コロナ禍で外食産業の大手チェーンが大打撃を受ける一方、 デリバリーを軸としたゴーストレストランが増えてきている。 ポスト・コロナの飲食店はどうなってしまうのだろうか。
そんな中、 国内外の酒場をハシゴして40年、 包丁を握って35年の「文壇一の酒呑み&料理人」が、 ついに自身の理想の居酒屋“masatti”を開店。 以前、 『孤独のグルメ』の原作者久住昌之氏と酒場談議をしたことがあった。 実はこの漫画の始まりはバブル時代に遡る。 まだ巷の人々の懐が暖かく、 年収四百万円が貧乏と見做されていた時代である。 誰もがこぞって、 港区や中央区、 渋谷区の単にお洒落なだけの、 コスパの悪いレストランに嬉々として出かけ、 覚えたてのワインの蘊蓄を傾け、 男は目の前の自分のことにしか興味のない女を口説き落とすことしか考えていなかった頃に、 主人公井之頭五郎はひなびた酒場、 貧乏くさい食事、 時代から取り残され、 半ば遺跡化したような街を好んで訪れていた。 私がしたかったことはまさにこれだと思った。 本書巻末では、 著者が実際のカフェを一日借り受け、 ついに「何処でも居酒屋」を開店。 店主として自身のレシピ検討から買い物、 調理までをドキュメント。

「はじめに」より

いつしか、 これまで訪れた数々の実在の酒場とその思い出が酔った頭の中で渾然一体となり、 理想の酒場が私の想像の中で開店した。 それを「空想居酒屋」と名付けよう。 もちろん、 頭の中の酒は飲めないし、 絵に描いた肴は食えない。 架空の居酒屋では酔えない。
だが、 その想像がリアルなら、 すぐにでもリアルな「何処でも居酒屋」を作ることもできる。 私が体験した酒場天国をまずはコトバで再現し、 「こんな酒場で飲みたい」という欲望を善きドリンカーたる読者と共有し、 最終的には空想居酒屋を実際に開店することを目指す。
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