香港誌・動向4月号などは、中国共産党中央政治局常務委員で、党中央紀律検査委員会(中紀委)トップの書記として、習近平総書記(国家主席)が進める腐敗撲滅運動の陣頭に立つ王岐山氏に対する暗殺未遂が3月末にあったと報じた。暗殺や暗殺未遂事件は40回以上あり、うち王氏を狙った事件は少なくとも12回あったと主張した。
中国当局や大陸メディアは同件に触れておらず、真相は不明。

 習近平総書記は2013年秋の就任以来、腐敗撲滅に力を入れているが、記事によると中紀委スタッフに対する「暴力的攻撃」が続いており、現在までに暗殺や暗殺未遂事件は40回以上発生した。うち12回は、王書記を狙ったものだったいう。

 王書記は3月27日から28日にかけて、河南省鄭州市にある共産党同省委員会の実情調査を行った。委員会に調査実施を伝えたのは27日早朝で、日程の詳細は伝えなかった。中国人民解放軍の総参謀部情報部が用意した専用機で鄭州市に向い、鄭州市に近い軍用飛行場に降りたという。

 27日の通達では、鄭州滞在を27日から29日としたが、到着後に27-28日の滞在と変更した。省の共産党幹部との会議の場も、鄭州市から同開封市内の施設に変更。視察先もすべて変更するなど、暗殺を回避するために周到な「手はず」が整えられていたという。

 暗殺未遂が発生したのは28日早朝だったという。王書記が「宿泊施設」だった共産党が保有する招待所で午前4時ごろ、全館が停電した。4時20分には予備の発電機が稼働したが、午前5時には再び停電した。
その後、王書記一行が利用していた3台の自動車がすべて、専用駐車場で爆発した。

 王書記一行は、市警察に所属する別の施設に宿泊しており、無事だったという。記事は、別の宿泊施設を利用したのも暗殺防止の「空城の計」だったと表現した。

 王書記については、2014年3月に天津市で実地調査を行った際、調査団が利用していた3台の車のうち1台が突然炎上した。炎上した車には警備員や調査団の一部メンバーが乗っていたが、王書記は別の車に乗っていたという。

 さらに、王書記には2014年、劇毒物質の青酸カリウム入りの年賀状が送付されたとの報道もある。

 王書記については、腐敗撲滅で身柄拘束を狙う「渡米した某大物」の引き渡しを求めるために、7月ごろに米国を訪問するとの見方もある。

 香港での報道にはしばしば出現するパターンだが、「王岐山暗殺未遂」の記事については「共産党内部からの情報」、「共産党内部文章によると」といった情報が多く、真偽を判断しにくい面が多い。

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◆解説◆
 王岐山書記は1948年生まれ。当初は歴史学の研究者だったが、1982年に共産党書記処農村政策研究所に配属され、農村問題の専門家として注目されるようになった。80年代末からは中国人民建設銀行副頭取に就任するなどで、金融畑を歩むことになった。1997年に発生したアジア金融危機にともない、香港、次いで広東省が深刻な危機に見舞われた。


 王岐山書記は広東省に赴任し、香港の金融市場に悪影響を与えない形で、広東省を危機的状況から立て直したことが高く評価させた。2003年に、北京市の孟学農市長がSARSを隠蔽して解任された際には、北京市長代理に、次いで正規の市長に就任。事態の鎮静化に成功した。

 2008-13年の第2次温家宝内閣では副首相に就任。リーマンショックなどによる世界金融危機に対しては、4兆元の景気刺激策を断行して、中国経済に対する打撃を最小限で食い止めたと評価された。

 習近平政権の発足とともに、実績を積み重ねていた金融分野から腐敗撲滅という“畑違い”の分野に配属されたことについては、王書記が、習総書記とは異なる派閥の胡錦濤・温家宝ラインに近かったことから、「やっかい払いではないか」との見方が出た。

 摘発された「腐敗幹部」は当初、胡・温ラインにつながる人物が多かったので、王書記については「鞍替えをしたか」との見方も出た。しかしその後は、共産党中央政治局の周永康前常務委員を摘発するなど、胡・温ラインと対立する「江沢民派」の摘発も増えた。そのため、江沢民元国家主席は王書記に対して怒っており、「大声で怒鳴り合い、周囲がなだめたこともあった」との説も出ている。

 王書記の腐敗撲滅への取り組みは「閻魔大王と王岐山と、どちらが恐いか?」とも言われるようになった。金融、経済、社会的混乱の立て直し、さらに北京五輪の招聘成功などの大きな実績を持っていることから「現政権内でもとりわけ有能な政治家」との評価がある。(編集担当:如月隼人)(写真はCNSPHOTO提供。
王岐山書記)


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