「脳残」君が住む寮は、日本語学校が所属する財団の所有だ。光熱費などを含めて家賃は1カ月3万円。調理器具なども備え付けられており空調もある。住み心地は「爽快だよ!」という。
建物入り口はオートロック方式だ。「脳残」君は「中国では、あまり見かけないよね」と言ってから「暗証番号は軍事秘密。殺されても言うわけにはいかない」と、おどけて見せた。
と言っても、中国人の常識から言えば、抜け穴だらけ。
「脳残」君は、故郷で暮らしていた2010年3月22日の出来事を思い出した。夜中にトイレに行くと、廊下の床にかばんや財布、PSP(プレーステーションポータブル)のケースが散らばっていた。あれ? と思って窓を見ると、防犯用鉄格子が切断されていた。
実に「和諧」でない光景だった。ちなみに、「和諧」とは「調和」の意。社会の調和、人と自然の調和を強調する中国政府のスローガンだ。
盗まれたのは、現金わずか100元(約1318円)だけだった。「本当によかった!」と思えたのは、PSPの本体が無事だったことだ。
それにしても、「脳残」君の自宅マンションは窓の鉄格子だけでなく、玄関にも重さが何キログラムもある鉄製の防犯ドアをつけている。しかし、「賊」は入ってくる。
中国では、「腐敗して堕落した資本主義国家」などと説明する教科書がある。一方、日本では24時間、入ろうと思えば比較的楽に入れる寮の中で、人は枕を高くして寝ている。中国で治安について理想とされる「路不拾遺,夜不閉戸(道に落ちている物を拾う者はいない。夜でも扉に鍵をかける必要はない)」という状況を実現しているのはどちらの国なのか。両国の大いなる差を感じ、「脳残」君の目からは涙が流れ出た。
「とにかくヨソの国のよい点を学んで、自国に持ち帰る。それが留学の意義だよなあ」と、「脳残」君は改めて考えた。
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◆解説◆
「脳残」君の、日本の治安に対する評価は「高すぎる」とも思えるが、来日した中国人の多くは「日本の街は中国に比べて安心して暮らせる」と話す。「どの国でも悪い人がいるのは同じ。
ただし、中国人女性からは「日本では東京でも夜になると人通りがほとんどなくなる通りがある。やはり怖い。中国の大都市なら、どこに行っても人が多いので比較的安心できる」との意見も聞かれた。
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「脳残」君は、日本語学校に通う中国人留学生のペンネームだ。来日は2011年5月。自分自身が登場するマンガ『日在日本』が、中国のインターネットで人気を集めた。掲載サイトには、「日本の真実を教えてくれる」などのファンの声が次々に書き込まれている。
『日在日本』は作者の了承を得て、日本人読者向けにサーチナでも掲載できることになった。「脳残」君の目を通して、中国人がいだく「日本留学の印象」をお伝えしたい。