配信の仕事を通じて再認識したライブハウスの凄さ

──コロナ禍で配信ライブが増えましたよね。大石さんが撮影している配信ライブ、どれも凄く良くて。これはぜひ話を聞きたいって。

大石:ありがとうございます。

──配信という新しい伝え方を経験して、何か気持ちの変化はありました?

大石:変わってはないです。今までの延長上でやってるだけなので、配信だからといって特別なことをしてるわけではありません。その場のベストな瞬間を伝えるということでは、意識は全く変わっていません。唯一変わったといえば……、前より密にライブハウスの人と関わらせてもらっていることです。今までは「今日はよろしくお願いします」と挨拶程度の時間しかなかったのが、配信での撮影は、PAさんとの打ち合わせなどライブハウスの人と密に関わる。そこでわかったのは、ライブハウスの凄さです。配信というツールは変われど、アーティストの音楽を伝えるためにベストを尽くすということを、ライブハウスの人たちはし続けている、その凄さを目の当たりにしました。

──今までずっと熱量を持ってやってきたからこそやれるっていう。

大石:そうだと思います。ライブハウスではライブは日常的にあって、そのライブをスタッフの皆さんは凄い熱量でやってきた。配信はその日常があったからこそやれるんだし、困難な中であろうと、今までのライブハウスの役割としては変わらずやり続けていると感じました。

──変わったんじゃなくて、再確認したっていう。

大石:そうです。私が配信を初めて撮ったのが小岩BUSHBASHで。ライブハウスで働いている人は本当に凄いと感じました。BUSHBASHでは、特にラウドなバンドから音数が少ないバンドまで幅広く出演しています。そんなアーティストがその日のために気合を入れてライブをしに来る。スタッフの皆さんはそれぞれにとってベストな状態の場所を作って提供する。それが毎日行なわれるというのは相当なパワーがないと続けられないなと感じました。そういう店の人たちと一緒にライブを届ける感覚だったので、自分も撮影者として関わることはとてもパワーが必要でした。

 BUSHBASHに限らず、ライブハウスは少数精鋭のスタッフで経営していると思うのですが、BUSHBASHの場合は、PAは久我(真也)さんという方が基本的には一人でやっています。たった一人でセッティングして、楽器の設定から何から何までやる。それは今までもずっとやってきたことで、アウトプットが配信になったとしても、配信に適した音作りを常に模索していて、バンドの音をベストな状態で伝えたいという姿勢は全く変わってないんです。

それがライブハウスにとっての日常なんだと感じましたし、日常を止めないために配信をやっている。店長の柿沼(実)さんは、日々流れてくる情報をかき集めて精査した上で、今何をすべきか、今できることは何かというのを物凄いスピード感で判断して、自分たちのやり方で実行している。それに加えて、ユーモアを持ってやっているところがBUSHBASHらしいなと思いました。配信をやり始めた頃、BUSHBASHにデカいしゃもじみたいなものが飾ってあったんですよ。柿沼さんに「コレなんですか?」って聞いたら、「密を避けてお酒を提供できるように」って(笑)。

──カウンターからデカいしゃもじでお酒を渡すんだ(笑)。

大石:そうなんです(笑)。この非常時に、まずデカいしゃもじを買ってきたという。最初にやるのがソレかーって(笑)。

──そのユーモアの感覚こそが、日常の感覚。

大石:そうなんです! この機会にいろんなライブハウスに行かせてもらったので、特に感じたのですが、スタッフの皆さんは、“祭り”にしたいわけではなくて“日常”としてのライブハウスを続けたいと物凄い努力しているということです。配信することは決して派手なことをやりたいわけではなくて。

今までの日常を続けたいからやってるだけなんだと感じました。“祭り”じゃなく“日常”。私もそういう気持ちで撮ってます。

その時のベストは何かを常に考え、行動していく

──大石さんの最初の配信の撮影は3月29日にBUSHBASHで行なわれた『CRYMAX BROADCAST』ですよね。配信で見てたけど、臨場感にびっくりした。ここまでやれるんだって配信のイメージが変わりました。

大石:ありがとうございます。あの日はDEATHROさんとFUCKERとLimited Express (has gone)、田島ハルコさん。あの頃はまだ配信ライブが少なくて、でも配信したいということを谷ぐち順さんと、DEATHROさんが言いだして。正直、私はそれに巻き込まれただけなんです(笑)。

──Less than TVの人たちに(笑)。

大石:はい(笑)。もちろん全力のライブで。

終わった後に「配信って興味あったんですか?」ってDEATHROさんに聞いたんですが、「ライブハウスでライブをやりたかっただけですよ」って。それが本当なんだろうなと思いました。もちろん安易な気持ちからではなく、ライブハウスでライブをするという日常を止めないために、議論と対策を練った上で行なっています。配信の撮影でライプハウスに通わせてもらうようになって、毎回そんなアーティストと、ライブハウスの人たちからパワーをもらっています。

──「ライブハウスでライブをやりたかっただけ」っていうのは、ホントに真実の言葉って感じだなぁ。

大石:そうですよね。配信をやるかどうかということは、いろいろなバンドに話が行っていると思うんです。お客さんがいないのに良いライブができるのか、テンションを上げていけるのか。音楽をやっている人は、とても慎重に考えていると思います。また、ライブハウスが厳しい状況だからドネーションや動画のアーカイブの販売など、店とバンドと視聴しているファンとで助け合っていこうという気持ちもあるはずです。でもライブをやる本来の理由はそれじゃないですよね。それより何より“ライブハウスでライブをやりたい”。

──ホントそうなんでしょうね。でも配信を躊躇するバンドも多いでしょうね。

大石:今もいると思います。配信に乗せる音はラインとエアを混ぜますが、音の波動がやっぱり生とは違う。ハードコアのように音像が大きかったり、逆に空気に触れて生まれるような音は、配信でそれを伝え切るのは難しいとは思います。良さが伝わるのか心配になると思います。そういうバンドやミュージシャンの良さを、どうやったら配信でも伝わるのか。そういうことは常に考えて試行錯誤しています。でも、やはり配信はやらないという考えのバンドもいると思いますし、そのやり方でいいと思います。その人たちがライブができるようになるまで、自分は何か手伝えることをやっていけたらと思っています。

──ああ、そうですよね。配信はそのためでもあるし。

で、配信はメリットもあるけどデメリットもありますよね。たとえば、実際のライブハウスは対バン形式で、そこで初めて見るバンドがいたり偶然の出会いがある。配信ではそういう偶然性は難しい。あと動員が少ないバンドが配信をやるっていうのもハードル高いかもしれない。

大石:だからこそ、そうなってしまわないようにしようと、それぞれのライブハウスは視聴人数が少なくてもやっていますよね。動員が多いアーティストだけがやる、という形にはしない。それがライブハウスの姿勢なんですよね、きっと。

──確かに。それは以前から続けていることで、配信だからって変えることのない姿勢ですよね。

大石:これから先、今までのようにライブができるようになるかもしれないし、もっと制限されていくかもしれない。

──生のライブと配信ライブ。補い合っているし延長上だけど、依存し合ってるわけじゃないっていう。

大石:そうですね。今は状況が日々変わっていくので、その時のベストを必死になってやるってだけです。ベストは何かを常に考え探して行動するということですよね。ライブハウスの皆さんが凄く悩んだ上で努力して行動されているので、私も必死です(笑)。

撮影しながら「負けるもんか!」という気持ちが常にある

──ライブハウスの存続は、音楽好きは全員当事者ですよ。みんなで頑張りたい。あ、ところで配信ライブの告知ツイートとか、撮影者のクレジットも明記されることが増えてきてますよね。カメラマンの個性が段々わかってくるようで、とてもいい。

大石:ただ、私が知らないだけかもしれないんですが、プロや撮影の知識がある方が、ライブハウスの撮影をサポートしてる場面が少ないような気がしています。厳しい状況なのでギャラの問題や仕事が忙しいとか外に出たくないとか理由はいろいろあると思いますが、ライブを撮りたいという人にとってはとてもいいタイミングだと思っています。ライブハウスもギリギリの人数でやってるところが多くて、それぞれ工夫して、店の人が撮影もしたり、メチャクチャ頑張っているんです。でも餅は餅屋だったりするところもあり、きっとプロの人や知識がある人のアイディアを求めている部分もあると思います。撮影の勉強をしてる学生さんにとっては、修業の場になるかもしれません。撮影したいって思ってる人はどんどん行ってみたらいいと思います。そしたら今まで出会っていなかったバンドとの出会いも、撮影する人にとってもあると思います。

──新しい才能が出てきたり、新しい出会いがあったり。

大石:そうです。三上寛さんがBUSHBASHで配信ライブに出た時、凄く喜んでたじゃないですか。

──見ました!(4月13日『Yamanba』)

大石:三上寛さん、「今日は若い人たちと一緒にやれたし、新しい人と出会えたし、新しいスタートが切れた」って言ってたんですよね。

──そうそう。「面白いと思う気持ちまで萎縮させることないよ」とも言ってましたよね。

大石:凄く楽しそうに言ってましたよね。あのベテランさんがそうやって喜んでいて。凄くポジティブですよね。

──発想がポジティブ。

大石:今は厳しい状況だからこそ、そういう発想って大事だなぁと嬉しくなりました。

──ホントそうですね。では大石さん個人の撮影における考え方について。迫力あるライブ映像だけど、立ち向かっていく感じ?

大石:「負けるもんか!」という気持ちはあると思います(笑)。京都のnanoにLess than TV主催の『METEONLINE NIGHT』という配信イベントのために行かせてもらったのですが、撮影終わりにWARHEADのJUNさんがメールをくださって、「タッグマッチだったな」と。確かに振り返ればそうでした。「絶対負けるもんか!」と思って撮っていたんだと思います。

──大石さんの映像は、躍動感があると同時にガッと真正面から挑んでる感じがある。あと距離感が絶妙。

大石:JUNさんに「全然邪魔にならなかった、全然気にならなかった」とも言われました。アーティストそれぞれに演奏をする上での絶対的なパーソナルスペースがあると思っています。そこのギリギリのところまで攻めて撮ろうと思っています。

──映画『MOTHER FUCKER』も距離感が絶妙でしたもん。谷ぐち家に引き込まれてるんだけど、引っ張られてはいなかった。

大石:谷ぐち家には引っ張られまくりですよ(笑)。

椎名(編集部):大石さんには独自の“大石ディスタンス”があるんですよね。

──ありますよね。ライブの映像も迫力あるし生々しいんだけど、なんていうか、どこかシュッとして凛々しい。

大石:自分ではそういう意識はないですね。ただ、「私が撮りました!」「私の表現を見て!」とか、そういう意識では撮影したくないと思っています。「この人たちはなんてかっこいいんだ」と思って、それを「もっと多くの人に知ってほしい!」ということだけです。

──とにかくバンドが好きだからっていう。

大石:そうです。当初、カメラはライブに行くための口実でしたから(笑)。

“音楽”を撮りつつ“人間”を撮る姿勢

──そうだ、配信の動画で面白かったのは、5月24日のLIVEHAUSでのFUCKER、チーターズマニア、ニーハオ!!!!。アレは『LIVEHAUS SoundCHECK』と題して、ライブをしてから2週間後に配信されるという企画で。2週間で編集もやって。ニーハオ!!!!のライブ映像、メンバー4人を四分割に均等に編集して。前にニーハオ!!!!のYUKARIちゃんにインタビューした時、「リミエキでは女性は自分一人だから女性の代表みたいな感じになっちゃうけど、ニーハオ!!!!は4人が並んで、それぞれの個を持つ女性がいる」って言っていて、大石さん撮影のニーハオ!!!!はYUKARIちゃんの言葉を可視化したようで嬉しくなった。

大石:良かったです。少ない時間と少ない予算で必死にアイディアを出しました(笑)。ニーハオ!!!!のアルバム『FOUR!!!!』が、4人の音がハッキリとしてたんですよ。各々の個性が出ていた。なのであのアイディアが浮かびました。

──やっぱりそのバンド、そのミュージシャンがどういう気持ちで音楽を作っているか、大石さんは考えてますね。だから“音楽”を撮りつつ“人間”を撮っている。MVも撮っているけど、テニスコーツの「さべつとキャベツ」が印象的で。「原爆の図」を静止画像で撮っていて。迫力あるライブ映像とは全く違う撮り方。

大石:パンク、ハードコアの映像を多く撮らせてもらっているので、私の映像はそのイメージが強い可能性はあるのですが、テニスコーツの「さべつとキャベツ」は歌詞を伝えたいというのがまずありました。また、あの時期に、テニスコーツは丸木美術館でライブをやる予定だったそうで、それができなくなってしまったことと、テニスコーツの植野(隆司)さんが「原爆の図」と曲のイメージが重なるということで、丸木美術館で撮ろうということになりました。もうそれだけでいいじゃないですか。あの歌詞とあの絵。それだけで曲のイメージを映像にするとしたら、すでに完成されていると感じました。なので私はそこを崩さないように、シンプルな撮影方法に徹しました。

──テニスコーツの2人が「原爆の図」の絵の前を歩いているというか、通り過ぎていきますよね。シンプルだけどいろんなことを感じ取ることができる。

大石:テニスコーツは世の中で起きていることをしっかりと曲にする2人だと思っています。東日本大震災の後も東北に何度も通っていますし。世の中の変化、世界をしっかりと見てきた2人が、これから先の未来に繋がっていくイメージで歩き続けている映像です。

──凄い曲だし、凄い映像だと思います。やっぱり音楽を撮り、人間を撮っている。で、なんとthe 原爆オナニーズのドキュメンタリー映画を去年はずっと撮っていて、いよいよ公開が決まったそうで!

大石:そうなんです!

──the 原爆オナニーズを撮りたい! って自分からオファーして?

大石:はい。自分で企画を出しました。

大石規湖(映像作家)「ライブハウスを"祭り"じゃなく"日常"...の画像はこちら >>

大石規湖(映像作家)「ライブハウスを"祭り"じゃなく"日常"に── コロナ禍のライブ配信時代に果たす映像の力」

──そこにどんな思いがあったのでしょう。

大石:これまで私が関わらせてもらった音楽をしている人たちの言葉や、経験などからの影響で出来てしまったという気持ちです。なので、今まで関わらせてもらった人たちには観てほしいと思っています。感謝の気持ちも込めて。the 原爆オナニーズは、38年間、仕事と音楽活動を両立し続けているバンドです。そんな人たちが、答えに導いてくれるのではないかと感じたので、力を借りる気持ちでドキュメンタリー撮影をお願いしました。私が求めてる答えは、そう簡単にはくれない人たちでしたけど(笑)。

──楽しみです! 映画のことは公開近くなったら改めてインタビューさせてください! では最後に、コロナ禍の今、ライブハウスを愛する人たちに向けて。

大石:ライブハウスでしか得られない体験、人との出会いがこれからもずっと続いていくように願って、行動していくしかないですよね。

大石規湖が配信を通じて知り合った《DISCIPLINE》というクルーとの作品



◉今週末(8月9日)に配信される大石規湖の最新映像作は羊文学のオンラインツアー『優しさについて』。詳細はこちら。

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