胡錦濤政権が掲げる「持続可能な成長」路線の下、変化を迫られる中国の民衆や組織にカメラを向け、戸惑いや怒り、苦悩などをリアルに映し出して話題を呼んだNHKスペシャル『激流中国』。企画の経緯や制作背景、視聴者からの反響などについて、制作を統括した角英夫チーフ・プロデューサーに聞いた。


――印象に残っている視聴者の反響は?

 中国は、情報量が少ないせいもあってステレオタイプに捉えられがちな国のひとつです。そこを打ち破りたかったですし、視聴者の方々はもちろん、われわれ作り手の先入観を超えるような発見もいくつもありました。

 たとえば、第1回の「富人と農民工」。この回では農民工の父親が一生懸命に働き、娘に仕送りをして大学に行かせようとする姿を紹介しましたが、反響としては、中国の格差問題は深刻だという声と同時に、「どうしても大学に行かせたい」という思いで病気になりながら働く父親の姿を見て、「親というのは、そこまで子供のことを考えるものなのだ」という中国の家族の結びつきの強さを再発見する人が日本人・中国人ともとてもすごく多かったんです。

 第2回「ある雑誌編集部 60日の攻防」も作り手として興味深かったですね。報道統制の中で、一人ひとりの記者が工夫しながら、事実を伝えることに執念を燃やす姿は、日本のメディア関係者から見ても迫力をもって受けとめられたようです。「われわれもうかうかしていられないな」という声を多く聞きました。

 また、最終回の「環境破壊との闘い」などで、中国のNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)の活動を紹介しましたが、そうした組織が政治に対して屹立して、いろいろなことを投げ打って頑張っている様子が日本の視聴者には新鮮だったようで、大きな反響がありました。中国人の多様性や公共心をかいま見ることができて、底力を感じたという意見も多く寄せられました。全般的に、視聴者からは「いかに中国の現実を知らなかったか」という感想が多かったですね。日本人だけでなく、日本在住の中国人視聴者からも同じような反響がありました。母国の報道が制限されていることや、地方に行った経験がない人が多いので、かえって新鮮だったのではないかと思います。


――続編の予定はないのでしょうか?

 おかげさまで局内外からたくさんのご要望をいただいています。シリーズの続編を作るかどうかはともかく、日本にとって中国は特別な隣国であり、めまぐるしく変化する姿を先入観邪念なく、正確に伝えることは大切だと思いますから、今後もNHKスペシャルなどを通じて、さまざまな形のドキュメンタリーで紹介していければと思っています。

 なお、10月下旬にはシリーズに関連した書籍『激流中国』(講談社刊)が出版され、12月下旬には、シリーズ後半回について番組を再放送する予定です。(文責:サーチナ・メディア事業部)
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