「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?

2021年1月から放送されていた人気テレビアニメ「はたらく細胞BLACK」。人体で年中無休働いている細胞を擬人化したストーリーで、不健康な成人男性の体内を舞台に、過酷な環境で働く細胞たちが描かれている。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?
画像はプレスリリースより (C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社・CODE BLACK PROJECT

「労働環境」として見たときは法的にかなりの問題がある職場でもある「はたらく細胞BLACK」の世界を労働法の観点から見るとどうなるのか? 自身もアニメ好きという村田浩一弁護士に、「はたらく細胞BLACKは実際どれくらいブラックなのか?」を前編・後編にわたって聞いてみた。

細胞とはいえ24時間365日労働はさすがにない


――「はたらく細胞BLACK」は人体で年中無休働いている赤血球や白血球といった「細胞」を擬人化したTVアニメですが、まずは法律家としてこのアニメを観たときの感想をお聞きしたいです。

まず、長時間労働の問題があると感じました。24時間365日労働はさすがにないです。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?


――そうですよね。

そもそも(細胞たちの労働が)「労働契約」なのかという話もありますが、一応日本の法律で考えるなら労働時間は原則1日8時間、1週40時間です。

時間外労働も原則月45時間まで、特別な場合でも月100時間未満(休日労働含む)、2~6月平均80時間まで(休日労働含む)、年720時間まで(休日労働含まない)と定められていますし、従わない場合は(雇用主への)刑罰もあります。

――細胞たちには休憩時間もありません。

1日の労働が6時間を超えたら45分、8時間を超えたら1時間以上の休憩を与えないといけないです。

――問題が山積みの職場ですね。作中ではブラックな労働をしている赤血球や白血球が描かれていますが、それぞれのブラックなエピソードを見ていきたいです。

若手赤血球たちが危険な業務を断れる場合とは?


「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?

「危険な業務」というものは実際にありますが、その場合も使用者には、労働者の安全を守るという「安全配慮義務」があります。

たとえば「大雨で天候が悪い中、労働者を土砂崩れや転落などの危険がある場所に向かわせる」といったケースが近いと思います。

この場合は、雨や風のような天候も含めて労働者を守るべきです。危険な場合は、赤血球に仕事をさせないことが必要ですね。

――なるほど。それに関連してお聞きしたいのが次のエピソードです。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?

まず「若いから危険な仕事をさせる」というのがどうなのかと思います。そのうえで、これは昭和31年に起きた「千代田丸事件」という裁判が参考になると思います。

「千代田丸事件」というのは労働関係では有名な事件なのですが、他国との間の海で「船で海底ケーブルを修理しろ」と言われた労働者が「危ないからやりたくない」と拒否して、会社に解雇された事件ですね。

当時、この海域では先に述べた他国から攻撃を受ける可能性が高く多くの者が危険性を認識していました。なので、最高裁は「労働者はこの危険な業務命令に従う義務はない」として、解雇が無効になっています。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?

千代田丸事件を参考にするなら、こういった危ない業務命令にはそもそも従わなくてよいはずです。細菌が危ないのであれば、若い赤血球は仕事から逃げ出しても問題ないんじゃないでしょうか。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?


――細胞をテーマにしたアニメの話ですが、想像以上に自分たちの生活に役立つお話が聞けておもしろいです!

研修内容が実態と全然違っていても問題なし?


――作中では、赤血球として働き始めた主人公が、ビデオの研修を受けたり先輩に指導をされるシーンがあるのですが、次はその中からのエピソードです。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?

研修が実態と違うことは、業務指導の適切性の問題は生じるかもしれませんが、それ自体では問題になりにくいと思います。

「入社したら入社前に言われていたより賃金が低かった」ということであればすぐに退職ができますが、研修と実務が違うのは問題になりにくいと思います。

――研修が不十分だったり、教わっていないことをやらされる場合も問題にならないのでしょうか?

十分な教育訓練を行わなかった結果労働者がケガをしたり、事故にあったりした場合は使用者は責任を問われると思います。

あとは、以前(鬼滅の刃×弁護士・前編)でコメントしたように「過大な要求」はパワハラの6つの類型のひとつとされており、「必要な教育をしないまま到底達成できないようなノルマを与え、できなかったら厳しく叱責する」というのはパワハラになりえます。

「新しく入社した赤血球に教えてもいないことを無理矢理やらせるのはパワハラになることがあります。

――続いて、さらにパワハラの典型例のようなエピソードがあるのですが……。
「はたらく細胞BLACK」で学ぶ労働法 赤血球が危険な業務を断れる場合とは?

これは……パワハラ的な発言ですね。

――一度の発言だけでも問題になるのでしょうか?

一度だけでも業務指導の対象になる可能性はあります。その発言でメンタルなどに不調がでれば問題にもなりますね。

あとは「他の人の前で威圧的な叱責を何度もする」というのは典型的なパワハラです。この赤血球のケースでも、特に緊急性もなく、多人数の他の赤血球の前で怒られていると、パワハラになりやすくなると思います。

――パワハラかどうかは周りに赤血球がいるかどうかにもよるんですね……!

<後編ではリアルでやると労災認定されやすい行動や、実は違法でない行動についてお聞きしていく>
「はたらく細胞BLACK」のリアルでやると労災認定されやすい行動は? 弁護士が解説

■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。

Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
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Profile
村田浩一

弁護士。2009年中央大学大学院法務研究科修了。2010年弁護士登録。根本法律事務所に在籍。近著『外国人雇用の法律相談Q&A』(法学書院、編集代表)が発売中。


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