「持続可能な食料システム」へ基本計画
――令和7年を振り返っていただけますか。
荒川 令和7年にはいろいろなことがありました。まずは令和6年に改正された食料・農業・農村基本法に基づき、初の「食料・農業・農村基本計画」が閣議決定されました。
「持続可能な食料システム」の実現に向けた検討状況では、農水省は先の通常国会において成立した改正食料・農業・農村基本法に基づき、令和7年春までに新たな食料・農業・農村基本計画の策定を行うこととしました。また、食料システムに関する施策、新たな基本計画の策定を待たずに打つべき施策は打つべく、合理的な価格の形成と、食料システムの持続可能性確保に向けた、食品事業者の取組促進等を図る新たな法制度(食料システム法)が検討、立案され、令和7年6月に国会で成立しました。
振り返ってみれば、令和6年に改正された食料・農業・農村基本法において、「持続可能な食料システム」をしっかり位置付けてもらいました。これまで農業においてはいろいろな法制度や支援措置がありますが、食料システム全般についての法律はほとんどありませんでした。食料システム法は、先の基本法を踏まえ、食品産業に射程をあてた法律であり画期的だと思います。
この法律の検討に当たっては、農水省に「適正な価格形成に関する協議会」が設置されました。持続可能な食料システムを実現するために、生産から消費までの各段階の関係者を一堂に会した協議会として令和5年8月に発足しました。合理的な費用を考慮した価格形成のためには、▽コストの把握・見える化▽コストを考慮した取引の実施▽消費者の購買力の確保――が必要であり、コスト構造の実態調査、コスト指標の作成、合理的な費用が考慮される仕組みの構築、消費者をはじめとする関係者の理解醸成等について検討が進められ、この部分については令和8年4月の施行が予定されています。
もうひとつの柱の「食品産業の持続的な発展に向けた検討会」は、食品安全保障、環境、人権等食品産業が直面する幅広い課題やその対応を検討するため、生産から消費まで食料システムの関係者を一堂に会した当該検討会が令和5年8月に発足しました。これまでの議論等を踏まえ、農水省において、農業と食品産業の連携強化、環境負荷低減等の促進等を通じて、食品産業を中核とした食料システムの持続性の向上を図る計画的な取り組みへの支援について、食料システム法に盛り込まれ、この部分は令和7年10月に検施行されました。
「食サス」では官民連携した検討を
――食品産業における課題解決に向けた取り組みについてはいかがですか。
荒川 フードサプライチェーン官民連携プラットフォーム(FSPPP)についてですが、令和4年当時新型コロナウイルス感染症、物価の高騰、長期的な気候変動をはじめとする地球規模の課題への対応など食品産業をめぐる環境が目まぐるしく変化する中で、フードサプライチェーンのステークホルダーが連携して課題解決に取り組む必要がありました。
このような状況に対処するため、フードサプライチェーンの幅広いステークホルダーと政策当局がダイレクトにつながり、官民が連携して課題を迅速に共有し、課題解決のために知識を出し合い、課題解決するための場として、農水省に令和4年に「フードサプライチェーン官民連携プラットフォーム(FSPPP)」が設立され、食品産業センターが令和4年度から、令和6年度までの運営を担い、以下の取り組みを行いました。
その取り組み内容は▽フードサプライチェーンにかかわる幅広いステークホルダーの参加するプラットフォームを組成するための会員募集▽食品産業の共通課題の解決策を検討するための会議の開催▽食品産業の課題解決に必要な知見を共有するためのセミナーの開催▽食品産業の課題解決のポータルサイトとなるHP運営やプレスへの情報提供などです。いずれも食品産業にとって重要な課題であり、本FSPPPの枠組みを活用して、フードサプライチェーンをめぐるSDGs、ESG投資・ビジネスと人権、物流といったテーマで、セミナー・意見交換等を開催し、食品産業の様々な課題解決に向けた取り組みを展開しました。
この間、先にも述べましたが令和6年6月には「食料・農業・農村基本法」の改正法が公布・施行され、生産、加工、流通、小売、消費の各段階の関係者が連携する「食料システム」という概念が規定されるとともに、関係者が一体となって持続可能性を高める取り組みを推進していくことが強く打ち出されました。
「食料システム」の中で生産と消費をつなぐ中核的な役割を果たす食品産業においても、食料の持続的な供給のための取り組みが一層求められるようになっています。
また、地方の食品産業においても、少子高齢化・人口減少の下で国内の市場が縮小する中、収益性の低さ、労働力不足、付加価値を生み出すための商品開発力や投資余力が乏しいといった経営課題に加え、サステナビリティ課題への対応も求められています。
こうした動きへ対応するため、サステナビリティ課題について深掘りし、より緊密に官民が連携した検討を行っていくため、FSPPPを発展的に解消したうえで、令和7年度より食料システムサステナビリティ課題解決プラットフォーム(通称:食サス)が設立されました。本食サスプラットフォームについても、引き続き当食品産業センターが事務局を請け負い、積極的に対応しているところです。
「食品表示懇談会」設置
――食品表示制度見直しの動向はどうなっていますか。
荒川 政府は令和5年に消費者政策会議を開催し、「消費者基本計画工程表」を改定しました。消費者庁は、国際的な議論に対応し、デジタル社会の到来を視野に入れつつ、今後の食品表示が目指す方向性について、中長期的な羅針盤となるような制度の大枠を議論する場として、食品表示懇談会を設置しましたが、同懇談会には当センターから大角専務理事が構成員として参画しています。
令和5年度の懇談会は計4回開催され、懇談会での議論の概況、目指すべき大枠の方向性について報告を取りまとめ、主な事項は▽諸外国との表示制度の整合性について▽個別品目ごとの表示ルールについて▽食品表示へのデジタルツールの活用について▽改正内容の施行時期について▽食品表示制度の消費者への周知について▽各検討事項の議論の進め方についてでした。
令和7年においても、食品表示については、この懇談会を中心に、個別品目ごとの表示ルールなど複数のトラックで検討が行われています。食品産業界にとっては厳しいものもありますが、消費者の選択に資するような適切な表示の実現に向け、業界の意向も調整しながら対応していきます。
――食品ロスの削減について。
荒川 食品ロスの削減については、持続的な開発目標(SDGs)を踏まえ、令和元年に制定された「食品ロスの削減の推進に関する法律」が制定され、同法に基づき「食品ロス削減推進会議」が設置されており、瀧原食品産業センター副会長が委員として参画しています。
同法に基づく基本方針では、食品ロス量を2030年度までに2000年度比で半減させることが目標とされていましたが、このうち事業系については2022年度に前倒しで達成したことを踏まえ、2030年度までに60%削減をする新たな目標が令和7年3月に定められました。
また、「経済財政運営と改革の基本方針2023」において策定するとされ、令和5年12月開催の食品ロス削減推進会議で了承、公表された「食品ロス削減目標達成に向けた施策パッケージ」を受けて、令和6年に「食品寄附等に関する官民協議会」が設置されております。私が構成員として参加しており、令和6年12月に「食品寄附ガイドライン」が了承、公表されております。令和7年には、一定の管理責任を果たすことのできるフードバンクの認証制度について実証事業が行われるとともに、その要綱案の検討が行われています。
――昨年来、「令和の米騒動」が声高に語られていますね。
荒川 「令和の米騒動」や「コメ危機」などさまざまな議論が飛び交っていますが、この混迷の中で、日本のコメ生産者とともに危機を乗り越えようとする視点に立った論考は、いったいどれほどあるのでしょうか。
5㎏1800円だったコメが、1年経たないうちに5000円近くに跳ね上がるのはおかしいが、だからといって5㎏2000円でなければいけないという主張は、消費者目線だけでありあまりにも一方的過ぎます。消費者目線では高いだろうが、生産者にとってはどうか。この視点が疎かになっていると思います。これがまさに食料システム法につながるわけです。食料システム法の理念は合理的な費用を踏まえた適正価格形成が行われていないと、その産業は続かず、その産業は潰れてしまうということです。それでは日本の食料の安定供給は実現できません。
この場を借りて少し宣伝させてください。私は長年、農水省でコメ政策の中枢を担ってきたが、昨年12月に「いま、コメで何が起きているのか~コメ政策の未来地図を考える~」(B5判、税込み990円、発行元・日本農業新聞)を発刊しました。現下のコメ需給やコメ政策の論点を整理し、日本の将来の稲作構造を展望するとともに、合理的な価格形成や直接支払いなど、望ましいコメ政策の方向性を提示しています。農業・農村関係者とともに、食品業界の関係者にも是非読んでほしいと思います。

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