世界の終末から200年後、地上は死と暴力が蔓延る不毛な地に。右を見れば人々が拳銃を突きつけ合い、左を見ればモンスターが人を喰らう光景が目に飛び込んでくる。
――あなた自身もゲーム好きだそうですが、『フォールアウト』の世界観のどんなところに惹かれていたのでしょうか?
「何よりもまず、作品のトーンに惹かれていました。可笑しいのにダークで、今までに味わったことのない世界観が広がっている。“その雰囲気を映像にしたい”という想いが、このドラマのはじまりでしたね。実際、僕らが最も大事にしたのは、世界観をどう構築するか。『フォールアウト』シリーズはオープンワールドのRPGですから、主人公たちは探検し、感じていきます。そこで重要になってくるのが、ささやかなものから巨大なものまで、ありとあらゆる物体に触れる感覚。世界観が特徴的なゲームだからこそ、僕らは物体や環境に物語を語らせたかったし、その中にいる感覚を視聴者と共有したかったんです」
――近年は、ゲームの映像化に成功した作品が増えました。一昔前は、ゲームの映像化に対する世間の期待値は低かったのに。
「アメコミの映像化にも同じことが言えますよね。
原作をリスペクトした世界観の再現が高く評価されている
――本編をフィルムで撮影したのも、愛ゆえですか?
「そうです。僕が希望し、Amazonが協力してくれました。過去にはデジタルで撮った作品もあるし、新しいカメラを色々と試しもするのですが、フィルムこそが世界で最も美しい撮影スタイルだと思っています。『ウエストワールド』もフィルムで撮りましたしね。35mmフィルムで撮ると、表情を捉えた時の美しさが比べものにならない。フィルムで撮るのが大好きな兄と一緒に育ったのも影響していると思いますが(笑)」
――撮影時は大変だったのでは?
「そうですね。でも、出来上がりの良さもさることながら、撮影現場の雰囲気もフィルムで撮ることで良くなります。
――あなたはプレイバック映像をチェックしたくならないんですか?
「撮る前に画角のチェックはできますから。それで十分です」
――また、撮影現場には愛情を込めて作った“パワーアーマー(歩行型装甲兵器)”があったり、モンスターがいたりもしたそうですね。
「できる限り本物を作りました。実在感を持たせたくて」
――特に気に入っているものは?
「個人的には、シーズン1の第3話に出てくる“ガルパー(水棲モンスター)”が今でも大好きです。歯を指にするという、僕の馬鹿げたアイデアを形にできたから。最初はスタッフたちも懐疑的でしたが、『絶対に面白いから!』と言い続け、最後はみんな賛同してくれました。不気味なアイデアだってことは自覚しているんですけど(笑)」
――ちなみに、ヴィルツィヒ(主人公のルーシーが地上で出会う科学者)の頭部も実際に作りましたか?
「作りましたよ(笑)。撮影後に(ヴィルツィヒ役の)マイケル・エマーソンにあげようと思ったんですけど、保管しておく必要があったのでレプリカを渡しました。マイケルは本当に素敵な人で、僕が初めて手掛けたドラマ『パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット』からの仲なんです。
――どんな反応でした?
「普通に受け止めていましたね。長い付き合いだから、僕と一緒に仕事をしたらどんなことが起こるか分かっているんです」
――布にくるんで持ち歩かれる頭部を含め、ある意味ポップですらある激しいバイオレンス描写には、あなた自身の映像体験が関わっていますか?
「我ながら、びっくりします。僕の夢は、自分の子供たちと一緒に見られる映画を作ることなのに。今のところ、『インターステラー』しか一緒に見られません(笑)。でも、昔から映像作品の中の様式化されたバイオレンス表現に興味があるのも確か。大好きな『マトリックス』も、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンにおける様式化されたバイオレンス描写に影響を受けていますし。クエンティン・タランティーノ作品も、『ワイルドバンチ』などのサム・ペキンパー作品も、もちろん黒澤明の作品も僕は大好き。『七人の侍』と『用心棒』は映画人生に影響を与えてくれた2本です。千葉真一の美しい作品も、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』も。それらにはすべてバレエ的とも言えるような、現実の暴力とは違う映画らしさがある。とはいえ、いつか子供たちと一緒に自分の作品を見る夢も捨ててはいませんけど!」
『フォールアウト』シーズン2
12月17日(水)よりPrime Video にて独占配信中
(C)Amazon MGM Studios
文=渡邉ひかる text : Hikaru Watanabe
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