Vシネ創成期の作品はコメディとバイオレンスが融合しているものが多かったので、そういう作品をやりたいなと思っていた
――出所したヤクザが合唱をするという設定が凄かったです。最初は合唱道と聞いたときは武道の一種なのかなと思いました。
内田:合唱というのはチームワークが必要なのでスポーツに近い感じがしたんです。
――チームとしてパートや音程を合わせなくてはいけないので、確かにそうですね。歌うことを物語に取り入れた作品を制作したいとは以前から考えられていたのでしょうか。
内田:音楽が絡んでいる作品は凄い好きなので、いつかやりたいとは思っていました。合唱させるという発想のもとになったのは雑誌の仕事をしていたころの経験からです。その時の上司がオペラに嵌っていて夜ひそかに練習をしていたということがあって、それを思い出し合唱するヤクザの話にしようと思いつきました。最初は笑いなしのドストレートなヤクザものをやらないかと提案されたのですが、ヤクザものの中にはコメディ要素を含んだ作品もあるのでミックスしました。
――そうですね。Vシネもコメディ色が強い作品が多いですね。
内田:特にVシネ創成期の作品はコメディとバイオレンスが融合しているものが多かったので、そういう作品をやりたいなと思っていたんです。その思いから、合唱しながらもバイオレンスな小沢(仁志)さんを撮りましょうということで始まりました。
――だから、私も観ていて懐かしいなという思いも感じたのかもしれないです。
内田:それは、一番うれしい感想ですね。いまは世界的にジャンルミックスがメインになってきているんです。僕もそういう作品が好きなので、コメディとバイオレンスを足した形にしました。そういったジャンルミックス作品が日本でも根付いていくといいなと思っています。
――ジャンル関係なく単純に面白かったです。笑ったあとにバイオレンスが入るので、いい意味で観ていて少し疲れました。気持ちが付いて行くのが大変でしたが、それだけ作品にのめり込めたということなんだと思います。
内田:なるほど(笑)。そのバランス・テンポは気にしながら編集しました。
――合唱にハマった宇佐木(林太郎)があれだけすぐにバイオレンスのスイッチが入るというのは意外でした。報復に行くシーンではもう少し躊躇いがあるのかなと思ったんです。
内田:躊躇いがあると『竜二』になるので、そこは少しファンタジーになっています。
――タイトルに鳴かない動物の代名詞でも「うさぎ」と入っているのはなぜですか。
内田:鳴くという部分は考えていなかったですね。大人しい動物というイメージで付けました。
――大人しい動物からだったんですね。確かにうさぎにはそういうイメージもあります。
内田:『列島制覇』はゴリゴリのVシネの名残で最終的なタイトルはそれがミックスされた形です。今となっては面白いタイトルになりましたね。

皆さんに面白いと言っていただけることが意外なんです
――出ていらっしゃる皆さん、名優の方ばかりですね。
内田:Vシネにはあまりなじみがない方が多くなりました。
――確かにそうですね。皆さん、はまり役だから全然気にならなかったです。このギャップのある脚本を読まれた際のみなさんの反応は如何でしたか。
内田:役者として楽しんでいらっしゃいましたよ。意外なんですが小沢さん以外の方はヤクザ役をあまりやったことが無かったそうで、自分なりのヤクザ像を提案していただけました。アウトローというのは一度はやってみたい役なんでしょうね。

――フィクションだからこそ出来ることがありますからね。キャラクターでは笹野(高史)さんの演じる笹森(修蔵)がヤクザなのにプラモオタクなので、「こっちもコメディ要素あるのかよ」って思いながら見ていました。その描写があるので、キャラクターに人間味を感じました。この見せ方は新鮮でした。
内田:あのキャラ付けは僕の好きな本が元になっているんです。中国の皇帝の話なんですけど、石集めという設定があるキャラクターで、なら日本はプラモだろということでプラモオタクにしました。
――確かにプラモデルは日本のイメージがありますね。役者さんからも提案があったということですが、どういった提案があったのでしょうか。
内田:笹野さんからは主に銃の演技に関して提案いただきました。昔のギャング物に詳しい方で、色々と楽しんでおられました。リアルであんなに銃を撃ちまくる人が居たら秒で捕まりますよね(笑)。
――確かに(笑)。
内田:アクションに関しては小沢さんのアイデアが凄かったです。最初に聞いたときは「本当に実現できるのかな」と思うんですけど、アクションセンスが凄くて実現可能なのでビックリしました。アクションアイデアは小沢さんに助けていただきました。セリフに関してはみなさんと現場で意見交換しながら進めていきました。

――若旦那こと新羅(慎二)さんはいかがでしたか。本職はミュージシャンですが。
内田:役者がメインではない方だから変化の幅が普通の役者の10倍くらいあるので、その姿を見ているのが面白かったです。
――あんなに役者としても映える方なんだとビックリしました。
内田:チャラい弟分が急に現れてね。
――その弟分・大林拓海を吉村(界人)さんもザ・チンピラという感じが出ていて良かったです。
内田:あんなに喧嘩が弱そうなヤクザもなかなかいないよね。
――この3人の関係性が良かったです。
内田:実は皆さんに面白いと言っていただけることが意外なんです。

――そうなんですか。
内田:コメディと男の世界がミックスされていますし、要素が多い作品じゃないですか。なので、コメディが観たい人にとってバイオレンスは嫌、バイオレンスが観たい人にとってコメディはいらない。そう感じられるかもしれないという懸念があったんです。そういったことがなく、観てくれるみなさんもジャンルミックス作品として楽しんでいただけたので、上手くいって良かったです。
――作中で合唱道を歩まれた小沢さんは歌うことに関してどうおっしゃられていましたか。
内田:小沢さんからは「だから、俺は下手っていったじゃん。」と毎回言われました。歌が苦手ということにコンプレックスがあるみたいですね。
――そこから宇佐木の人間味が出ていますからね。
内田:それは僕も現場で感じていました。好きなことを一生懸命やるという姿は可愛いですよね。可愛くないとキャラクターとして愛されないですから。
――分かります。合唱に対して一生懸命な姿が愛らしかったです。
内田:任侠一辺倒の極悪ヤクザというのは僕も好きじゃないんです。今回はそういうヤクザは出ていないので、比較的広く楽しめるんじゃないかなと思っています。
――人間ドラマとしても楽しめる作品でした。各キャラクターから人間臭さを感じられるので、それぞれが考えていることが何となくわかるんです。それが無いと物語に入っていけないですから。
内田:そうですね。
――宇佐木と拓海の関係性はこれからどうなっていくのでしょうか。親子的なものになるのか、師弟関係になるのか、それとも拾ってきた子犬の面倒を見ている感じなのでしょうか。
内田:形式美じゃないですけど、兄貴が居て使えない弟が居るという昔ながらの関係性をやりたかったんです。だから、新羅と小沢さんのオーソドックスな関係だけではなく、あえて拓海というキャラクターを入れました。
――この2つの関係性の対比、それがどちらも宇佐木を絡めている点が面白いです。
内田:そういう所で遊ばないと作っていても面白くないですから。僕もさんざんVシネを観てきたので、観てきたものをやってみたいなというのもあります。
――その懐かしさが観ていて心地よかったです。ここから先も楽しみにしています。
内田:是非、宇佐木たちの物語を楽しんでください。