最近、東海漬物のロングセラー漬物「きゅうりのキューちゃん」がよく売れているという。2023年の値上げ後には一時、動きが鈍る場面もあったが、手間や品数をかけない食事が増えるなか、再び日常使いとして手に取られる場面が増えている。


 背景にあるのは、漬物市場の好転というより、「米の食べ方」そのものの変化だ。物価高や生活リズムの変化を受け、食卓は全体に簡素化している。主菜や副菜をいくつも並べるより、手間なく、考えず、失敗しない食事を選びたい――そうした意識が、食事の前提になりつつある。白米を「どう食べきるか」が、日々の小さな課題になっている。

 そこで選ばれているのが、歯ごたえがあり、味がはっきりした“パリポリ系”の漬物だ。

 数切れあるだけで白米が進み、食事としての満足感が生まれる。量を多く食べなくても成立する点が、簡素な食事と相性がいい。「キューちゃん」は、その条件を自然に満たしている。甘辛い醤油味とコリッとした食感は、白米の最初の一口を後押しし、最後まで食べきらせる。漬物が副菜として添えられる存在だった時代とは異なり、いまは白米を一食として成立させるための「スイッチ」として使われている。

 もちろん使われ方は一つではない。SNSを見ると、お茶漬けに合わせたり、弁当に入れたり、丼に混ぜて調味料のように使ったりと、食シーンは多様だ。


 共通しているのは、どの場面でも「少量で役割を果たしている」点である。用途を決めなくても、冷蔵庫にあればどこかで使える――その感覚が、リピートにつながっている。

 メーカー側は、商品の好調理由を新規導入や価格を理由に挙げることが多い。だが、生活者が「キューちゃん」を食べている理由は、もっと単純なのかもしれない。白米の食事を、考えずとも成立させてくれる。その体験が無意識のうちに記憶され、「また買ってもいい」という判断につながっている。

 漬物市場は厳しい環境が続いているが、すべてが苦戦しているわけではない。副菜前提の商品が選ばれにくくなる一方で、白米中心の食事にフィットする漬物は、点で評価され始めている。

 「キューちゃん」の動きは、今の生活者が、米をどう食べているかを映す鏡と言えるだろう。
食卓が変わる中で、役割を明確に持てた漬物が、静かに存在感を取り戻している。
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