取材に応じた五代目の柴田匡保(ただやす)社長は「ガラスは膨張係数といって温度変化によって長さや体積が伸び縮みする。当社はそれに耐えられる現在の耐熱ガラスとまったく同じ素材の開発に成功し量産化するようになった」と説明する。この時の量産化は職人技によるもので、さまざまな実験で求められる多種多様な形状の理化学用ガラスを生み出し、その技は今も脈々と受け継がれている。
柴田匡保社長(HARIO) HARIO社はその後、2005年に発売したコーヒードリッパーが世界に広まったことで急成長を遂げるのだが、その素地は1960年代に進出した家庭用製品でできあがっていった。
家庭用製品の第1号はコーヒーサイフォンで、続いて1965年に発売開始した冷水筒「フリーザーポット」が大ヒットした。これはやかんで煮出した麦茶を冷やすために開発されたもので、プラスチック製品がなかった当時はビール瓶などに入れて冷やされていたという。「通常のガラス製品は煮出した麦茶を入れると割れたりするが、当社の耐熱ガラスは熱に強く、お湯をそのまま入れて冷やすことができることから物すごい数の受注をいただき、供給が追いつかない状況となった」と述べる。
その後、1979年に発売開始されたプレス式ティーメーカー「ハリオール」も大ヒットし80年代の成長の牽引役となった。
このように理化学用品・工業用品(1980年自動車用の照明レンズの分野に参入)・家庭用品の三つの事業の柱の中で、家庭用品の比率が年々高まり、その家庭用品の中では「コーヒー分野が圧倒的に強く、続いて強いのはティー関連。
コーヒー分野が強くなったことによってか、柴田社長が入社した1999年にはコーヒー好きの社員が大勢を占めていたという。そのコーヒー好きの社員らが実験的な試行錯誤を積み重ねて2005年に発売開始した「V60透過ドリッパー」をはじめとするV型円すい形コーヒードリッパーが「現在のわれわれの業績を支える一番大きなターニングポイントとなった」。
V型円すい形の特長は、1か所にある抽出穴を大きくすることでお湯を滞留させることなくスムーズにお湯を通していく点にある。ネルドリップと同じ仕組みで、滞留しないからといってコーヒーが薄く抽出されるということはなく、お湯がコーヒー粉の間を自然に通っていく。
曲線を描いて配されているリブと呼ばれる溝も特長で、リブによってフィルターをドリッパーから若干浮かせることで膨張するコーヒー粉に対応。コーヒー豆はお湯で蒸されると上下・左右に膨張し、その際、コーヒー粉の膨らみを妨げることなく、ドリッパーとフィルターの間にできた空気の層によってお湯がスムーズに下に落ちる仕組みになっている。
当初は国内市場向けを想定していたが、世界のトップバリスタの目に留まったことと、これにその頃から勃興したSNSの情報拡散力が加わったことで「V60」は一躍世界に広まった。
「まず米国の大手コーヒーチェーンが世界中に広がったことで高付加価値なコーヒーが飲まれる土壌ができていった。次に、よりこだわったおいしいコーヒーを求めてハンドドリップ抽出するサードウェーブコーヒーが米国からスタートし世界中に広まり、2007年のロンドン大会で『V60』を使ったバリスタが優勝したことも手伝い、自然と世界のバリスタに愛用されるようになり、SNSで格好良く拡散していただけるようになった」と振り返る。
「V60」をフックにフィルター・サーバー・ケトル・ミル・スケール(抽出量・抽出時間の計測器)の5点セットの引き合いも強まり、HARIOの名は世界で知られるようになる。
現在100か国弱へと販路を拡大し、アメリカ・韓国・台湾・中国・シンガポール・ヨーロッパに現地法人を構えて販売を強化している。
なお、産業用は1962年10月、ソニーとの提携で合弁会社・柴田ソニー硝子を設立し、マイクロテレビ用ブラウン管用バルブなどを製造開始した。同社はデジタルテレビの登場に伴い消滅したが、現在も受注体制を維持している。
祖業の理化学用品は、景気の動向などに左右されず引き続き安定的に推移していく見通し。
理化学用耐熱ガラスの国内シェアは40%前後で、競合1社とシェアを二分している状態が長年続いている。

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