アルバム『NO NEW YORK』を聴いたら、他の音楽を聴けなくなるほどの影響力だった
地引雄一(以下、地引):映画『NO NEW YORK 1984-91』を観る前は、音楽シーンのドキュメンタリーだと思っていたんですが、実は当時の映像におけるシーンについてなんですよね。
ECD:僕も映像のリチャード・カーンやニック・ゼッドのことはよく知らなくて。たぶん、当時日本にはあまり紹介されていなかったと思います。でも、劇中の音楽はほぼ全て聴いてきましたね。今でもD.N.Aはカッコイイ。
地引:僕が語れるのも音楽のシーンについてなんだけどね。「NO WAVE」を確立した、この『NO NEW YORK』のレコードに参加しているジーイムズ・チャンス率いるCONTORTIONS、リディア・ランチを含む Teenage Jesus & The Jerks、アート・リンゼイやモリイクエによる D.N.A。彼らの作った新しいシーンが映像により表現されていたのが、この映画だと思います。
ECD:ここから1980年代に向けて、新しいシーンが生まれてきたんですよね。
地引:そうですね。実は、日本にあるパンクや現在まで繋がっているライブシーンというのは、すべてがここに辿りつくのではないかと思っています。なぜかというと、リディア・ランチが参加していたバンドTeenage Jesus & The Jerksでは後にフリクションを結成するレックがベースを、ジェームズ・チャンスのCONTORTIONSではチコ・ヒゲがドラムを担当していたんですね。
ECD:そうなんですよね。
地引:レックやヒゲから聞いた話では、バンドを作ろうとしてアメリカに向かっていったわけではないらしい。ニューヨークのライブハウス「CBGB」に遊びに行くと、自然に「お前何か楽器やっているのか」と声を掛けられて、「一緒にやろう」と始まったんですね。
ECD:いま、こういう音を出しているバンドってたくさんいるけど、当時は本当にどれに似ているとかの話ではなかったですよね。
地引:このレコードを聴くのは30年ぶりくらいかな。僕は初めて聴いた時には、もう二度と聴けないというくらいの恐怖を感じた。これを評価してしまったらロックがすべて終わっちゃうのではないかと、すべてぶち壊すくらいのインパクトを感じました。
ECD:そういう意味ではピストルズとかクラッシュは、わりとまともなロックンロールで、パンクって概念を本当に体現しているのは「NO WAVE」だと思いましたね。
地引:当時、日本のミュージシャンはすごく影響を受けていましたね。フォークからパンクロックへと移行した遠藤ミチロウもそう言っていたし、じゃがたらの江戸アケミは、このCONTORTIONSでのジェームズ・チャンスの真似をして、ステージで人を殴って暴れていたって話してました。
ECD:どんな人がこの音楽をやっているんだろうって、当時この『NO NEW YORK』の裏ジャケを見て、「おー!」となったんですよ。ジェームズ・チャンスの写真が、いま地引さんが言われた通り、顔に青タンを作っていて。
地引:ジェームズ・チャンスがステージ上で客に喧嘩を売って殴りかかって、逆に2~3メートルは吹き飛ばされたらしい。
ECD:このジャケット写真には、モリイクエさんが違和感なく写っている。東洋人がロックのレコードのジャケット写真にいるのをしっかり見たのは、これが初めてだった気がします。
地引:モリイクエさんはミュージシャンではなくて、アート畑の人だったそうです。それがD.N.Aに誘われて最後までやった形になった。ただ、ジェームズ・チャンスはちゃんと楽器を弾けて、実は音楽教育を受けているという話もあります。
ECD:あっ、そうなんですね。確かに、ジェームズ・チャンスはでたらめに弾いているように思いますが、ちゃんと聴くとすごいキレイな音ですよね。
地引:でも、喧嘩の話もイクエさんの話もそうだけど、いわゆるバンドマンの持っているような技術とは全く違うところ。それで集まった人たちという感じが僕にはしますね。
ECD:パンクという概念が輸入された時には「楽器が出来なくても」みたいな感じが好きだったんだけど、ロンドンパンクでは意外にみんなちゃんと弾けているというのを感じました。これは当時の僕としては、ちょっと失望する原因でしたね。
地引:演奏力というのは技術だけじゃないんだよね。
ECD:今聴くと当時の印象より洗練されて聴こえますが。本当にマイナーだった人たちのレコードとしては、当時に随分と話題になったと思います。
地引:後のことまで考えても、相当多くの人に影響を与えている。とても破壊的であり、これを聴いたら他の音楽を聴けなくなるようなものだったと思います。(情報提供:webDICE)
写真:(左から)ECD、地引雄一
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