1990年代山田昌弘さん(現在、中央大学教授)の造語である「パラサイト・シングル」は日本のこの事象をうまく捉えて、社会問題の一つとしてクローズアップされている。
一方の中国では近年、「コウ老族」(スネかじり族)という言葉が象徴するように、大人になっても、ひいては結婚しても、親に頼り続け、場合によって親を徹底的に搾取するような人が急増している。中国老齢科学研究センターが公表したデータによると、中国では65%の家庭にスネかじり族がいること、約30%の成人者が高齢者によって扶養されている。状況はかなり深刻だ。
もちろん、日本と中国は同じ東洋民族でも、社会構造、家族倫理などにおいて多くの相違があるため、「パラサイト」(寄生虫)にしても、「スネかじり族」にしても、その中身は一様ではない。日本の場合、「パラサイト・シングル」が示している通り、あくまでも独身者に限り、しかも親と同居している。もっと重要なことは、その関係の成り立ちはほとんど親の自由意思が介在しているのだ。つまり、親もそのように望んでおり、親が自分の子を手放したくないといった部分がかなり強い。
しかし、中国の状況は相当違う。
第一に、中国のスネかじり族は独身者もいれば、既婚者、なかには自分も親になっている者もいる。
第二に、中国のスネかじり族は親と同居しているとは限らず、別居していても、親に頼り、親を搾取する。
第三に、中国のスネかじり族は多くの場合、親の意思を無視する、または親の弱みにつけ込んでまで経済的援助をしてもらっている。
第四に、中国のスネかじり族は往々にして親に我慢の限界を超えさせてしまい、親から裁判に訴えられることになる。
いま、中国のいたるところで、親が子どもを相手に訴訟を起こすケースが急増している。その内容は大抵二つ。一つは、子どもが親を扶養する責任をちゃんと果たしていないもの、もう一つは、子どもが親に頼りすぎで、親を搾取しているとのことだ。
今年6月2日付けの「人民日報」は親がスネかじり族の子どもを訴える記事を掲載した。それによると、被告夫婦は両親と同居しており、両親を罵ったり殴ったりするようなことをしょっちゅう起こす。ついに堪忍袋の緒を切った両親は息子夫婦を河南省鄭州市二七区裁判所に訴えた。
裁判所は、被告が速やかに原告の住居から出ていけ、という判決を言い渡した。
その後、裁判官はこの案件に対して、「独立生活の能力があるにもかかわらず、親の住宅に住み、親の金を使うといった行為はすでに親の財産権侵害の疑いを持たれている。親は法律を武器にして自分の権利を守るべきだ」とコメントした。
スネかじり族の問題は決していま急に出てきたものではない。特に都市部では1980年代からすでに顕著になった。市場経済への移行期にあって労働雇用制度は大きな変革を余儀なくされたのにつれて、多くの若者が就職できず、住居、生活費、精神面などにおいて親に頼らざるを得ない状況に陥る。
1992年1月、中国老齢科学研究センター主催の国連人口基金プロジェクト「中国高齢者扶養システム研究」が上海市で60歳以上の高齢者を対象に調査を実施した。調査対象1911人のうち、子どもを持つ高齢者は1887人(都市住民1092人、農村住民795人)いる。高齢者の多くは子どもから経済的援助を受けている。しかし一方、都市高齢者1092人のうち、なんと444人(40.7%)が子どもに対して経済的援助を行っている。農村高齢者にはこんなケースが少ないが、それにしても、795人のうち、子どもを援助しているのが99人(12.5%)。
計画出産政策の実施に伴い、一人っ子の増加もスネかじり族問題の深刻化に拍車をかける格好となった。そもそも独立能力が全体的に弱いと見られる一人っ子は、大人になっても親や祖父母に頼る傾向が強く、スネかじり族になる可能性が高い。
さらに、経済社会の変動や不安定な状態もスネかじり族の増加を促すことになる。近年ますます顕著になった大学生の就職難は高学歴のスネかじり族を量産する要因となった。高いプライドやエリート意識が大学卒業生のスネかじり族化を防いでくれるといいが、経済大不況を背景とするいまの就職難を受け、多くの大学生がスネかじり族予備軍にならざるをえないだろう。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授)
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