昨年からスタートしたシンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun Farewell Tour」が、北米、ヨーロッパ、オーストラリアを経て、いよいよ日本に到達。ツアーのタイトルに「Farewell」とある通り、彼女はツアーから引退、創作活動に専念したいという意向を示している。1983年にソロデビューした時点で当時のポップスターたちより少しお姉さんだったシンディは、いよいよ70代に突入。ミュージカル『キンキーブーツ』の音楽を手掛けて成功して以降、近年は活動の場も広がっており、身体的な負担が大きいツアー生活に区切りをつけて、新章に歩みを進めようと決心したのだろう。
1986年の初来日から数えて、ジャパン・ツアーは実に15回目。来日の前にドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』が劇場で公開され、サウンドトラック盤CDもリリースされて、日本のファンはすでに熱々の状態だ。4月19日(土)、Asueアリーナ大阪から開幕したツアーの東京公演初日、4月22日(火)日本武道館は開場前からファンが会場周辺に集結。先行販売されていたグッズが飛ぶように売れ、期待の高さを感じさせた。
入場すると、アリーナの真ん中辺りに設置された謎のミニステージが、まず目に飛び込んできた。同じ週にエリック・クラプトンの武道館公演も続くので、クラプトンが使っているステージ上方のスクリーンを使いまわすのかな……と思っていたら、セット自体がまったく違うものに変わっていて、こちらはステージの背景全面がスクリーン。公演日ごとにセットを全取っ換えするなんて、何という手間だろう……と考えていると、場内BGMとして、シンディの精神を受け継ぐシンガー、チャペル・ローンの「Pink Pony Club」が耳に飛び込んでくる。

Photo by Masanori Doi

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そして定刻の19時から12分遅れてショーがスタート。スクリーンには初期からの写真や映像が、メガミックスよろしく次々と投影されていく。彼女のキャリアがギュッと凝縮された粋なイントロダクションから、今回のツアーが前回の来日時、6年前のライブよりも遥かに映像の演出を重視したものであることを実感できた。そしてステージから発射される紙吹雪と共に、1曲目の「She Bop」がスタート。カーズのライブを思い出させる、メンバーのシルエットをうまく活かしたライティングがクールだ。なのに、そのムードを早々とひっくり返すように、間奏ではシンディがお馴染みのフレーズを、とても上手とは言えないリコーダーでピーヒャラと。飾らぬ人柄が丸出しになって、観ているこちらも思わず笑顔になる。とにかく「何か面白いこと」を連打するのが生き甲斐なのだ、この人は。
#CyndiLauper来日公演
4/22日本武道館よりお届け#シンディ・ローパー キャリア最後の東京公演初日が大歓声に迎えられて先ほど幕開け
スクリーンに映し出されたのは時代を切り開いてきた唯一無二のポップ・アイコンの自由奔放な軌跡を辿る美しいコラージュ pic.twitter.com/AzWR1mXbKw— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025キャリアを凝縮したオープニング映像
次の「The Goonies R Good Enough」を歌う前に、通訳付きで早くもMCが入る。シンディが86年の初来日公演で「True Colors」を歌った時、オーディエンスが歌い返してくれたことがどれほど印象的だったか……これまで事あるごとに彼女が語ってきた話だが、「その経験があったから、2011年の東日本大震災の時も、私は日本にとどまって歌いたかった」と語りながら、彼女はのどを詰まらせた。
#CyndiLauper来日公演
4/22日本武道館よりお届け
80sの名作映画『グーニーズ』の主題歌で、シンディのキュート&パンクな魅力が詰まった一曲「The Goonies 'R' Good Enough」 pic.twitter.com/sQXl14i09u— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「The Goonies R Good Enough」
苦難を乗り越えてきた女性としての声
プリンスの「When You Were Mine」を歌い始めると、照明がパープルに変わった。以前は彼女の横に、プリンスのバンドでも活躍したギタリスト、カット・ダイソンがいたが、今回は若手のアレックス・ノーランに交代。若いのに物怖じする様子もなく堂々とした弾きっぷりが、プリンス&ザ・レヴォリューションのウェンディ・メルヴォワンを思い出させ、何ともかっこいい。バンマスを務めるベーシストは、シンディをデビュー当時から支えてきたプロデューサー、ウィリアム・ウィットマン。1stアルバム『Shes So Unusual』にこの曲のアレンジャーのひとりとして、彼の名前がクレジットされていたことを思い出す。そしてドラマーは『True Colors』のツアーからシンディと組み、その後デヴィッド・ボウイやデュラン・デュラン、ソウル・アサイラムまで幅広い顔ぶれと仕事をしてきたスターリング・キャンベル。このフェアウェル・ツアーにうってつけのリズム隊が、しっかりとバンドを支えている。
「I Drove All Night」はいつもショーの見せ場になる曲だが、シンディの姿に自動車が重なる映像の美しさは格別。MCからもビジュアルとのコラボを重視したことが窺われ、次の「Who Let In The Rain」でも雨のイメージが歌詞の世界に寄り添っていく。1曲ずつに観客を没入させてくれる、わかりやすくて丁寧な演出だ。MCでは、それまで女性が自分で運転する曲がなかったから「I Drove All Night」を歌った、という風に重要な注釈を入れてくれるので、こちらもショーを観ながら楽曲への理解度が増していく。

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「Iko Iko」では、ジェイソン・ムラーズなどと共演してきたパーカッショニストのモナ・タヴァコリが前に出てきて、カホンを叩きまくる。ギターのアレックスはパーカッションにまわり、それまでバックヴォーカルを担当していたエレイン・キャスウェルはキーボードへ、とパートを交換するコーナーだ。はて、主役のシンディはどこへ……と思っていたら、衣装替えしたシンディがステージのはじっこから、ウォッシュボードを抱えてひょっこり上がってきて笑わせる。ジャグ・バンドのリーダーのように一座を盛り上げるシンディの頼もしさったらない。
「Funnel Of Love」では、初めて聴いた女性ロックンロール歌手の曲だった、とオリジナルのワンダ・ジャクソンを紹介。「Sallys Pigeons」ではクイーンズで祖母や母、姉や弟と肩を寄せ合って暮らしていた子供の頃について話し、「料理と掃除の仕方を学んだ方がいいわ。一生それを続けることになるのだから」と当たり前に言われ、未来が閉ざされていた時代の女性について説明する。そんな考え方のせいで、彼女の母は歌手になるために進学する夢をあきらめざるを得なかったのだ。当時について語りながら、彼女が愛読していたローレンス・ファーリンゲティの詩集『A Coney Island Of The Mind』に言及するところも、いかにもシンディらしかった。
シンディがブルー・エンジェルの一員として初めて世に出た頃にカバーした、ジーン・ピットニーのヒット曲「Im Gonna Be Strong」も歌ってくれた。バリー・マン&シンシア・ワイル作のこの曲について話しながら、彼女が「男性と同じ市民的自由を持つこと、それが私が望んでいたことの全てだった」と言っていた理由は、彼女の自伝を読んだ人ならたちまち理解できただろう。女性がバンドのシンガーとして生きていくには過酷だった70~80年代を、彼女はバンドメイトからの屈辱的なハラスメントや、元マネージャーとの裁判沙汰といった苦境も乗り越えて、文字通り”生き延びて”きた人なのだ。
ガールパワーの「真髄」を伝えた終幕
エレイン・キャスウェル、ニール・クーマーのソウルフルなバックヴォーカルが映える「Sisters Of Avalon」も圧巻だった。エレインはジョー・ジャクソンの名曲「Happy Ending」でジョーとデュエットしたことで知られる、芯の強いシンガー。一方、ニールは90年代にイースト・トゥ・ウェストというクリスチャン・ポップ系のグループでいくつもヒットを放った実績の持ち主だ。こうした腕利きばかりを抜擢する人選のセンスも並ではない。
「Change Of Heart」でも、新しいギタリスト、アレックス・ノーランの華麗なパフォーマンスが鮮烈な印象を残した。この曲や、スマホのライト点灯を呼びかけた超名曲「Time After Time」では、大がかりなアレンジをするより、オリジナルのアレンジや質感を活かしながら、サウンド的には今っぽくアップデートしている感じ。そういう着地の仕方も、バンマスをウィリアム・ウィットマンが務めていることが大きく影響しているのではないだろうか。本編ラストの「Money Changes Everything」でも、印象的な”スタンプ”である鍵盤ハーモニカのフーターを使うことを忘れていない。この曲をやる前に、シンディが運営している、女性の権利を支援する基金「Girls Just Want To Have Fundamental Rights Fund」への募金を呼び掛け、行動する女性としての矜持を感じさせた。
#CyndiLauper来日公演
4/22日本武道館よりお届け
時代を超えて、世界中の、そして日本のファンに寄り添い続けてきた「Time After Time」
シンディの繊細な歌声が会場を感動と光で包み込む奇跡のような時間 pic.twitter.com/kXAxHQOtA4— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「Time After Time」
アンコールでは、入場時から気になっていたミニステージが、「True Colors」でようやくベールを脱いだ。
#CyndiLauper来日公演
4/22日本武道館よりお届け
名曲「True Colors」
⁰「ありのままのあなたが本当に美しいの」
永遠に色褪せない、シンディから優しく、力強いメッセージをずっと胸に刻んでおきたいですね♪ pic.twitter.com/Ac2oil6i5R— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「True Colors」
そしてラストは「Girls Just Want To Have Fun」。草間彌生へのトリビュートという形で、メンバーが揃いのコスチュームでパフォーマンスする驚きのエンディングとなった。そこでも、「男性アーティストばかりの時代から粘り強く努力し続けて、彼女は勝ち残った」と、芸術家への賞賛の言葉を忘れなかったシンディ。自分の”フェアウェル”のライブでも手前味噌にはならず、彼女にインスピレーションを与えてくれた人たちについて語り続けて終わるなんて! アートがどこから来て、どこへ行くものなのかをわかっている賢者ならではの、心のこもった幕の引き方だった。
#CyndiLauper来日公演
4/22日本武道館よりお届け
草間彌生さんによる華やかな衣装とともに登場し、感動と興奮の一夜を締め括るのは、永遠の80sポップ・アンセム「Girls Just Want to Have Fun」
「ジャアネ」のひとことでで武道館のステージを後にする、その去り際も美しすぎました… pic.twitter.com/XRZuuohbr8— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「Girls Just Want To Have Fun」
2025年4月22日(火)
Cyndi Lauper FAREWELL TOUR 日本武道館セットリスト
※( )内はオリジナル収録作品
01. She Bop|シー・バップ (『She's So Unusual』 1983年)
02. The Goonies 'R' Good Enough|グーニーズはグッド・イナフ(『The Goonies OST』 1985年)
03. When You Were Mine|ホエン・ユー・ワー・マイン (『She's So Unusual』 1983年)
04. I Drove All Night|涙のオールナイト・ドライヴ (『A Night to Remember』 1989年)
05. Who Let in the Rain|フー・レット・イン・ザ・レイン (『Hat Full of Stars』 1993年)
06. Iko Iko|アイコ・アイコ (『True Colors』 1986年)
07. Funnel of Love|恋のとりこ (『Detour』 2016年)
08. Sally's Pigeons|サリーズ・ピジョンズ (『Hat Full of Stars』 1993年)
09. I'm Gonna Be Strong|アイム・ゴナ・ビー・ストロング(『Twelve Deadly Cyns...and Then Some』 1994年)
10. Sisters of Avalon|シスターズ・オブ・アヴァロン (『Sisters of Avalon』1996年)
11. Change of Heart|チェンジ・オブ・ハート (『True Colors』 1986年)
12. Time After Time|タイム・アフター・タイム (『She's So Unusual』 1983年)
13. Money Changes Everything|マネー・チェンジズ・エヴリシング (『She's So Unusual』 1983年)
〈アンコール〉
14. True Colors|トゥルー・カラーズ (『True Colors』 1986年)
15. Girls Just Want to Have Fun|ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン (『She's So Unusual』 1983年)
セトリプレイリスト:https://sonymusicjapan.lnk.to/CyndiJPTour2025TC

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#CyndiLauper来日公演
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草間彌生さんによる華やかな衣装とともに登場し、感動と興奮の一夜を締め括るのは、永遠の80sポップ・アンセム「Girls Just Want to Have Fun」
「ジャアネ」のひとことでで武道館のステージを後にする、その去り際も美しすぎました… pic.twitter.com/XRZuuohbr8— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「Girls Just Want To Have Fun」
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時代を超えて、世界中の、そして日本のファンに寄り添い続けてきた「Time After Time」
シンディの繊細な歌声が会場を感動と光で包み込む奇跡のような時間 pic.twitter.com/kXAxHQOtA4— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「Time After Time」
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名曲「True Colors」
⁰「ありのままのあなたが本当に美しいの」
永遠に色褪せない、シンディから優しく、力強いメッセージをずっと胸に刻んでおきたいですね♪ pic.twitter.com/Ac2oil6i5R— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) April 22, 2025「True Colors」