。自分の周りの世界や、家の外で起きていることに対して、圧倒されたり、無力感を抱いたり、戸惑ったりしてもいいんだよ、ということを伝えたかったんです。
「White Noise」
「White Noise」は、クラブで泣きじゃくってボロボロの状態になっている曲なんですけど、アルバムの中で一番楽しいトラックだと思います。このアルバムのために最後に書かれた曲で、ちょっとした気分転換が必要だったんです。クリエイターとして、私は周囲の環境にすごく影響を受けやすいタイプで、物理的にどこにいるかが、曲の内容やサウンドに反映されます。
この曲ではポスト・マローンやザ・ウィークエンド、マイリー・サイラスあたりをリファレンスにしました。そこにどういうわけか、カントリーの要素が混ざり合うことになったんです。カントリーは、自分のコンフォートゾーン(得意分野)からはかけ離れているので、これまで足を踏み入れたことも、挑戦しようとしたこともなかった領域でした。ジョン・グリーンのスタジオで曲を書いていた時、誰かが小さなラップ・スティールを持っていて、それを弾き始めたら、なんだか泣いているような音に聞こえて。彼が曲全体を通してリフを弾いてくれたんです。私たちは「最高、カントリーソングになっちゃったね。すごくいい感じ!」って盛り上がりました。レコーディングされたバージョンを皆さんに聴いてもらえるのが、本当に楽しみです。このツアーではアコースティックで演奏していますけど、「本物を聴くまで、ちょっと待っててね」という気持ちですね。
「Make It All Better」
イントロにはいくつか試してみたいことがありました。アルバムを、始まりと終わりがつながってループするような、円を描くような構成にしたかったんです。スタジオで「Beauty Pageant」のストリングスをレコーディングしていた時、「とりあえずチューニングしてもらって、それを録音してもいい?」という話になったのが始まりでした。ただチューニングをしてみて、どうなるか様子を見ようと。この曲はシンセのシーケンスで始まるのですが、それに合わせて何度か演奏してもらったんです。それが、何かが今まさに始まろうとしている「皆さん、お席にお着きください」という合図のような、アルバムの幕開けとしてすごく自然に感じられました。
子供の頃は踊るのが大好きで、バレエもたくさん習っていました。私にとっての大切な思い出の一つは、クリスマスにご褒美として母にバレエへ連れて行ってもらったことです。装飾が施された豪華なオペラハウスに入ると、座席はベルベット地ですごく素敵で。オーケストラがチューニングする音は、私にとっていつだって魔法のような響きでした。そしてもちろん、幕が開けばその物語の世界に引き込まれていくんです。
この曲の歌詞は、自分でも本当に誇りに思っています。一曲目から、東南ロンドンでの私の生活を綴った日記のような言葉をストレートに届けたかった。私の恋愛関係は、いつもすごくロマンチックというわけではありません。イギリスという場所はどこかグレーな雰囲気がありますし、ロンドンも私の人生の背景としては決して最高にロマンチックな舞台というわけではないけれど、それでいいんです。私はソングライターですし、曲を書くということは、自分の人生をいくらでもロマンチックに描き出せるということですから。
From Rolling Stone US.
ホリー・ハンバーストーン
『Cruel World』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/HH_CWorld
コーチェラ・フェス2026 YouTube配信
4月11日(土)12:25~Gobi Stage
https://www.youtube.com/watch?v=4C5p1tdRv6c
SUMMER SONIC 2026
2026年8月14日(金)・15日(土)・16日(日)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
大阪会場:万博記念公園
※ホリー・ハンバーストーンは8月14日(金)東京会場、15日(土)大阪会場に出演
https://www.summersonic.com/


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