身近なことに置き換えられることが沢山つまっている
――『小さなバイキング ビッケ』はもともと児童文学で、その後アニメ・実写、そして今回の映画にも繋がるCGアニメのTVシリーズと全世界で愛され、『ワンピース』をはじめ多くの作家・作品に影響を与えた長く愛されている作品ですが、元々このシリーズはご存知でしたか。
伊藤:いえ、このお話をいただいてから作品を観ました。母がドンピシャの世代でリアルタイムで観ていたらしくて、そういった作品に参加させていただけることは感慨深いなと思って嬉しかったです。
――作品でも繋がれるのはいいですね。伊藤さんがビッケ役に決まった時お母さんの様子を詳しく伺えますか。
伊藤:メチャクチャ喜んでいました。「凄い感慨深い。小さいころにTVで観ていたアニメの新作で、自分の娘が主人公ビッケの声をあてるなんて、こんなに嬉しいことはない」と言っていました。でも、お母さんはビッケが好きすぎて「ビッケは私の青春だから、ぶち壊しにだけはしないでよ」と言われました(笑)。
――本当に好きなんですね(笑)。
伊藤:本当にプレッシャーを感じましたが、「楽しみにしている、映画館でやるのを待っている」と言ってくれました。
――大きい画面で見ることを心待ちにしているとは、本物の愛ですね。
伊藤:はい。
――演じるにあたって作品を観られたとのことですが、最初に観たときの印象を伺えますか。
伊藤:冒険ものは大好きなので、本当にワクワクしました。
――ビッケは小さな子供ですがそこは関係なく、向かっていけるというのは凄いですよね。
伊藤:カッコいいです。役者目線で言うとオリジナルの声がキャピキャピした感じではなかったので安心しました(笑)。
答えが出来上がっている所が難しくて
――男の子役が来たことに関してはどうでしたか。
伊藤:ずっと男の子の役がやってみたかったんです。
――そうだったんですね。
伊藤:舞台だとあり得るかもしれないですが実写作品で私が男性を演じられることはないので、あったとしても心が男性という役になるでしょうから。今回は男の子、しかも年齢も違う役が来たのは凄く嬉しかったです。最後はアクションシーンもあって、やりたかった役がドンピシャで本当に嬉しかったです。
――ビッケは以前に演じられた『映像研には手を出すな!』の浅草みどりとはまた違うなと感じました。
伊藤:私はプロの方と違って出せる声も限られていますし、本当にちょっとしたアプローチの違いでしかないんです。キャラクターとしては10歳の男の子と女子高生というのが違いますよね。ただ、浅草はキャピキャピした女子高生とは違いますよね、オタク寄りの早口でしゃべる感じのキャラなので。
――確かに。
伊藤:二人ともワクワクして好きなことに猪突猛進といった感じは似つつも、ビッケはどちらかというと夢を追いかける感じで、浅草は知識があるけど周りが見えなくなるというか本気のオタクだと思うんです。
――役作りでいうとアニメと実写作品で違うところがあると思いますが、今回のビッケに関してはどういったところを意識されましたのかをより詳しく伺えますか。普段のドラマや映画と役作りの違いがあればお聞かせください。
伊藤:最初のリハーサルで声を出した時に「今の声はちょっと年齢が高く聞こえる。少年を表現してほしいんだけど今あなたがやっているのは青年だから、そこを意識して張りのある声にしていただけると嬉しいです」と演出していただきました。
――0(ゼロ)から作るのと元があるのではアプローチ方法も違ってきますよね。
伊藤:実写のお芝居はどちらかというといらない物を排除する意識でやらせていただいているんです。「こういう動きは必要ない」とか「無駄に動かない」とか、私はそんなつもりはないのですが無意識に変な顔をしている時があるらしくて、そういうところは実写では気を付けています。アニメは声だけのぶん大げさに表現したりするのが正解なこともあって、その代わりどんな顔をしていてもばれないので、こういう顔したらこういう声が出せるとか、いろんなアプローチができるので縛られているようで自由かなと思います。
――演じるにあたって、モデルにされた方・キャラクターはいましたか。
伊藤:そこは実写作品との一番の違いかもしれないです。実写をやるときは、「あの時に会った受付の人がこの役っぽいな」とか、その人のモノマネをやったりすることもあります。だけど、アニメに関しては本当に目の前で動いているアニメーションの男の子がこうしているからこうするみたいな、あんまり違うキャラクターが入ることがなかったですね。いま聞かれて、気付きました。
――確かにモデルは目の前に居ますね。
伊藤:そうですね。自分で形を作らなくてもすでに動き回っていますし、吹き替えだとオリジナルの方の演技もありますから。
――ああ、確かに。
伊藤:むしろ、そこから自分ならではだったらどうすればいいだろう、どうしたらみんなが求めているもの、それ以上のものになるだろうというアプローチの方が大きいかもしれないですね。
――それは吹き替え作品ならではの考え方ですね。凄い新鮮です。吹き替え作品は『ペット2』でも経験されたと思うんですけど、吹き替えならではの難しさはありましたか。
伊藤:あります。すでに答えが出来上がっている作品が難しくて、ビッケだとオリジナルは本当に実際に男の子が声をやっているのでどんな風に演じても男の子として成立するんです。私がそれをそのまま真似してしまうと大人の声になってしまうので、そこは意識した方がいいんだろうなと思いました。あと外国の方特有の「uh-huh」みたいな相槌の感じが日本だとどう表現するんだろうというのが難しかったです。日本人の若者言葉で少し前に「あーね」とかありましが、それをビッケが言うとビックリしちゃうので、そういうところでどういう声を出そうかなというのはちょっと悩みました。
――そういったアプローチ・ニュアンスの部分はどうやって解決されたのですか。
伊藤:やってみて、繰り返し微調整をして作っていきました。
――本当にビッケのイメージそのままで素晴らしくて、作中の掛け合いも観ていて凄く楽しかったです。今作では役者巧者なみなさんが集まられている中で演じられていましたがアフレコ現場の雰囲気や思い出などあれば伺えますか。
伊藤:こういうご時世なので全員揃うというのはかなわなかったのですが、ちょっと甘えさせていただいて、絡みの多いハルバル役の三宅(健太)さんとイルビ役の和多田(美咲)さんとは合同で録らせていただきました。本当に端・真ん中・端と距離をとってビニールに囲まれて、ソーシャルディスタンスのなかで録りました。それでも居てくださるのと一人なのとは全然違いました。プロの方とご一緒させていただくとテンションごと引っ張ってくださるので、自分ひとりじゃいけなかったところまで確実に導いてくださるんです。三宅さんと和多田さんが発する声の感じや表現の仕方で、作品の雰囲気をガッツリ作ってくださるので、本当にお二人がいてくださったからこそのビッケになったと思います。
――現場に作品の空気感があるのとないのとでは全然変わってきますよね。伊藤さんは声優のお仕事してみたいという気持ちは以前からお持ちだったのですか。
伊藤:声だけで表現するということには凄く興味があったので、ずっとやってみたかったジャンルのお仕事でした。
――最初に声だけのお仕事に挑戦されたときは如何でしたか。
伊藤:初めては小学生の時にやった実写映画『イヌゴエ 幸せの肉球』でのパグの声で、実写の犬がしゃべるという作品でその役が楽しかったんです。私は知らないこと、経験がないことをやるというのが本当に大好きな好奇心で生きてきたタイプなので、今も一から始めるということが楽しいです。なので、声のお仕事はワクワクして臨んでいます。
――新しいことに挑戦することを楽しむ気持ちは凄く素敵だと思います。今回のビッケもお父さんの船に乗り込んで初めて冒険に繰り出す物語ですけど、伊藤さんが今後また新しいジャンルや世界に挑戦してみたいなとかこういうことをやってみたいなと狙っていることありますか。
伊藤:なんだろう。挑戦するということでいうと即興コントのお仕事をやったのが楽しかったです。
――凄い、常に挑戦されているんですね。踏み出すことは大事です。
伊藤:その気持ちは本当に大事だなと思っています。コントに参加させていただいたのも凄いありがたかったです。お芝居とは違うジャンルで言うと今は音声コンテンツでラジオをやらせていただいています。こうやっておしゃべりすることは好きなので、この好きなおしゃべりが何か形になったら面白いなと思っています。私はしゃべりすぎてしまうのでそこは、まだ手が出せないジャンルなのですが、おしゃべりして成り立つ何かがあったらいいなと思っています。
挑戦する勇気を与えてくれる
――『小さなバイキング ビッケ』は本当に長く愛されている作品ですが、それは何故だと思いますか。
伊藤:本・アニメ・実写と表現が変わっても人に愛されて長く語られるのは、家族愛・新しいことに挑戦すること・困難にも勇気をだして挑むという普遍的なものがあるからなのかなと思います。そういった部分は自分と置き換えられると思うんです。そういった部分がある作品だから観ていて一緒に熱くなれて心を打つので、世代を超えて愛されているのかなと思います。
――そうですね。
伊藤:バイキング・海賊の物語となると遠いものに感じますが、家族愛にあふれているので身近に感じることができる作品ですよね。
――冒険の目的もお母さんを助けるというものですし。
伊藤:そのお母さんがいつでも味方じゃないですか。
――そうなんですよ。
伊藤:ちゃんとお母さんがお父さんを叱れるというのも、理想的な家族だなと思いました。
――両親に認めてもらうのがビッケの大きな目標で物語の柱の1つになっているのも共感できまよね。
伊藤:わかります。私個人としては、昔からビッケが好きな方に声優じゃない役者が声を充てるということを「これならいいよ」と認めてもらえるように頑張ってやらないとダメだと思ったので、そこにも通ずるものがありました。
――そこは長く続いている作品だと尚更プレッシャーになるところですよね。でもそこは自信を持っていただいていいです。
伊藤:ありがとうございます。
――もうすでに声優としても活躍されていますけども自分の声が持っている魅力はなんだと思われていますか。
伊藤:卑下しているわけじゃなくて、綺麗すぎないところかなと思います。「うぉおおおー」とか出来るので(笑)。そういうのはある意味幅は広いのかなと思います。
――本当に魅力的な声です。記憶に残るキャラ・役者さんは、演技力はもちろんですけど声にも力・魅力があるからだと感じています。そういった力のある声は得ようと思っても難しい部分なので、魅力的な声お持ちなのは素晴らしいなと思います。
伊藤:ありがとうございます。
――これからプレッシャーもあるなか、『小さなバイキング ビッケ』が公開されます。この映画で初めてビッケに触れるお子さんはもちろん、長年のファンの方も見に来ていただけるわけですが。
伊藤:シンプルに冒険を楽しんでもらえる作品だと思います。ワクワクしたり、夢を見たり、目標を立てて自分なりに頑張るというのは凄く素敵なことなんだよということを教えてくれる作品だと思います。そこは大人の方にも響く部分で、もう一回挑戦する勇気を与えてくれると思います。本当に胸を打つ作品なので是非いろんな幅広い方に観ていただきたいと思います。映像もとにかく綺麗なので、状況がよくなってこの世界観にどっぷり浸れるよう映画館で観てもらえたら嬉しいですね。