しりあがり寿 presents 新春!(有)さるハゲロックフェスティバル'20〜混沌と随喜の祭典〜【直前座談会】

この世は五大陸だけじゃない

──本当に直前になってしまいましたが、今年も恒例のさるフェス直前インタビューをお願いします。まずは今年のテーマについてお聞きしたいんですが。 しりあがり寿　なんか今年は東京でオリンピックがあるみたいなんで（笑）。オリンピックって疎外感があるんですよ。自分にはあんまり関係ない感じがして。でもこういう考えはよくないなと思って、オリンピックに参加しない人、つまり五大陸に入れない人でも楽しめることをやろうと。それが今回のロクリンピック（ROCKLYMPIC）なんです。いいでしょ？ ──６とROCKとOLYMPICを合わせてるのが斬新です。 しりあがり　それで、新宿ロフトでオリンピックに出れるような本物のアスリートを見たいと思って一年前から探してたんですが、結局一人も集まらなかった。全然ツテがない。 河井克夫　テーマがオリンピックに決まって、じゃあ何をしようかと集まって会議をしたんですが、みんなオリンピックについて何も知らないんです。テーマ曲は「天国と地獄」がいいとか、それ運動会だろ！って。出てくる発想がすべて運動会どまり。 ──いままで出演バンドごとにパンクとかフォークとかジャンル名を表記していましたが、今回はそれに加えて○○代表という表記が増えてますね。 河井　そうです。今年はオリンピックだから出るバンドは国を代表して出ることにしようと。それで各バンドにどの国の代表がいいか聞いたんですよ。それで返ってきた答えが、池袋とか高円寺とか江古田とかドメスティックなものばっかりで。みんなオリンピックを知らないのかと。 おオはしさつキ　出演バンドの１つThe Artsは日本代表ですが、ジャンルはブリティッシュビートです。 河井　なんかひねりがあるんでしょうね。素直に日本代表じゃなくて、いろいろ考えた上での日本という。 村山章　ブリティッシュなのに日本って、確かに何かを訴えてる感じがありますね。 河井　もう、そのぐらいの距離感でやるしかないんですよ。 ──革命的フォークソングのザ・スリーメンがソ連代表というのは、ある意味直球ですが。 河井　姿勢が一貫してる人はいいんです。 ──河井さんは今回新しいバンド「レスポンシビリティーズ」で出演されますね。

河井　僕等はちゃんと責任（レスポンシビリティー）を持って西ドイツ代表です。西側の堕落した思想を表現しようと。 村山　それはベルリンの壁の向こう側で聞くということ？ 河井　いや、まあ、いろいろ考え過ぎてまだコンセプトが定まってないんですが・・・ ──そもそもソ連も西ドイツももうないですからね。 村山　僕等のバンド「ウィリアム・H・メイシーズ・メイシーズ」はバンド名の由来になっている映画の舞台がオクラホマシティだから今回はその地を代表することにしました。 河井　だから、説明しようとすると結局言い訳になっちゃうんですよ。 村山　全バンドが言い訳。 河井　まあ、さるフェス自体が10年間ずっと言い訳してきたようなもんじゃないですか。なんでこんなフェスをやってるのかを。だから今回はその言い訳をちゃんとメッセージに出そうとして軽く失敗してます（笑） ──2012年からは毎回その年のテーマが設けられるようになりましたが、2012年の「翼」とか2017年の「イージーライダー」とか、そこそこメッセージ性は感じましたけどね。 しりあがり　今までもメッセージはいろいろ送ってきたんだよ。「翼」は震災の次の年だったし、「イージーライダー」はアメリカがトランプ政権になった年だったからね。ただメッセージとか言うと恥ずかしいから、俺もあんまり人に言ってなかったんだけど。 河井　「翼」がテーマだというのはフェスの前日に知りました。 村山　出演者にすら伝わってない・・・ おオはし　今年の「ロクリンピック」もけっこういいテーマだと思うけどなあ。 ──確かに「この世は五大陸だけじゃない...」という言葉に強いメッセージ性を感じます。 しりあがり　何かをやるときに、何かを代表しているように思われるのって嫌じゃないですか。 村山　えっ？「○○代表」ってみんなに名乗らせておいて？ しりあがり　例えば、何か悪い事した時に「だから日本人は」って言われたりとか。 ──ああ。日本だと会社とか所属とか集団で見られがちですからね。 しりあがり　勝手に代表にするなと。俺は俺だ。群れてないぞ、と。 おオはし　フェスで集まってるのに。 しりあがり　いや、フェスは、なんというか、独立した個人の集まりだから。 河井　集団として群れるのか、個として群れるのか、その形が問われている、と。 しりあがり　そう。「和して同ぜず」ということですよ！ ──今年も何気に奥が深いです（笑）

衰える肉体の祭典!!

（ここでヴィンセント秋山氏が合流） ヴィンセント　どうもどうも。ソ連代表のスリーメンです。 ──今回、ソ連を背負う意気込みは？ ヴィンセント　いやもうボイコットする気まんまんです（笑）　ドーピングしまくって。 しりあがり　さるフェスならドーピングしても出れるからね。 村山　いや、ダメでしょ！ しりあがり　でも、村山さんもドーピングしてるじゃない？ 村山　ああ、まあ最近は糖尿病を宣告されて毎日インスリン注射を・・・ 河井　村山さんは中年のミドルエイジ・クライシスを全部やってるんです。鬱、ガン、離婚、あと糖尿病。 しりあがり　けっこう深刻だよね。 河井　なにか深いメッセージがありそうな。 村山　ガンになった時は、こういう機会もそうそうないと思って、ガンをテーマにした曲を作ってさるフェスで歌いましたけどね。糖尿病の歌を作る予定は今の所ないですが。 しりあがり　ペーソス（※高齢化社会派歌謡バンド）が歌ってますけどね。 村山　糖尿病の人って意外と多くて、連帯意識も強いんです。外でインスリンの注射打ってると、知らないおじさんからよく話しかけられる（笑）。だから歳を取ると入れるクラブみたいなもんかな。 しりあがり　確かにマンガ家で集まると糖尿病の話で盛り上がる。「いい薬あるんだよ」って。酒飲みながら（笑） 村山　あと盛り上がるテーマとして、片頭痛トークっていうのもあります。ねこと花かんむりの花井美理さんも、かなりの偏頭痛仲間なんで。 しりあがり　来年のテーマは「病気」だな。 河井　高齢化は避けて通れないですから。 ──去年も確かそういう話してましたよね。この世とあの世をつなぐフェスとか。三途の川の渡し賃の六文銭を握りしめてとか。

おオはし　言ってた！ロフトで「走らない高飛び」とか「３メートル走」をやろうって。 しりあがり　だから小難しいことはやめて「衰える肉体の祭典」にすればいいんだよ。当初はオリンピックに出るような本物のアスリートを呼んで、肉体の躍動を見せてもらおうとしてたんだけど。 河井　いかにアスリートと我々との間に距離があるかが分かりました。 ──もともと運動部だった人っているんですか？ ヴィンセント　俺、山岳部！ 村山　それはオリンピック種目じゃないでしょ。 しりあがり　大学の時バトミントン部だった。その前はテニス部。 村山　アスリートっぽい！　それってオリンピックの種目ですか？ しりあがり　両方ともそうだよ。 おオはし　バトミントンには日本の金メダル候補もいますよ。名前なんだったっけ？ 村山　いかに我々がオリンピックを知らないかが露呈していますね（笑） ヴィンセント　ふわふわしたイメージしかない。

ランニングかタンクトップか問題

おオはし　今年はオリンピックに因んでプレミアムチケット特典としてＴシャツに加えランニングシャツも作ったんです。どちらか選べるように。ただ申込初日にランニングを申し込んだ人が一人しかいなかった。 しりあがり　それ、石川浩司さんじゃないの？ おオはし　別の人でした。でもランニングの着こなしコンテスト（「めざせ！ベストランニンギスト　ランニング着こなし選手権」）をやる予定で、審査員長を石川さんにお願いしています。

ヴィンセント　ランニングって一時期流行りませんでした？ 村山　確かに、ロック方面の人とか。トーイ（※上條淳士著のロック漫画「TO-Y」の主人公）とかが着てた。 ヴィンセント　ピチっとしたヤツね。 河井　「たま」の石川さんもロックミュージシャンだから着てたんですかね？ おオはし　石川さんの場合はもっと下着に近いような・・・ 河井　トーイはタンクトップだよ。ランニングではない。 ──ちなみに開会式はあるんですか？ 村山　多分やるんでしょ？ 河井　ひょっとしたらさるフェス自体が開会式かもしれない。まあ我々はコンセプチュアル集団なので、いま開会式というものの位置づけを考えているんですが、考えすぎて何も進まないというのが最近の傾向ですね。 ヴィンセント　開会式がないかもしれないし。 河井　天野天街さんが総合演出を務めている以上、円環構造で開会式がずっと始まらないということもありえます。 しりあがり　さるフェスは、こう見えてどんな批判にも耐えられるようにいろいろ理論武装しているんですが、問題は今まで誰も批判してこないことだよな。 ヴィンセント　本当、僕等もっと批判されたいんですよ。もっと論争したい！ 河井　さるフェスの会議はほとんどそういう話をしてますからね。それで話が全然進まないんです。 ヴィンセント　特に今回は、運動会とオリンピックの認識の違いで話がなかなか噛み合ってないから。 ──ランニングかタンクトップかで意見が分かれてますからね。 ヴィンセント　だからランニングよりもピチっとしてるのがタンクトップなんじゃない？ おオはし　肩のラインの違いなんじゃないかなあ。 村山　いや、走る時に着るのがランニングですよ。 しりあがり　まずはそこを整理しないとフェスが始まらないね。 河井　タンクトップは戦車に乗る人が着るからタンクなんですよ。ほら、戦車の中って暑いでしょ。 村山　ランボーはタンクトップは着てるけど元グリーンベレーだから、戦車兵じゃないでしょう。。 おオはし　ウィキペディアで調べると、タンクトップの名前は競泳用水着（タンクスーツ）の上部に似ているからだそうですよ。 しりあがり　ああ、タンクって水槽から来てるのか。 村山　戦車と全然関係ないじゃない。 しりあがり　水着なんですね。じゃあ水泳競技とかやらないと。 おオはし　ロフトに水張っていいですか？ ──うーん、さすがにプールを作るのは無理じゃないかなあ。 ヴィンセント　じゃあ、もうスイマーズを呼ぶしかないな。 村山　それだ！超アスリートバンド、いたじゃない！ おオはし　アスリートじゃないけど！ 村山　さっそく出演交渉しなきゃ。ていうかなんでまだオファーしてなかったんだろう？ ヴィンセント　あまりに近くにいすぎて気づかなかった。 おオはし　毎年、深海エリアにいました。 河井　針灸もしているから、アスリートでもありますよ。 ヴィンセント　あー、なんで今まで気づかなかったんだろう。 村山　これでだいぶスポーツに近づいてきたな。 ──むしろ遠ざかってるような気も・・・ しりあがり　なかなかオリンピックに近づけないね。 ヴィンセント　やっぱり我々がスポーツを知らないというのが最大の難点ですね。

さるフェスはオリンピックだった!?

河井　とはいえフードは今年もすごいですよ。「六大陸目のカレー」ということで６種の食感のキーマカレーが登場します。ロクリンピックの方はコンセプトがふわふわしてますが、カレーの方はちゃんと「さるハゲカレー大会」で優勝したメニューですから。そこは自信を持っておすすめします。 おオはし　カレーの金メダリストですね。あれ、ホントにおいしかった。 しりあがり　やっぱり今年はカレーだな。 ──結局行きつく所はカレーですか！ ヴィンセント　でも真面目に言いますけど、オリンピックの大会ビジョンって多様性と調和でしょ。さるフェスも色んな所の代表が集まるってだけで、もう既にオリンピックとして成り立ってるんです。これだけたくさんのバンドが出てるんですから。 しりあがり　そんなこと言ったら毎年そうだけど（笑） 河井　毎年同じことをやってたのを、今回わざわざ改めてロクリンピックと名乗ったわけだ。 ヴィンセント　だから今年はいつも以上にバンドの名誉をかけて戦います。少なくともスリーメンは戦う気満々。遊びじゃない。 おオはし　戦いだったのか。 村山　確かに演奏時間20分という同じ条件の下ですべてのバンドがしのぎを削って戦ってますね。 河井　さるフェスはすでにオリンピックだった。 しりあがり　そうか～。それは驚きだね。 村山　我々、いつもスポーツマンシップに則って正々堂々と勝負してますから。 ヴィンセント　まあうちらはドーピングしますけど（笑）

お客さんも全員選手！

しりあがり　しかし、こんな状態からどうやってロクリンピック気分を盛り上げていけばいいんだろう。

河井　そこはほら、やっぱりメダルですよ！　今回ちゃんとメダルを作りましたから。 ──あのー、去年もメダル作ってませんでした？　さよなら平成記念メダルとか。 おオはし　でも今年のメダルには首掛け用のリボンも付いてるんです！ 村山　しかもプレミアムチケットを買ってくれた人は、もれなく金メダルがもらえるんです。 しりあがり　金さえ出せばね。 河井　まあ、出来レースですよ。 ──じゃあ表彰式とかもやるんですか？ しりあがり　ああ、そうか。確かオリンピックではそういうこともやってるよねー。 おオはし　ランニング着こなし選手権で表彰式やりますか。 しりあがり　その時だけは君が代流しましょう。 おオはし　外国人が優勝するかもしれないですよ。 しりあがり　それは我慢してもらうしかないな。 村山　せめてYouTubeかなにかで検索して、その国の国歌を流してあげましょうよ。 （ここでグッズ担当のあきやまみみこさんがメダルの試作品を持って登場） ヴィンセント　（メダルを手に取って）おおー、思ったよりいいねえ。 おオはし　これは見たら欲しくなりますよ！ しりあがり　今年はグッズとカレーだな。 ──でも金メダルは事前にプレミアムチケットを申し込まないともらえないんですね。 みみこ　大丈夫です。当日も会場では「取るに足らないこの世にひとつだけの賞メダル」という31個限定メダルを用意しますから。すべてデザインと賞の名前が違う一点物です。

──じゃあ、お客さんは早めに来たほうがいいですね。 ヴィンセント　まさにレースですよ。早く会場に到着すれば欲しいメダルが選べる。 みみこ　そうかー、自分が欲しい賞を獲るっていいですね。まあ買うんだけど。 ヴィンセント　だから、お客さんも選手なんです！ しりあがり　みなさん、当日はお金を握りしめて走って来て下さい。