日本語と中国語(158)-上野惠司(日本中国語検定協会理事)

(16)「準」だけでよさそう

 前回、いたずら半分に准教授の「准」は準急行なみに「準」ではいけないのかと書いた。

 「准」と「準」の区別がよくわからない。


 准教授以外にも准看(准看護師)、准尉、准士官なども「准」である。こういう職階や資格を表すものはすべて「准」かというと、そうとも限らないようだ。1991年の改正学校教育法で定められた、短期大学・高等専門学校の卒業生に与えられる学位は準学士で、「準」の方である。

 今はもう存在しないかと思うが、囲碁や将棋に準名人という位があった。九段が名人であった時代に、八段をこう称した。

 その他、スポーツの準決勝・準優勝、法律や裁判用語の準禁治産者・準現行犯・準強姦罪……、準婚なんてのもあるらしい。内縁関係のようなものをいうのだろうか。人を昏酔または泥酔させて物を盗む昏酔強盗は、準強盗ということになるのだそうだ。

 建築用語の準耐火建築物、経済金融用語の準通貨・準貨幣、文法用語の準体言……。

 まだまだある。これらの「準」は、通常、「准」とは書かない。しかし、意味はどちらも「正規なものにならう、なぞらえる」で、「準」と「准」の区別はない。


 あっさり「准」は「準」の俗字として処理してしまっている国語辞典もあるが、どういうわけか常用漢字表には「準」「准」ともに収められている。

 書き落としたが、日本語の助教授・准教授は中国語では「副教授」で「助」も「准」も使わない。

(17)ただし「批准」の「准」は例外

 準急行の「準」と准教授の「准」は、厳密な使い分けがあるのではなく、慣用に過ぎないように思われるが、「準」とは区別しなければならない「准」の使い方が一つだけある。

 「批准」の「准」、すなわち「許す」「認める」という意味の場合は「准」しか使わない。

 したがって、これ以外の「准」は「準」の俗字という扱いでよいかと思う。

 現に、中国語ではそのように処理されていて、例えば『現代漢語詞典』は「准許」(許す、認める)という意味の「准」とそれ以外の「准」「準」とを区別したうえで、後者の「准」を「準」の簡体字として扱っている。つまり、もとからそうであった「准」と、「準」の簡体字としての「准」の両方が存在するわけである。ちょっとややこしいが、妥当な処理であると思う。

 ところでこの「批准」という中国語に「批准」という訳語のみを当てた辞書や、「批准」を一律に「批准」とした翻訳書を見かけるが、こういう語釈や訳語は不正確である。

 中国語の「批准」には日本語の「批准」のほかに「許可する」「承認する」という意味があるから「批准他休假一箇月」のような使い方ができるが、これを「彼が1か月の休暇をとることを批准する」と訳すわけにはいかない。日本語の「批准」は「条約を批准する」のようにしか使わないからである。しんまえの通訳さんが、「この前の先生のご提案はまだ上司の批准を得ていませんので……」などと話しているのを耳にするたびに、漢字を共有していることの便利さと共存している不便さ、厄介さを思わずにはいられない。
(執筆者:上野惠司)

【関連記事・情報】
日本中国語検定協会 - 上野惠司氏が理事長を務める
「教授」にもいろいろあります ことば雑録(7)(2009/06/24)
私は「教官」ではありません ことば雑録(6)(2009/06/17)
留学生に負けてますよ ことば雑録(5)(2009/06/10)
中国語の検定情報 - サーチナ
編集部おすすめ