「もはや戦後ではない」と経済白書に記された1956年、 石原裕次郎が颯爽と映画界に登場。 日本映画史が大きく変わった。
人々は「裕ちゃん」と親しみをこめて呼び、 『嵐を呼ぶ男』『風速40米』などのアクション映画に日本中が熱狂した。 その裕次郎が「自分の撮りたい映画を作る」と1963年1月16日に設立したのが石原プロモーションである。 その石原プロが2021年1月16日に、 その役割を果たし終えて、 屋号を裕次郎に返上して、 発展的解散をすることとなった。 三船敏郎と共同製作をした大作『黒部の太陽』(68年)や、 アフリカ・サファリラリーにキャメラを持ち込んだ『栄光への5000キロ』(69年)などのメガヒット映画を生み出した石原プロ。 1970年代にはテレビに進出して「大都会」「西部警察」など、 それまでのテレビ界の常識を覆す映画的スケールのテレビ映画で、 お茶の間のファンを魅了し続けた。 その経緯は、 筆者が監修・執筆した週刊朝日ムック「映画にかけた夢 石原プロモーション58年の軌跡 石原裕次郎・渡哲也」に詳述している。 石原裕次郎はまた最高のシンガーであった。 主演デビュー作『狂った果実』(56年)の劇中でウクレレ片手に「想い出」を歌い、 テイチクから主題歌「狂った果実」とともにレコードデビュー。 依頼、 ヒット曲が映画で歌われ、 映画主題歌のレコードが記録破りのヒットを続け、 昭和歌謡史を牽引していく。 「ムード歌謡」というジャンルは裕次郎から始まったのである。 その裕次郎は音楽プロデューサーとしても数多くの功績を残している。 石原プロモーション映画第一作『太平洋ひとりぼっち』(63年)の下田ロケの時のこと。
宿泊先の下田東急ホテルのラウンジで、 裕次郎が「この中で一番幸福そうなカップル」にご馳走しようと声をかけた。 それが若き日のなかにし礼だった。 シャンソンの訳詞をしていたなかにしに、 裕次郎は「歌謡曲を書いたら」とアドバイス。 一年後、 なかにしは、 作詞作曲したオリジナルを持って石原プロを訪ねる。 それがムード歌謡の傑作「涙と雨にぬれて」だった。 石原プロに所属していた歌手・裕圭子とロス・インディオスが歌い、 田代美代子とロス・インディオスが歌って大ヒットした。 その頃、 裕次郎は映画製作の資金のために、 石原音楽出版社を設立。 自ら歌う曲を管理する音楽ビジネスを始めた。 その第一号が「二人の世界」。 TBSの「歌のトップテン」で20週連続1位を記録する大ヒットとなった裕次郎の代表曲だが、 裕次郎の声がけでオリジナル曲のリメイクをした作曲の鶴岡雅義は、 このヒットがきっかけで「鶴岡雅義と東京ロマンチカ」を結成。 1960年代後半のムード歌謡ブームを牽引していく。
アルバム「ありがとう!石原軍団」が話題! 石原プロモーション音楽史の原点になかにし礼との秘話!
石原プロモーションは芸能事務所として、 若手歌手の育成もしていた。
黛ジュンの再デビューを仕掛けたのも裕次郎。 盟友・なかにし礼に「ヒット曲が出るまで、 頑張ってくれ」とプロデュースを依頼、 そこで誕生したのが1968年の日本レコード大賞に輝いた「天使の誘惑」だった。 裕次郎のお気に入りだった「夕月」は、 2011年にアメリカのジャズ・オーケストラ・グループ、 ピンク・マティーニが由紀さおりをフィーチャーして、 カヴァー。 世界的な大ヒットとなった。 音楽プロデュースにも長けていた裕次郎は、 「西部警察」がスタートする際に、 自ら主題歌を歌うことになり、 その作詞を自ら出向いて、 なかにし礼に依頼した。 それが1979年のビッグヒット「みんな誰かを愛している」だった。 また1977年にリリースされた「ブランデーグラス」をヒットさせたいと、 テイチクのプロデューサーから相談を受けた裕次郎は「なら、 番組で歌おうよ」と提案。 「西部警察」第48話「別離のブランデーグラス」で、 木暮課長(裕次郎)が、 かつての日活映画のように劇中で歌った。 それがきっかけで大ヒット。 1981年の日本レコード大賞でロング・セラー賞に輝いた。 ことほど左様に、 石原プロモーション58年の軌跡は、 実は「石原プロの音楽史」でもあったことがわかる。 裕次郎と渡哲也の誕生日である2020年12月28日にリリースされたC D「ありがとう!石原軍団」には、 「西部警察」シリーズで裕次郎が歌った主題歌、 渡哲也の歌う「大都会PARTII」の主題歌「ひとり」、 「大都会PARTIII」の「日暮れ坂」、 舘ひろしの「泣かないで」、 神田正輝の「思い出のキーラルゴ」、 寺尾聰の「ルビーの指環」など、 石原プロの俳優たちの歌声が集大成されている。
さらに、 創立時から専属女優だった浅丘ルリ子の「愛の化石」は、 昭和44(1969)年のビッグヒットで、 翌年には石原プロ制作で映画化もされた。 もちろん黛ジュンの「天使の誘惑」「夕月」も収録されているし、 平成の石原軍団で活躍してきた金児憲史の「夜霧よ今夜も有難う」まで、 所縁の歌手たちの歌声が楽しめる。 DISC2には、 「西部警察」「大都会」「太陽にほえろ!」のサウンドトラックに、 「大都会」「西部警察」で、 牧村三枝子、 幸田薫たちが歌った挿入歌まで収録されている。 まさに「石原プロモーション音楽の軌跡」として楽しめる二枚組である。
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