自己破産件数増加の要因として、まず私が感じる点は、不動産価値の大幅下落だ。通常アメリカ人は、不動産は一生住む場所という捉え方ではなく、「人生のそれぞれのステージでの流動資産」という発想する。
たとえば彼らは、家族構成の変化や転勤等に応じて、あっさりと引越しをするが、引越しをするということは、一般的に現在住んでいる住居を売却し、新たな物件を購入するということを意味する。
新しい住居を購入すれば新しい家具、新しい電化製品が欲しい。といった具合に、消費は波及するため、政府も財源確保という理由から、長年住宅購入促進を税制面から後押ししている。
そこで、引越しの際に住んでいる物件が値上がりしている場合、こちらでリバースモゲージと呼ばれている不動産担保ローンを組み、ダウンペイメント(頭金)を調達し、現在住んでいる物件を賃貸に出しつつ、次の物件を購入する。というパターンが多く見られた。
つまり、ちょっと前の時代までは、自分が定年になりリタイア後に、「結局現金はあまり無いけど、ローンが完済した50万ドルの不動産が2つもある。実は自分はミリオネアーだ」という光景が見られたのがレーガンの時代位から始まった一連のバブル政策の一つの側面だったといえる。
このリバースモゲージは何も第二の不動産の購入のためだけに利用されていない。生活費に充てたり、子供の学費だったり、極端にいえばラスベガスでつかうギャンブル資金だったりと目的は原則自由に設定できるのだ。
ここ数年のアメリカの消費が拡大した要因はいくつかあるが、私は、このように国内の不動産価格が増大したことにより、国民が一斉にリバースモゲージを組み消費に廻していたことが大きな要因の一つだと思っている。
もう一つの要因は、あまり話題に出ないが、「アメリカ人の起業スタイル」を挙げることができそうだ。アメリカの学生は日本人のようにある特定の時期に「就職活動」するような行動はとっていない。大学時代は、自分の専門性を高めることに重きを置き、卒業後もその分野のプロを目指し、できるだけ有力な企業で実績を積むような道を選ぶ。
日本の雇用環境も現在は、かなりそれに近いといえるが、要は一つの会社に留まって昇進を待つというパターンではなく、常に自分を高く評価してくれる企業や組織と契約するという発想なのだ。状況によっては一旦、就職した後、更なる地位向上を目指し、30歳台でMBAを取得するために学生に逆戻りするケースも珍しくない。
が、それは無数の上場企業が本拠を置いているアメリカ本土で主に見られる光景であり、ハワイ州のように、中小零細企業の集合体のようなセグメントでは、自分を売り込むというジョブ・マーケットよりも、むしろ、小資本で自身が何か旗揚げしようというベンチャー起業が盛んなのだ。
ここ数年の好景気により、無数のベンチャー企業がハワイでも立ち上がった。しかし実績が乏しいベンチャー企業に融資する金融機関は限られ、特に現在のように、銀行そのものが大量の不良債権を抱えている状況では、融資どころか自己資本比率を高めるために回収に向かっているのが現状だ。
結果としてせっかく立ち上げた有望なベンチャービジネスであっても多くが軌道に乗る前に、運転資金不足、ついには自己破産に陥っているのだ。
一部のバリュー投資家は、今のタイミングこそ「買い」とみて動き出しているものの、まだ少数派だ。このようなシュリンクする市場と、エンジェル不在のファイナンスの背景を考えると、しばらくハワイでの自己破産は高いレベルで推移すると思われる。
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