最初は苦手なタイプでした(笑)
──物語自体はシンプルですが、江戸川乱歩ならではの不可思議な世界観でどんどん惹き込まれていきました。お二人はこの物語に触れて、どのような印象を持たれましたか。 木下:僕は良く出来た純愛っぽい、凄くシンプルな恋愛の物語としてスラッと読めました。
中山:私も最初に脚本を読んだときは、純愛なのかなと思いました。ただ、物語が進むにつれて依存が入ってくるので、その点がただの純愛では語れないお話なのかなと思っています。
──演じられた文子の印象はいかがですか。 中山:本能のままに生きていて自分に正直で、行動は大胆なんですけど言葉はそんなに多くなくて、不思議な女の子だなと思いました。
──演じていく中で文子を理解できましたか。 中山:すべて理解することはできないんですけど、恋愛感情は普遍的なものだと思うので、そういった感情に関しては理解できる部分もあります。そういった理解できる感情から文子という役柄を読み解くようにしていきました。
──木下さんは文子という女性を理解できましたか。 木下:僕も理解はできていないですが、男女の関係に理屈が居るかというとそうではないとじゃないかと思っています。そういう意味ではこの作品は当然のことが描かれています。立場や身分の違う二人の物語を描くというのも王道じゃないですか。
──確かにラブストーリーの視点で見るとまさに王道の関係性ですね。 木下:松永は成功者の立場にいるキャラクターなので文子に対して最初はハニートラップを危惧していましたが、最終的には魅力が勝ってしまって深みにはまっていきましたね。そこから犯罪まで起こしてしまうというのは狂っていますけど。以外にあっさり殺してしまってますよね、そこがまさに江戸川乱歩を現代に置き換えていて良いんじゃないですか。
──王道の関係性とともに人間の狂気の部分が描かれることで作品の不可思議さがさらに際立っていて、まさに江戸川乱歩の世界だなと思いました。その不思議な世界で共演されたわけですが、お互いの印象について伺えますか。 木下:初対面の頃と撮影が終わった後で良い意味で全く印象が変わりました。始まる前は実は苦手なタイプだなと感じていたんです、それが撮影を重ねることによって好きになっていきました。
中山:実は私も最初は苦手なタイプでした(笑)。
──お互いにそうだったんですか(笑)。 中山:苦手というのは大げさに言いましたけが、お会いする前は(木下)ほうかさんに対して怖いイメージがありました。それは、私が一方的に作品やバラエティーに出られているほうかさんを見てから来ていたイメージですね。
木下:そういう役しか来ないんですよ。
中山:なので、最初は怒られるんじゃないかなと思っていました。そういったイメージを持っていたことを窪田(将治)監督にも伝えていて。
──窪田監督にも相談していたんですか。 中山:窪田監督からは「ほうかさんは怒る人だよ。」と言われたので「ああ、終わった」て思っていました。なので、顔合わせの時は怖かったです。でも、実際は現場でも色々と教えてくださって、ほうかさんが出演しないシーンでも見てくださっていて、優しくて面白い方でした。
木下:現場でもよく笑ってましたね。
中山:ほうかさんのおかげです。ありがとうございます。
木下:彼女は映画出演が初めてで場慣れしていなかったので、リラックスをさせてあげないといけないと思ったんです。撮影の待ち時間に現場に居るだけでも居場所が無いという空気を出していることを感じました。なので、作品のためにもいかがにリラックスしてもらって、協調できるかということに気を配りました。
中山:ありがとうございます。
木下:そういう事が馴染んできた後はいいシーンがいっぱい撮れたなとは思っています。
作品に対してのやる気・真摯な姿勢には信頼が置けました
──現場での空気づくりを大事にされていたんですね。窪田監督とは、演技に関してのどのようなお話をされましたか。 木下:僕に関しては今までにも何度もご一緒させていただいていますし、江戸川乱歩の作品に関しては2作目ですから特に何かというのはなかったです。演技の話とは少し離れますが、最も気になったことは相手がどんな人物で、この役を演じる事が大丈夫かという点でした。こういう映画なので途中で降りてしまわないか心配だったんです。現場で肌をさらすことに対しての臆病さが出てしまって、NGが出てしまう事がよくあるんです。そういったことで傷ついてきたこともあるので、“大丈夫な人を呼んで欲しい”それだけは気にしていました。窪田監督も同じ気持ちだったみたいですね。
──濡れ場もありますから、実際の現場で怯んでしまうという事もありますよね。その点、中山さんはそういったシーンも含め全力で演じられていて素晴らしかったです。中山さんは窪田監督とも初めてご一緒したと思いますが、文子という役についてお話しされたことはありましたか。 中山:私もそこまで監督とお話をしてないんです。だからこそ不安でした。
木下:ほったらかしだったんだ。
中山:どういう風に演じたらいいですかと伺っても、窪田監督からは「一生懸命に芝居をしたら文子がキャラクターとして出てくるから、とりあえずちゃんとやれば大丈夫。」とだけで具体的な演技指導はなかったです。
木下:中山さんに対して信頼していたんだと思います。かつて過酷なオーディションを勝ち抜いた人ですから。この作品に入るにあたってワークショップにも行かれたんでしょ。
中山:そうですね。
木下:それを見ていたから、言わなくても良いと思っていたんじゃないでしょうかね。
──お二人とも信頼されていたんですね。特に窪田監督からの演技指導はなかったとのことですが、ご自身の中に演技プランはお持ちだったのですか。 中山:ほうかさんには本読みにも付き合っていただいて、役作りを手伝っていただきました。
木下:彼女から申し出があって、自主練もしたんです。彼女が自腹でスタジオも借りてくれて、本読みをしたんです。そんなことは今までないことで、作品に対してのやる気・真摯な姿勢には信頼が置けました。
中山:演技の勉強はしていますが、脚本を読むことがそんなに得意じゃないんです。本読みの時にお話しのすり合わせもしていただけたので、スムーズに撮影現場に入ることが出来ました。
木下:その本読みの時に、窪田監督へのある種の変更や提案についても相談をしました。その相談した内容を提案したところ、ほとんど採用してもらえましたね。
できうる限り見せることが出来た
──先ほど、木下さんからも肌をさらすシーンも多い作品なので、そのことに対してNGが出ることに不安があったというお話を伺いました。脚本の段階で解っていたことであっても実際に演じられる際には怯んでしまう方もいらっしゃると思います。その点も含め中山さんが文子をやろうという事への覚悟やご自身なりの決断や迷いがあれば伺えますか。 中山:この役はオーディションで決まったのですが、オーディションを受ける段階から「この作品は露出シーンがあります」という事を伺っていました。なので、濡れ場があることをわかったうえで受けました。文子に決まった時、最初は嬉しさもありましたが100%の覚悟は決まっていなかったので、どうしようかなというも思いも実はありました。
ですが、その不安は脚本を読んで払拭され、絶対やりたいという気持ち覚悟に変わりました。
木下:相手役が決まってからとも言ってもらえると嬉しいな。
中山:ほうかさんと知ったのは結構後だったんです。
木下:じゃあ関係ないのか(笑)。
中山:でも、最初に台本を読んだ時は脱ぐところが多いなと思いましたね。
──実際に多いと思います。お二人ともそこから逃げていないで演じられていたのが素晴らしかったです。 木下:最初に彼女に強調して伝えたことがあったんです。それは1つの脅しにもなってしまうかもしれませんが。最初の顔合わせの時に「本に書いている以上のことが起こりうる。それが現場だ。これ以下じゃなくて、これ以上と考えて来て欲しい。」と強調して伝えました。
中山:「ただのキスじゃないよ。」というようなことを仰ってましたね。
木下:そういうつもりでやってくださいという事を伝えたかったんです。「出来ますか。」と聞いたら「出来る。」と答えてもらえて、実際にその通りだったので、なので好きになっていきましたね。
──観ていて、その覚悟と気迫が伝わってきました。 木下:いろんな都合でこれ以上できなかったんだなと見受けられる作品もあるじゃないですか。僕はそういうのが一番嫌いなんですよ。今回の作品はそういったことはなしで、できうる限り見せることが出来たので、そういう意味でもよくできたチームでした。
中山:そうでしたね。
木下:中山さんは慣れてしまって、何もない時も裸でウロウロしてましたよね。
中山:ほうかさんもそうじゃないですか(笑)。
──一丸となってみんな全力で取り組まれたチームだったんですね。現場の雰囲気はいかがでしたか。いい意味での緊張感があったのか、それとも穏やかだったのか。 木下:穏やかだったんじゃないですかね。窪田監督はこれまではわりときつい演出をする人ですけど、今回はなかったです。ただ、コロナ前の時期ですが真冬だったので寒さが一番の敵でした。それ以外は笑ってましたね。
中山:現場のみなさんも本当に優しくて、気配りしてくださってました。本当にみなさんに助けていただきました。寒かったのはそうですね、カタカタと震えるんですよ。でも、カメラが回ると震えないので、不思議だなと自分でも思いました。
──役に入ると震えなくなったと。 中山:多分、そうだと思います。
木下:震えたら、NGだからね。
中山:ラストのほうかさんが泣き叫ぶシーンも震えずに乗り越えられました。
欲求や好奇心を満たしているという側面もあるのかもしれない
──少女が妙齢の男性を翻弄するという点についてはどう感じられてましたか。 木下:松永にとって文子というのは初め不審者ですけど、実際に同じ状況になると多くの男性が同じことになるんじゃないかなと思うんです。女の子側から推してきているわけです、しかもこんな可憐な子が。なので、無理はなかったですね。おっさんと美少女という関係は、観ている人からは違和感が出てくるかもしれないですけどね。だからこそ、面白いんだと思います。
──不倫関係は江戸川乱歩の時代でも不道徳な関係だと思うんです。しかも、親子ほどの年齢差がある二人ですから。今は特にその辺りに対して世間から厳しく見られる時代で、そのことについては木下さんと中山さんでも世代が違う事もあって捉え方が違うのではと思いますが、それぞれにこの関係性についてどう感じられましたか。 木下:大昔は年の差や同性愛で不倫だらけなんですよ。むしろ昔の方が性に対することがオープンで、江戸時代なんかは春画みたいなものを楽しんでいて。
──そうですね。大奥とかまさにそうですね。 木下:ですので、今は逆にみんな真面目になって減ってると思います。いけない人を好きになる、それを我慢するのが筋なんでしょうけど、実際は見えないところでは起こっているでしょうから。そういう意味で言うとこういった作品を観て、その欲求や好奇心を満たしているという側面もあるのかもしれないですね。
──見るだけでも自分が体験できないことをしているというワクワク感を感じますからね。 中山:私は年齢差に関してはあまり気にならないですね。この作品の中でもそうですが、お互いが求めあっている、そのことの方が大事なんじゃないかなと思います。
木下:でも、結局は悲劇といいますか、罪人になってしまうという良くない着地をするので、やっぱりこういう関係は続かないんですかね。
──そうかもしれないですね。この作品ではそういった非日常の空間・世界を楽しむ・体感するという意味でも、本当に映画館で観たい作品ですね。 木下:映画館でこの奇妙な世界に浸っていただきたいですね。
中山:みなさんの助けでいい作品に仕上がったと思います。劇場で『裸の天使 赤い部屋』を楽しんでください。