本場アメリカでは「横」なのに…なぜ日本のホットドッグは“切り込み”が「縦」に入っているのか? その驚くべき理由
本場アメリカでは「横」なのに…なぜ日本のホットドッグは“切り込み”が「縦」に入っているのか? その驚くべき理由

アメリカを代表する食べ物といえば、多くの人がハンバーガーを思い浮かべるのではないだろうか。しかし、アメリカでそれ以上に身近な「国民食」ともいわれるのがホットドッグだ。

全米ホットドッグ&ソーセージ審議会(NHDSC)よると、戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー、5月最終月曜)から労働者の日(レイバー・デー、9月第1月曜)の間だけで、全米では約70億個ものホットドッグが消費されるという。日本でもホットドッグは気軽に食べることができるが、実は、ジャパナイズされたものがほとんどで、本場とは根本から異なる部分がある。 

日本にはほぼない“本場式”ホットドッグ

ホットドッグがアメリカの国民食であることは、国を挙げた祝日の独立記念日(7月4日)からうかがい知ることができる。

全米ホットドッグ&ソーセージ審議会によると、消費量はこの日だけでなんと約1億5000万個。ホットドッグ発祥の地とされるニューヨークでは、アメリカで最も有名といわれるホットドッグチェーンのネイサンズ(1916年創業)が主催する「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」が毎年行われ、全米を熱狂させる恒例イベントになっている。

昨年には、フロリダ州在住の須藤美貴さんが10度目の優勝を果たし、女性部門の世界記録も更新した。

アメリカには地域ごとにさまざまなホットドッグがあるが、ネイサンズに代表されるニューヨークスタイルは、マスタードやケチャップ、玉ねぎなどが定番トッピングのシンプルなものだ。

食文化史に詳しいルーズベルト大学名誉教授のブルース・クレイグ氏は、著書『ホットドッグの歴史 「食」の図書館』(原書房・2017)の中で、このニューヨークスタイルを「最もオリジナルに近い」と位置付けている。

いっぽうで日本のホットドッグは、ソーセージのほか、レタス・キャベツなどを挟んだものが一般的だろう。だが、これは本場の人にはやや奇妙に映るようだ。 

このことについて、前出の全米ホットドッグ&ソーセージ審議会に問い合わせたところ、会長のエリック・ミッテンタール氏が答えてくれた。

「トッピングに関して、レタスは一般的には使われません。アメリカでレタス入りのホットドッグは珍しいでしょう。

キャベツはザワークラウトとしてなら使われることがあります」

さらに、エリック氏に日米のホットドッグにおける根本的な違いについてもたずねた。それは、“バンズの切り込みの向き”だ。 

なぜ切り込みは縦? 各チェーンに聞いてみると……

日本のホットドッグは大抵の場合、アーチ状になったバンズ上部の焼き目に切り込みを入れ、ソーセージなどの具材が挟まれる。

いっぽう、本場・アメリカでは「最もオリジナルに近い」ニューヨークスタイルをはじめ、切り込みは横に入っているのが一般的なのだ。

ただ、この部分を気にしたことがある人などほとんどいないだろう。

わかりやすく画像を見せると、こちらは昨年末、アメリカの首都・ワシントンD.C.の大衆スーパーで入手したホットドッグ用のバンズ。

このように切り込みは横に入っており、パッケージの「クラシック」という表記からは、これが昔から主流であることもうかがえる。

エリック氏も、「ボストンでは、バンズは上部に開く傾向があります」とご当地ホットドッグに触れながらも、「アメリカでは、横に開くタイプのホットドッグのバンズが最も一般的です」と教えてくれた。

そう、本来のホットドッグの形状は“バンズ上部の切り込みからソーセージを挟んでいる”のではなく、“横に切り込みが入ったバンズを縦に傾けてからソーセージを挟んでいる”のだ。

考えてみれば、切り込みは横のほうが深く入るため、そのぶん具を多く挟むことができる。いわば本場の形状は理に適っているが、日本では縦が圧倒的に多い。

では、いったいなぜ日本式は切り込みが縦なのか。ホットドッグを扱う飲食チェーン各社に問い合わせると……。

「あくまで推測になりますが、日本ではもともと『縦切り』が一般的であった(家庭用ロールパンや、昔からある焼そばパンなど)そうで、それにならったのかもしれません。モスバーガーは日本で生まれたハンバーガーチェーンですので、アメリカ方式を採用しなかったのだと思われます」(株式会社モスフードサービス)

「ソーセージだけでなくチーズなどもトッピングしているため、具材がこぼれにくいというメリットと、見た目の美しさから縦開きで販売しております」(タリーズコーヒージャパン株式会社)

「日本では上に切れ目を入れて具材を挟むのが主流であること(お客様の認知もそのスタイルが定着されている)、バンズを置く際に安定感がある、見た目が美しいという理由です」(株式会社フレッシュネス)

いっぽうで、驚くべきことに“理由がない”“よくわからない”という企業も多かった。 

担当者の多くが「そもそも知らなかった」

ドトールコーヒーショップ、エクセルシオールカフェを運営する株式会社ドトールコーヒーは、「理由となるものは社内にも残っておりませんでした」などと回答。

発祥がアメリカであるバーガーキングも、切り込みが縦であることに「特に理由はございません」と答えている。 

前出のモスフードサービスも、回答の際、「発売当時のことを直接知る者がおらず、資料も残っていないため、ハッキリしたことはわかりませんでした」「なんでも知っている商品開発のレジェンドに聞いたのですが、それでも断定はできなかった」と言葉を添えている。

ならば、製パン企業や小売店はどうか?

まず尋ねたのは、業務スーパー・肉のハナマサを運営する株式会社花正。同社は切り込みが縦から入ったパンを『プロ仕様 ホットドッグロール』の名で販売しているが、担当者は「該当品は導入されてから長く、前任者からの商品であり、最新の形状に行き着いた経緯は不明でございます」と答えた。

同じ形状のものを販売する某小売企業と製パン企業は、ともに「回答できる材料がない」などとして回答を辞退。

しかし、いずれの担当者も、個人の意見として「そもそも、本場と向きが違うなんて知りませんでした」とかなり驚いた様子で、日本では“ホットドッグ=縦開き”だと根付いていることがうかがえる。

続いては、数少ない横開きバンズのホットドッグを販売する、コストコとShake Shackの運営会社にも同様の質問をしてみた。

「日本のコストコでも、アメリカと同じ規格のホットドッグを販売しております。そのため、アメリカの規格と合わせて横開きのバンズを使用しております」(コストコホールセールジャパン)

「Shake ShackはNY発のハンバーガーブランドなので、ホットドッグ用のポテトロールはアメリカ式のサイドカットとなっております」(アイビーカンパニー株式会社)

上記の回答からは、バーガーキングのような例外はあるものの、アメリカ発祥の企業は本場式で提供していることがわかる。

となると、日本式との“枝分かれ”はどこで起きたのか……。このルーツを求めて専門家をあたったところ、ある“移動販売”の店舗に行き着いた……。

〈後編につづく『日本のホットドック、横から切り込みを入れない理由は「切腹」にあり? そのルーツは福岡説が濃厚か…』

取材・文/久保慎 集英社オンライン編集部ニュース班

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