【前編】「ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカのアニメMV解説」を読む
ヨルシカ・ずっと真夜中でいいのに。
後編となる今回は、前編(※関連記事参照)に引き続き「アニメーションの色彩設計から学ぶ 色彩&配色テクニック」著者であり、『コードギアス「復活のルルーシュ』」をはじめとしたロボットアニメ作品や子ども向けアニメ作品などで色彩設計として活躍する柴田亜紀子さんに、YOASOBIの色彩の特徴や、ヨルシカ・ずっと真夜中でいいのに。、YOASOBIの共通点などを解説してもらう。
少ない色数で工夫されているYOASOBI
――人気のアーティスト3組、ヨルシカ・YOASOBI・ずっと真夜中でいいのに。のアニメMVを現役のアニメ色彩設計・柴田さんに解説していただくという本企画ですが、まずはYOASOBI『夜に駆ける』についてお聞きしたいです。
MVの中で男の子と女の子が出てきますが、男の子はブルー、女の子はピンクになっていますよね。
そのうえで、ピンクとブルーが入れ替わる演出がされていて、男の子と女の子が離れたりすれ違ったりする様子を色で表現しているのがおもしろいなと思いました。
あとは、歌詞にあわせてときどき優しい色合いに変えたりしてありますよね。気持ちや関係の変化を色で表現してあるのは色彩設計としては楽しい仕事だろうなと思います笑
――(笑)。『夜に駆ける』に限らず、YOASOBI全体について感じることなどはありますか?
あまり色の数を使わず、綺麗にまとめたMVが多いアーティストさんだなと思いました。
『夜に駆ける』でも余計な色を使っていないし、シンプルに統一されていますよね。
――言われてみると確かにそうですね!
色数を絞って、見せたいところを見てもらえるMVになるように工夫されているのかなと思います。
あとは全体的にピンクが好きそうというか...YOASOBIという名前なので、夜明けと深夜の間に見える空の色(ピンク)をよく使われているのかもしれません。
――『夜に駆ける』では『ハルジオン』と同じピンクが使われていますが、色味がかなり違っています。これはどういう意図なのでしょうか?
『夜に駆ける』の方は「夜明けのピンク」をイメージした色合いだなと思います。逆に『ハルジオン』はパソコンの画面で見れるピンクというか、人工的なイメージがあるピンクにしてありますね。
ピンクって優しい色から華々しい色まで幅がある色なんですね。『ハルジオン』の方はそのピンクが持つ「毒々しさ」を使いたかった作品なのかなと思いました。
――なるほど、MVの色ひとつから様々なことが知れておもしろいです!
内面をより伝えるためにMVにアニメーションが使われている
――今回は、ヨルシカ・YOASOBI・ずっと真夜中でいいのに。を取り上げたのですがそれぞれのアーティストの比較もお聞きしたいです。MVを観ているとそれぞれ夕焼けを描いた作品をよく出しているなと感じるのですが、アーティストごとに違いは感じるでしょうか?
まず、キャラクターが迷っていたり心が揺れている様子を表すのに夕焼けって効果的なんですね。だから、あまり晴れ晴れとした気持ちではないときによく使われるんです。
そのうえで同じ夕焼けでもやっぱり色の違いがあるんですね。たとえばYOASOBI『アンコール』は、オレンジが強い夕焼けですよね。
これは「自分たちのまわりにある日常生活の夕焼け」を表現したいのかなと思いました。
逆に、ヨルシカ『ノーチラス』は同じ夕焼けでも紫が入れられていますよね。
これは「非日常の夕焼け」を見せたかったんだと思います。紫の夕焼けって、ちょっと怖くて不穏な感じになるんですね。そこに光を入れて印象をやわらげてあるなと思いました。
あとは、ずっと真夜中でいいのに。『正しくなれない』にも夕焼けがありますよね。
これも赤が強くて「非日常の夕焼け」を描こうとした作品だと思います。登場人物から見た景色というか、「実際はこんな色ではないけれど、本人にはこういう風に見えていた」という状況を表現するために違和感のある色にしたのかなと思いました。
――同じテーマなのに色の違いだけでたくさんのことが読み取れるんですね...!他に、この3組のアーティストに共通して感じたことなどはありますか?
全体として、わざと表情を隠したり目元を隠しているものが多くて「MVで人物をあまり特定したくない」というのがあるのかなと思いました。
聴いている人が自分を投影しやすくしてあるというか、歌の物語に出てくる人物がどこの誰なのかを特定せずに、その子の気持ちだけを前面に出したいという感じがします。
MVにアニメが多いのも、特定の役者さんを使わずに、内面が描くためなんだろうなと思いました。
――なるほど、アニメの現場ならではのお話がいろいろとお聞きできておもしろかったです。今日はありがとうございました!
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
note:https://note.mu/maishilo
アニメーション仕上げ・色彩設計。「勇者王ガオガイガー」で初の色彩設計を担当。
参加作品は、「機動戦士ガンダムSEED」「劇場版コードギアス復活のルルーシュ」「バトルスピリッツシリーズ」など
ロボット物や子供向け作品が中心。