配信は配信の伝え方で面白いことができる
──新型コロナウイルスの渦中ですが、こんな時期のリリースで。でも今で良かったなぁって私は思っていて。
YUKARI(BLUE YUKARI:floortom, vocals):良かったですよね。
──こういう時だからこそ活動しているってことを提示できるのは、凄くいいことだなと。リスナーも凄く励みになると思う。
YUKARI:そうであればいいな。
──Limited Express(has gone?)としては先日、BUSHBASHで配信ライブをやりましたね。
YUKARI:凄いスピードで計画が進んで本当に素晴らしかった。外に出なくてもできることをやろう、外に出なくても見られるものをやろうって。それはもちろん、全然否定してなかったんですけど。実はわたし自身、やるかどうか迷ってたんです。
photo:浦将志
──きっとYUKARIちゃんにとってライブは凄いテンションが必要なんだよね。ライブへ向かう意識をバシッと高めなきゃライブはできないっていう。
YUKARI:かもしれない。お客さんがいない中で自分のパフォーマンスがどこまでできるのかわからない、みたいな。
──お客さんを巻き込む、お客さんと一緒に作るっていうのがリミエキのライブだもんね。
YUKARI:あと、単純にこっぱずかしいっていうのもあるし。配信に関わったメンバーに「なんで配信やりたいの?」って訊いたら、「ちょっとでもみんなが元気になれば」っていう意見もあって。それがわたしには凄い高いハードルで。誰かを元気にするためにやるの? って思ったら、自信なくて。あの日に出たFUCKER、DEATHRO、田島ハルコさんは人を元気にしたり鼓舞していったり、そういうことができるカッコいいアーティストだと思うんですよ。でもわたしは、今みんなに元気を与えることができるのかな? って凄い思ったんですよ。
──できるよ! まぁ、今は音楽や表現や自分の立ち位置を考えざるを得ない時だし、東日本大震災の頃のような。
YUKARI:ホントそうですよね。
──いろいろ考えてる時だと思うけど。みんなを元気にするっていうのは結果であって、それが目的になったら違うんじゃないかっていう?
YUKARI:それもあるかもしれない。配信をやるって決めたのは、今ライブをやらなきゃいけないし、配信って方法しかなかったらそれをやるしかないし、それがわたしのやりたいことなんだってシフトチェンジできたんですね。
──配信を終えてどうだった?
YUKARI:音楽の新しい楽しみ方ってまだあるんだなっていうことが、ちょっとわかったかな。配信は配信の伝え方で違った形のライブができる。このやり方でも何か面白いことができるなって。コロナが過ぎたら世の中は変わるって予感があるじゃないですか。変化する中でのやり方の、ちょっとしたヒントの一日ではあった。
──今Skypeでインタビューしてるけど、これも当たり前のものになっていくだろうしね。
YUKARI:ツールの一個としてね。ただああいった形の生配信は、うちらのようなバンドにとっては一発しか撃てない弾だよなぁ、とは思いましたけどね。
──あの時だからこその思いもあったわけだしね。「慣れ」になってはいけない。
YUKARI:そうそう。わたしとしての着地点は「今やらなきゃ。今演奏しなきゃ」って思いだったんですよね。そのクオリティを常に保てるのか?って考えると、難しいかもしれないなぁって。
──YUKARIちゃんって、「今やりたい」「これしかない」っていうパッションが原動力なんだろうね。
YUKARI:そうかもしれない。この間の配信も、やるんだったら何か新しいことをやらないといけないって思って、新曲を作ったし。
──凄い。
YUKARI:そうなんですよ(笑)。たぶん自分でもハラハラしたいんですよ。なんていうのかな、日常の生活でギリギリってことはなかなかできないじゃないですか。たとえば私が急にメチャクチャなことして家を出てったら大変なことになる(笑)。そういうことはやっぱりできなくなって。若い頃はできたんですよ。音楽も生活も全部がギリギリで。
──昔はバンドなんていつ辞めてもいいって気持ちだったって言ってたもんね。それがそうじゃなくなってきた。
YUKARI:若い頃は音楽に対しても人生に対しても、いつ辞めてもいい、いつ死んでもいいって気持ちでしたね。でも今はそうじゃない。
──なるほどー(笑)。ニーハオ!!!! もリミエキも変わり続けてるわけだけど。ニーハオ!!!! とリミエキの違いって?
YUKARI:リミエキはわたしだけのバンドじゃなく、(谷ぐち)順ちゃんがいて(飯田)仁一郎くんがいて、いろんなことを考えている。むしろわたしはあんまり大きなビジョンを持ってない。ニーハオ!!!! もわたしだけのバンドじゃもちろんないけど、「ヨシッ! ついてこい!」って感覚があるんですよ。リミエキのライブでは何も考えずに好き勝手にやれるんですね。ニーハオ!!!! は「こんなに面白いとこがあるよ!」ってメンバーを連れてく感じ。一緒に行こうって。
──ニーハオ!!!! のライブ、4人が横一列に並んだ立ち位置が凄くいいんだよね。ホント、一緒に行くぞ!って感じで。
YUKARI:いいですよねー。ニーハオ!!!! のライブでは、なんならわたしは唄わなくていいって思ってるし。わたしは最初の煽りだけで、あとはメンバーそれぞれが自由にやって。わたしはそれを見ていたい(笑)。3人がめちゃくちゃ可愛いし。4人で一緒にやってるってことを意識できるのが凄く楽しいんですよ。

4人バンドとしてやりたい音にかなり近いものができた
──改めて、ニーハオ!!!! は結成から20年くらい経つ?
YUKARI:経ちますね~。たぶん結成が2000年ちょうどです。
──私のイメージかもしれないけど、最初の頃はオルタナなバンドではあったけど、ユニット的だったし、サブカル的な感じも…。
YUKARI:そうですね。音楽がやりたくてバンドを始めたわけじゃないので。楽しいことをやろうって思ったら、それが音楽だったっていう。遊びチームみたいな。遊びよりは真剣だったけど。なんていうか、人生楽しむぞチーム(笑)。女の子が集まって楽しいこと、やりたいことを好きにやる、そのツールが音楽だった。今もそうですね。ニーハオ!!!! は何かを決める時、面白いことっていうのは絶対条件で。
──音楽がツールってのは変わらないだろうけど、音楽がド真ん中にあるって感じに変わってきてるよね。特に今作は強烈で強力なバンドサウンドだし。
YUKARI:メンバーのお陰ですね。結成当初、ARIKOとYUKARIともう1人いて3人だったんですけど、二十歳そこそこだったし何も考えてなくて。考えてなくても楽しかったんですね。その後、ARIKOと2人になって、面白いこと楽しいことをやりたいから、そのためにニーハオ!!!! をやってるんだよなって確認し合って。で、その極致が、L.A.在住の双子をメンバーにして作った『NO RESPECT』(2015年)。あのアルバムは面白いことをやろうってことの極致じゃないですか。
──確かに。L.A.の双子はほぼ初心者だし、メンバーの集め方から活動のやり方からしてね。だからこその自由度の高さといったら!
YUKARI:そうそう。実際、アメリカツアーもしたんですけど、でも長続きするわけないですよね(笑)。あのアルバムは面白さ追求のMAXでしたね。そこから4人でやるのが楽しくなって。でも双子はL.A.在住だから続けるのは無理。で、その後、メンバーチェンジがあって今のメンバーになった。今の2人、ミーちゃん(YELLOW MIWAKO:bass, vocals)とカオリちゃん(PURPLE KAORI:guitar, vocals)はミュージシャンだったんですよ。バックボーンも演奏力もあるミュージシャン。そしたら音楽ってものがもっと楽しくなってきたし、演奏ってとこにも力が入りますよね。頭の中で思ってた音が表現できる。今までは、やりたいことがあってもちょっと演奏が追っつかなくてローファイとかスカムになってたけど、今なら思ったことができますからね。ガレージやロックンロールに近いこともハードコアも。思ったことができるっていうのは凄く楽しい。
──そこでたとえば、普通のバンドになっちゃうんじゃないかっていう不安はなかった?ニーハオ!!!! の曲作りの発想は、他にないものをやろうとか奇をてらってやろうとか、そういうのは?
YUKARI:もともとわりとストレンジな音楽だとは思うんだけど、奇をてらうつもりはなくて。たぶんね、上手く表現できないから変化球になってたんですよ、ホントはストレートを投げたいのに。今はストレートを投げたければ投げられる。でもニーハオ!!!! らしさは残したいから、2人ドラムとかARIKOのわけわからんサンプラーのリズムとか。そこはニーハオ!!!! らしさとして意識はしてますね。だから昔もわざとヘタウマみたいにやってたんじゃなくて、一生懸命やってアレ(笑)。子どもが描いた絵はなんかいいね、みたいにとってもらえれば(笑)。

photo:中野賢太
──確かにストレンジではあったけど、捻くれたとこは全然なかったもんね。
YUKARI:でもね、ちょっといろいろ意識した時期もありましたけどね。海外ツアーに随分行った時期があって。日本のバンドってキテレツな感じを求められたから、ちょっとそこは意識した時期もあったな。
──そんなことを経ての今作。ストレートなんだよね。音だけじゃなく、思ったことがバシッとやれてるって意味でも。自信が音に出てるし。
YUKARI:4人になってから『NO RESPECT』、『PAYDIRT』(2016年)と作ったんですけど、その2枚はローファイで音源としての面白さとかを出したものだと思うんです。今作はライブ感やグルーヴを出せた。ホントは前からライブ感やグルーヴのあるものを作りたかったんだけど、ドラムやサンプラーが特殊なセッティングだから録音が難しくて。ストレートな音を作りたかったのにストレンジになっちゃってた。それが今回できたんですよ。4人バンドとしてニーハオ!!!! がやりたい音に、かなり近いものができた。ARIKOもわたしもやったことない楽器でこの編成を始めたんだけど、いつの間にかやれることがどんどん増えて上手くなってるんですよ(笑)。メンバーが4人になる時、人数増えたら自由度なくなっちゃうんじゃないかなって思ってたけど全然そんなことなくて。今作なんかホント自由で。拍とかメチャクチャでもできるし、独自のタイム感を作っていけるし。
──3曲目の「ちょちょちょちょ」のリズムのタイム感、凄くいい。
YUKARI:ミーちゃんをフィーチャーしていく曲ですね。
──各々のカラーが出てるのもいいよね。
YUKARI:ミーちゃんのガレージロック、カオリちゃんのハードコア。
──そこにクラーク内藤さんが「MATSURI-SHAKE」と「FUTURE」のトラックで参加。「FUTURE」のギター凄い。
YUKARI:凄いですよね。アルバム作るにあたって、ライブ感のあるものにしたいっていうのは最初からあって。そこに緩急が欲しかったんですね。同時にクラーク内藤さんと何かやりたいって思いも前からあって、タイミングも良かった。クラーク内藤さんが仕上げたトラックの上に、わたしたちの演奏をどう絡めるか、その作業が面白かった。
──なんかさ、ニーハオ!!!! の存在はリミエキの曲の「フォーメーション」を具現化してるような感じがして。いろんな女性が一つのバンドにいるっていうのが。
YUKARI:メンバーの中でわたしだけが女なら、私が女の代表みたいになっちゃうじゃないですか。だけどニーハオ!!!! はアリちゃん、ミーちゃん、カオリちゃん、わたしが横に並んで、わたし1人じゃない。4人いたら4種類の女性、違う個を持つ女性がいる。それって良くないですか?
──いいいい! 一括りにされてたまるか! っていうか、一括りにできないしね。
YUKARI:「パワーパフガールズ」みたいなのがいいなぁって。
──いいねぇ。で、「女の子」とか「女性」ってことにこだわりがあるわけで。多様性を考える時、「性別なんか関係ない」っていう考え方もあるじゃん。
YUKARI:ニーハオ!!!!に関しては「女の子」とか「女性」にこだわりがありますね。女の子ならではの音を出したいって意味ではないんですけど…。でもガールズバンドとかフェミバンドとか、女の子バンドのカテゴリーとして敢えてやってます。

女性であることは紛れもなく自分のアイデンティティ
──ニーハオ!!!! を結成した時も「女の子が集まって楽しいことをやりたい」ってことだったわけだけど、それは今と同じ?それとも、女の子とやりたいっていう、その理由が変わってきた?
YUKARI:ああ、変わってないとこと変わったとこと…。結成は大学のサークルで、圧倒的に男の子が多くて。なんとなく女の子は下に見られてる空気はあったかも。わたしが楽器を始めたのは大学に入ってからで全然弾けなくて、余計にそう感じたのもあるけど。で、そんなこと気にせずやりたいことをやろうって始めたのがニーハオ!!!!。
──周りの評価なんかどうでもいいじゃんって。
YUKARI:そうそう。今も基本的に変わらないんだけど…。昔は女の子であることがちょっとコンプレックスだったんですよ。だから、そんなこと気にせずやりたいことやろうって。わたし自身も当時は気づいてなかったけど、圧倒的に男性の多いバンド界隈で女の子であることによって感じる違和感がそのコンプレックスの原因だったのかも。いつの間にか植えつけられていたコンプレックス。それが今はプライドになったんですよ!
──うんうん。誇り。
YUKARI:そこはアイデンティティだから。女性であるってことは紛れもなく自分のアイデンティティ。特に今自分がいる音楽のシーンにおいて、女性っていうことが自分のアイデンティティだと思うので。今の自分に誇れるのは女性であるっていうことで、そういう意識でバンドをやっている。それでいいんじゃないかなって思ってます。私が女性であることによって気づいたことは、他のセクシャリティ、人種、いろんな人がそれぞれ考えて辿り着いたアイデンティティと繋がるものだと思うし。人によっては、女性だからって嫌な思いしたことがないし、差別されたことがないって人もいると思うんです。それでもいいと思うんです。でも女性だから辛い思いをした人、マイノリティだから辛い思いをした人もいるわけで。そういう人とわたし自身も繋がってるし、切り捨てることはできない。傷ついてる人を見なかったことには絶対にできない。だって女性であるっていうアイデンティティがプライドになったのは、そういうことに気づいたからですもんね。
──うんうん。女性としての痛みに気づいたことによって、人間としての痛みを知ったっていうか。
YUKARI:そうそう。女性としての経験によって、自分とは違う人を知ることができたっていう。自分のアイデンティティを自覚したんでしょうね。自分の中にもいくつかのパーツがあるけど、バンドをやるにあたって女性っていうアイデンティティを出していきたいんです。
──ニーハオ!!!!の歌詞は意味がないように感じられるかもしれないけど、絶対にメッセージがあるしね。
YUKARI:ありますね。意識しないで自由に書きたいとは思ってるんですけど、でもやっぱり今の時代だからできた歌詞ですよね。それも女の子でやってるっていうプライドですよね。自分たちの存在を出さなきゃ…、出さなきゃじゃないな、出ちゃいますよね。
──たとえば同じ言葉で唄ってても、その言葉に思いや意志が宿ってるんだよね。
YUKARI:今の時代の流れとか世の中の動きに敏感でいたいなって思ってます。政治的なこと、政治的っていうか、自分が生きてる社会のこと、それも歌詞に入らないと嘘かなって思い始めて。私は少なくとも今ここで生きていて、だから感じることもあるし。作ってる時は全然意識してないんですけどね。でもメッセージのないものを作ろうってフェーズではないってことなのかもしれない。自分の考えや立場は表明しておきたい。自由に楽しんでもらうためにも。今エンタエさんが言ってくれたように思いや意志が宿ってるって、ホントそうかもしれなくて。昔は「楽しいよ」ってそれだけで成り立ってたし、どう解釈してもらっても良かったけど。今は「楽しいよ」の中に「私は楽しいことを持っている」かもしれないし、「楽しいことを続けよう」かもしれないし、「誰もが楽しくある」かもしれない。そこに感情やメッセージがあるんです。それは出そうとしてじゃなく、自然にそういうものであってほしいんですよね。
──うんうん。それが表現の深みっていうか真摯さっていうか、表現の面白さで。ホント『FOUR!!!!』は感情と肉体のある歌詞だしサウンドだと思う。強烈でワクワクする。ライブハウスでのライブも早く見たいです。
YUKARI:ライブハウスで女の子や子どもがライブを見てたらどんどん前に出てきた、なんてことがあったら凄い嬉しいですね。
──ああ、女の子が前に出てきたり子どもが踊ってたり、そんな景色が浮かぶ今作は、未来なんだよね。遠い未来じゃなくてリアリティある、自分の手で作れそうな未来。そういう世界を感じる。
YUKARI:あ、うんうん。明日よりもちょっと先の、子どもが大人になるくらいかな、そんなところまでくらいの未来に向けてますね、確かに。リミエキは今の時代だったり瞬間のカオスだったりするけど、ニーハオ!!!! は確かにちょっと先の未来に向かっていってます。未来を作っていきたいですね!
