現役高校生シンガー・崎山蒼志 “才能溢れる”楽曲制作の秘訣は「両親」と「小説家」
(C)エキサイトミュージック

現役高校生であり、シンガーソングライターの崎山蒼志。2018年5月に放送されたAbemaTVの『日村がゆく』の企画『高校生フォークソングGP』に出演し、その年齢にそぐわない独創的な音楽性と才能が全国に広まり、現在、多方面で褒め称えられている15歳の青年だ。その実力はくるり・岸田繁やゲスの極み乙女。川谷絵音もSNSにて絶賛したほど。

彼の放つ音楽はまさに、“朱に染まっても赤く映らない”タイプだ。独特の譜割やメロディライン、歌唱方法、卓越した自演のギタープレイや歌詞内容の文学性も踏まえ、おおよそその実年齢からは想像もつかないものを生み出し続けている。

どこを経て、どのような育ち方をし、何をどう吸収していったら、このような音楽性を生み出せるのか? その崎山がどのように音楽をインプットし、アウトプットしていったかに興味があった。地方都市での生活、両親、音楽との出会いやその吸収の仕方、また、音楽面のみならず文学面も含め、少しでもその「朱に交わるも赤くならず」のメカニズムを探るべく崎山蒼志に話を訊いた。

きっかけは母が好きなV系 ハマったのは父が好きな洋楽


現役高校生シンガー・崎山蒼志 “才能溢れる”楽曲制作の秘訣は「両親」と「小説家」
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同年代が聴いているであろう音楽性からはかけ離れ、決してそれらを聴いてるだけでは生まれない音楽性とも言える彼の放つ各楽曲。まずは率直にかねてからの疑問であった「学校ではどんな音楽の話をするのか?」から訊ねてみた。

「いま通っている高校では、あまり音楽の話はしません。中学時代はマニアックな友人が一人いて。当時の僕の知らない音楽、例えばcero等を教えてもらったり。勉強になりました」

では、親からの影響はどうだろう? 定説では、母親がthe GazettEが好きで、歌番組で彼らを一緒に観ていた際に、「ギターを弾きたい」と告げ、ギターを習い始めたとのことだが……。

「the GazettEにしてもまずは単純に見た目から入ったんだと思います。当時の僕のにとってはあのコスチュームが戦隊物のように映って。母親はV系も好きでしたが、元々はUKロックが好きで。David BowieやJAPAN、The Cureといった耽美的な雰囲気のあるアーティストを幼い頃からよく一緒に聴いてました」

一見、崎山の現在の音楽からはそれらによる影響はなさそうに思える。しかし、彼の歌が何度か訴えている「真の美しさ」「哀しさを湛えた美しさ」、そういった部分では、V系や耽美的なロックが描く「美しさ」や「美」に通ずるものがないとも言えない。

4歳よりクラシックギター教室に通い始めたという崎山。しかし、そこはかなり自由に自分のやりたい音楽を表現できる場であったとも言う。彼のギター奏法はクラシックギターやガットギター独特の奏法や手法、またはタッピングやハーモニクスを使った演奏面でも耳を惹く。

そんな彼は小学6年頃よりオリジナル曲を作り始め、そのレパートリーは現在300曲を超える。発表されている曲たちはどれも独創性があり、耳に引っかかるものばかり。作り始めた当初、彼は何を目指し、表現したく自作自演に至ったのだろうか?

「小学4年生ぐらいの時から断片的に作り始めました。特に目標や歌いたいこともなく、ただ作ってた感じで。それは今もあまり変わってません。小学3年頃までは母の影響で様々なV系を聴いてましたが、4年生辺りから父が好きな音楽にも興味が出始めたんです。そのキッカケがSEKAI NO OWARIで。その時に、『あっ、こういう音楽もいいな…』と。そこからいろんな邦楽ロックを聴き始めたんです。そう考えると父からの音楽の影響も強くあると思います」

そんな父親からの影響を更に深く探ってみると、

「小さい頃はよく父の車で、当時は洋楽とか一切分からなかったんですが、LINKIN PARKやOASISを、『なんかいいな』的な感覚で聴いてました。先の邦楽ロックを聴いていくうちに洋楽方面に向かうんですが、その洋楽を聴いている時期に、元々父もブラックミュージック等が好きだったこともあり、父が好きな音楽にも興味を持ち始めるんです。父の方はそれこそパンクからメタル、ブラックミュージックや渋谷系やUK/USロック等、かなり雑食だったので。今だと父とアメリカの音楽の話をしますし話も合いますね」

特にここ最近は父親から薦められる音楽もお気に入りの曲は多く、アイデアに結びついたりするケースもあるという。今後その辺りも彼の音楽性に反映されたり、どうフィードバックされるかにも興味は募る。

対して能動的な面に興味は移る。自身の情報収集面はどのような感じなのだろう?

「自分では今はUKの音楽を好んで、アンテナを立てて探して聴いてます。今だとサウスロンドンに集まっているミュージシャンの作り出す音楽に興味があって」
現役高校生シンガー・崎山蒼志 “才能溢れる”楽曲制作の秘訣は「両親」と「小説家」
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そう言う、彼のアンテナに引っかかる基準はこうだ。

「面白いなとか新しいなと感じるもの、それからかっこいいと感じるものです。感覚を大事に聴いてます。出会いはもっぱらYouTubeですね。中学1年辺りから見始めていて。その関連動画から好きなものに出会うケースが多いです。あとは、『タイニー・デスク・コンサート(アメリカの公共ラジオ放送の事務所で開催されている無観客のアンプラグド的なライブ。海外のベテランから期待の若手まで凄腕アーティストが出演している)』に出演しているアーティストたちは必ずチェックしてます。それから音楽媒体や音楽誌の年間ベストアルバムやアーティストも参考にして、いろいろと掘っては探して聴いてたり。特にウェブは紹介記事と共にリンクも貼ってあるので、興味の湧いたものを実際に試聴出来たり、触れたりできるのでよく使っています」

そんななか、やはりストリーミングやサブスクリプションは、お小遣いの少ない彼ら世代では特に有効的で、彼が出会う未知の音楽の大半はここ経由だと語る。

静岡県浜松市在住の崎山。情報収集という面では都市の方が充実している印象がある。しかしインターネットを中心にそのタイムラグは増々縮まり、今やどこに居てもリアルタイムに近い形で物事が伝わってくる世の中だ。対して、「体感」となると話は別だ。特にここまで情報に貪欲な彼のこと、その辺りも非常に気になる。その辺りにハンディを感じたり、ジレンマは無いのだろうか。

「そこは気になりません。興味を持ったものに対して、その情報や知れる手段は今は沢山あるので。逆にここに住んでいるからこそ得たり、表せたりするものがあると僕は感じていて。最近も僕の街の近くに中学3年ながら宅録の凄い女の子が現れて。その子はガレージバンド(初歩的な音楽制作アプリ)を使って、めちゃくちゃすごい音楽を作ってたりしてますからね」

環境という面では、その育った土地も楽曲や作風に反映される場合も多い。崎山の場合はどうなのだろう?

「情報が少ない分、自分の好きなものだけに没頭したり、突き詰めていけるメリットもあるだろうし。僕の場合も、この土地ならではの自然や状況から生まれる音楽だと感じることもあります」

「痛いよ」「あなたが針に見えてしまって」独特の歌詞は小説家からの影響



話は移り。歌やその表現手法はもとより、私が彼に凄さを感じるのは歌詞内容やその描写だったりする。それらは、おおよそ15歳の齢にはそぐわないクオリティで、内容的にも経験値ではなく机上で描かれたであろうことは想像はつく。しかし、そこに妙な疑似体験や実際にその場に居合わせたり経験したかのような聴き手の機微と合致する部分も多いことには驚かされる。

「その辺りは本からの影響が大きいです。なかでも中村文則さんからの影響は強くあると思います。あの研ぎ澄まされた表現のカッコ良さに憧れがあって。元々は漫画が物凄く好きでよく読んでいたんです。小学6年頃から文学にも触れ始めて。中一ぐらい頃に母が読んでいた中村さんの本をちょっと読んだ時に、うわっ、これは凄い…と感じて。歌詞はほとんどイメージで逆に実体験はほぼありません。映像やイメージがパッと頭に浮かんでそれを言葉に表していく感じです。その映像やイメージは、歌詞もですが音楽的にもかなり重要で。曲を作っているうちに浮かんできたものを歌詞にしたものもあれば、映像やイメージから曲や歌、歌詞に結びつく場合もあったりするんです」

彼の音楽を聴いて感じていた、言葉数が少ないながらも情景が浮かび、広がっていき、そこに聴き手が佇んでいる光景。その辺りがこの話しから合点した。

ここまでギター一本で弾き語りスタイルの作品性だった崎山だったが、最新アルバム「いつかみた国」では打ち込みも交えている。しかも最新のグリッチホップやトラップミュージックの体が成されており、それらは自分で制作したという。

「Mac Bookや本格的な音楽制作ソフトをまだ持っていないので、ほとんどガレージバンドで作ってます。それであの曲のトラックも作りました。家にいる時はめちゃめちゃ触ってますね」

正直驚いた。てっきり本格的なDAWや音楽制作ソフトを用い作られたかのようなクオリティだったからだ。これがガレージバンドを駆使し作られたとは多くの人が疑うことだろう。

「今後は更に洗練されていきたいです。もっとそぎ落として本質だけで勝負していきたい。そこにしか当てはまらない歌や演奏、言葉だけで自分の音楽を成立させたくて。とにかく自分にしか表せない凄いもの。そんな音楽を作り出していきたいんです。その為にもたくさんのものを吸収していきたいです。知識や応用もですが、取捨選択や判断基準、方法論の見極めも含め。あとは人生経験ですかね(笑)」
現役高校生シンガー・崎山蒼志 “才能溢れる”楽曲制作の秘訣は「両親」と「小説家」
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そう、ゆくゆくは恋することも必要となってくるかもしれない。

結果、無自覚であったのかもしれないが、その環境や影響が様々な形で関与し交差し、彼の音楽が成り立ってきたことが浮かび上がってきた今回の取材。逆に「無自覚」というのは、オリジナリティにとって重要なファクターであることにも、こちら側も気づかせてもらった。

2019年は、可能な限り全国でライブ展開をしたいと語る崎山。きっと2019年は人間的にも経験的にもより彼を成長させ、それがこれから生まれる作品にも大きな影響を与え反映されそうだ。これからもあくまでも無自覚に自身の吸収や咀嚼、自身のアウトプットとそこから生まれる独創性にますます期待が高まった。

取材・文/池田スカオ和宏

リリース情報


崎山蒼志 1stアルバム『いつかみた国』



ツアー情報


崎山蒼志 1st TOUR「国と群れ」
2019/02/09(土) 静岡県 浜松 窓枠 (16:30/17:00)
2019/02/11(月) 東京都 浅草 雷5656会館 (12:30/13:00)
2019/02/11(月) 東京都 浅草 雷5656会館 (15:30/16:00)
2019/02/16(土) 愛知県 名古屋 Live & Lounge Vio (16:30/17:00)
2019/02/17(日) 大阪府 心斎橋 Music Club JANUS (12:00/12:30)

崎山蒼志 official web site