1月27日、アジア杯期間中に27歳の誕生日を迎えた板倉(写真中央)
自身の体を駆使して闘うアスリートたち。連戦でフル出場が続くと体重と食欲が激減するという板倉にとって、細かい気配りがされた〝代表飯〟はまさに命綱。
■「食」を支えプロフェッショナル
コンディショニングはアスリートの務め、という話を以前の連載でしたことがある。もちろん、プロとしてコンディショニングを自ら行なうことは大前提。
でも、僕ら選手は決してひとりで闘っているわけではなく、各方面のプロのサポートがあって、初めて成り立っている。「腹が減っては戦はできぬ」とよく言うが、まさにそのとおり。
体を駆使して闘う、アスリートにとって食はまさに生命線だ。日本代表ともなると食に関してもプロの方々が徹底的にサポートしてくれている。
2004年のW杯ドイツ大会のアジア地区予選以来、日本代表を支えてくださった。西さんは、ビュッフェテーブルの片隅にコンロを並べ、選手たちから注文を聞いて、その場で肉を焼いたり、パスタやうどんなどをゆでるといった調理法「ライブクッキング」を日本代表に導入したという。そんな一流の料理と楽しみを提供してくれた西さんの影響は大きい。
今回のアジア杯の専属シェフは平田太圭龍さんと知花仙さんのふたり。初帯同となった平田さんも、ライブクッキングを凝ったものにして導入してくれた。
炭を敷いて、その上に網を乗せて肉を焼く〝炭火焼き〟を提供してくれたのだ。というのも、開催国のカタールはイスラム教の国で、食事の戒律が非常に厳しい。豚肉はエキスが入った調味料に至るまですべてがNG。
そんな特殊な状況の中、平田さんたちは食事のバラエティが少なくならないようにと、牛ステーキや鶏のもも焼き、そして牛タンの炭火焼きを提供してくれたのだ。イレギュラーへの対応力には驚きしかない。
ほかにも、僕は連戦の疲労が重なっていたこともあり、食べやすく消化に良い食事を取るべく、メニューになかったうどんを特別に作ってくれたこともある。
■心を高ぶらせる"試合前飯"とは
前述のとおり、試合が続くと疲労の蓄積からなかなか食欲が湧かなくなってしまう。そもそも90分フル出場すると、相当カロリーを消費するため、体重もぐっと落ちてしまう。そうなるとパワーが出ない。体重を落とさぬようにすべく無理にでも食事を取ろうとするのだが、うまくいかないときも多い。
そんなときはご飯のお供が欠かせない。
それでも進まない場合は麺類に頼ることもある。醤油ラーメンが出されたケースもあった。僕としては是が非でもカロリーを摂取するために何かしらおなかに入れないといけない。となると、お米と違って麺類は割とスムーズに食べられる。
平田さんたちは西さん直伝のフォー(ベトナムの代表的な麺料理。米粉で作られた平麺に牛肉や鶏肉から取ったスープをかけたもの)も作ってくれた。いよいよしんどいという場合にはヨーグルトやフルーツ、プチケーキなどのデザートを用意してくれているので、それらをいただく。まさに至れり尽くせりの状況だといえる。
選手は試合がない日であれば朝9時までに朝食、13時に昼食、19時から夕食というサイクルを過ごす。
そして、試合日。
これは、主にうどんやお餅、おにぎりなど。おにぎりの具材はサケや梅、昆布などがそろっていて、僕はもっぱら昆布入りのおにぎりを食べていた。W杯のときもそうだったが、代表で試合前飯を目の前にすると、選手は心が高ぶってくるものだ。
■食が深めるチームの絆
ライブクッキングだけではない。代表では、南野拓実くんや僕の誕生日祝いだったり、息抜きの場をいくつも提供してくれた。
予選グループリーグが終わり、トーナメント進出を果たしたタイミングで1日オフがあったのだが、宿泊先のプールサイドの一角を借りて、気分転換がてらバーベキュー形式の昼食会も開かれた。
大会によっては、外出する機会を設けて、レストランに食べに行くこともある。東京五輪2020、W杯カタール大会などは基本的にこもりっぱなしだったので、今回ようやくアフターコロナの開放感を味わえたし、チームの絆も深まったと思う。
食とは、チャージである。それもただの「栄養摂取」というだけでなく、心身ともに前向きになれるものなので、義務的・強制的になるのではなく、できるだけリラックスした中で堪能したいところだ。
寝ずに仕込みを続け、バリエーション豊かな食とリラックスできる環境を提供してくださる平田シェフと知花シェフ、そして代表スタッフの皆さんには本当に頭が上がらない。
僕らはこうやっていつも支えられている。陰でサポートしてくれる人たちのためにも、W杯アジア2次予選の北朝鮮戦以降、いい結果を残せるようにしていきたい。
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構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸 写真/AFLO/JFA