自民議連提案の高齢者向け「プラチナNISA」導入に高齢者の"...の画像はこちら >>

4月23日、岸田前首相率いる資産運用立国議員連盟が石破首相に提言書を提出した
自民党議連が高齢者向け「プラチナNISA」の導入などを柱とした資産運用に関する提言をまとめ、4月23日、石破首相に申し入れた。トランプ関税で株価が急落し、痛手を負った新NISA組も多いなか、投資経験がふんだんな高齢者は初心者が安易に「プラチナNISA」に飛びつかないようにと警鐘を鳴らす。

■「毎月分配型」はタコの足!? 岸田前首相の思惑とは?

今回、石破首相に提言したのは、岸田文雄前首相を会長とした自民党の「資産運用立国議員連盟」。65歳以上の高齢者が「毎月分配型」の投資信託を購入できる「プラチナNISA」の導入などが提言の柱の一つだ。

「毎月分配型」とは、購入者が元本をもとに得た運用益の全てを再投資に回さず、一部を分配金として手にできる仕組みで、新NISAではこのような「毎月分配型」は取り扱いがなかった。

全国紙経済部のデスクが解説する。

「『毎月分配型』では運用益が再投資されずに分配金に回るため、長期の資産形成を狙った新NISAの主旨に合わず、対象から外れていました。毎月一定額を手にできるメリットはありますが、今回のトランプ関税のように株価が落ち込んでいる時は運用益を出せずに元本を切り崩して分配金を支払う場合もあり、タコが自らの足を食べることをなぞって投資の世界では『タコ足配当』なんて言葉で揶揄(やゆ)されます。加えて、『毎月分配型』は概して信託報酬や手数料が高いことも大きなデメリットです」(全国紙経済部デスク)

このように「毎月分配型」はデメリットが少なくなく、トランプ関税の先行きも見通せない中で、なぜいまこのような提言が行われたのか。

「岸田さんは首相時代、『資産運用立国実現プラン』を策定し、年間非課税投資枠を拡大するなどした現行の『新NISA』をスタートさせた当事者です。実際に口座開設数は急増し、買い付け額も累計56兆円以上に達しています。

NISAや投資はまさに岸田さんの看板ワードであり、参院選前で内閣支持率も低迷する中、党内での存在感を改めて示す狙いもあったのではないでしょうか」(前出経済部デスク)

■狙いは積み上がった高齢者の金融資産。「投資は長期が基本」との声

同時に、「プラチナNISA」は高齢者が持つ潤沢な金融資産をターゲットにしているという見方もある。日本銀行が3月に発表した2024年10~12月期の資金循環統計(速報)によれば、2024年12月末時点の家計の金融資産は2230兆円と過去最高を記録。日本ではこのうちの6割を60歳以上が握っているとされるためだ。

埼玉県に住む小林博之さん(仮名、77歳)は、地方公務員を定年まで勤めあげ、趣味で長らく続けていた株式やゴールドへの投資で、金融資産は現在3億円を超える。

「特にこの3年ぐらい金の高騰がすさまじく、私の資産もうなぎ上りです。もうこれ以上お金があっても仕方ないので、高級車を買い替えたりしてますが、それでも資産は増えていく。退職金もそっくり残っています。40代の息子は物価上昇や低賃金、子どもの教育費に苦しんでいるようで気の毒になります。時折、こっそり援助してますが...」(小林さん)

自民議連提案の高齢者向け「プラチナNISA」導入に高齢者の"先輩投資家"が警鐘を鳴らす!
トランプ相場により、頭をかかえるNISA民も少なくない

トランプ相場により、頭をかかえるNISA民も少なくない
そして今回の「プラチナNISA」創設については、小林さんはこう警鐘を鳴らす。

「4月のトランプ関税でヤケドした投資初心者も多いと思います。若者であればやり直しがききますし、時間を味方にできますが、高齢者はそういうわけにいかない。

そもそも高齢でお金に余裕がある人は、既に投資をしている人が多いはず。いまさら『毎月分配型』の投信を購入しようとは思いませんね。70歳過ぎたらもうお金を使うフェーズでしょう。

そしてやっぱり投資っていうのは余剰資金で10年、20年、30年を見据えてやるものだと思います。

高齢者はその頃にはこの世にいませんから(笑)、そんなことより現代の若者を助けるような政策を充実させてほしいです」(小林さん)

確かに今回の提言では、若年層の資産形成を目的に、現行の新NISAで18歳以上を対象としている「つみたて投資枠」の年齢制限を撤廃する「こども支援NISA」の導入も求めている。ただし、似たような取り組みとして導入された「ジュニアNISA」は口座開設数が伸び悩んで2023年に終了しており、「こども支援NISA」の先行きは不透明だ。

■多発する「フィッシング詐欺」。新たな犯罪の温床となる可能性

自民議連提案の高齢者向け「プラチナNISA」導入に高齢者の"先輩投資家"が警鐘を鳴らす!
高齢者をターゲットにした犯罪が相次ぐなか、新制度が新たな被害を産まなければ良いが......

高齢者をターゲットにした犯罪が相次ぐなか、新制度が新たな被害を産まなければ良いが......
もう一つの大きな懸念は、このような投資に関する高齢者向けの取り組みが、新たな犯罪の温床になる可能性もあるということだ。大手証券会社6社からの報告に基づいた金融庁の発表(4月)によると、証券会社の顧客口座が何者かに乗っ取られ、勝手に株が取引されるなどの被害が2~4月で1454件発生し、不正売買額は約954億円に上るという。警視庁のある捜査関係者は話す。

「これらの手口の多くが、証券会社の偽サイトに誘導してIDやパスワードを盗む『フィッシング詐欺』です。盗んだIDで顧客になりすまし、口座を不正に操作します。詐欺師は常に高齢者の金を狙っていますから、特に投資初心者は要注意でしょう」(警視庁捜査関係者)

資産を増やすつもりが減らすことにならなければよいのだが...。

文/山本優希 写真/福原じゅんじ公式X、photo-ac.com

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