蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ。松尾芭蕉が46歳の時、現在の江東区の深川を出発して東北、北陸をめぐり、岐阜県大垣市まで156日間約2400㎞の旅をまとめた「奥の細道」の中で最後に詠まれた句。
長旅を終えた芭蕉は、次の目的地である三重県の二見ケ浦へ向かうため大垣で弟子たちと別れ、舟で揖斐川から伊勢湾に向かったとされている。

▼大垣から揖斐川に沿って南下したところが三重県桑名市。江戸時代から「その手は食わない」をもじって「その手は桑名の焼き蛤」と言葉遊びに使われるほど有名なハマグリの産地だったが、昭和50年代ごろから生産量が激減した。

▼その中で、桑名市の赤須賀漁協では1976年からハマグリの種苗生産の技術開発に取り組み、近年の漁獲量は少しずつ回復しているものの最盛期には遠く及ばない。

▼二枚貝が唯一無二の組み合わせになることから婚礼の席で振る舞われるが、婚姻率の低下とメニューの多様化で食べる機会も減っている。後世に残していくためには、厳しく細い道のりを芭蕉のごとく突き進んでいくしかない。
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