ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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「3割うまい!!」のキャッチフレーズでおなじみ、埼玉県川越市に本社を持つ中華料理チェーン「ぎょうざの満州」。東京の西側に店舗が多いこともあり、そのあたり出身の僕にとって、昔から親しみのある存在だ。
当然大好きで、やたらとその魅力を語ってしまいたくなり、むしろ人前では極力セーブしているくらいなんだけど、最近発見してどうしても語らせてほしいことがあり、当連載への登場は1年ぶり2回目ということで、大目に見ていただければ幸いだ。

「ぎょうざの満州」
満州の特徴は、まずとにかく餃子がうまいこと。小麦粉、野菜、豚肉、すべて国産の材料を使った餃子は、もちもちとした皮と旨味たっぷりの餡(あん)のハーモニーが本気で素晴らしい。近所にあるから気軽に冷凍餃子をテイクアウトできることもありがたく、家で焼けば餃子欲が120%満たされる。
そんな満州の至高のメニューといえば「焼き餃子とライス」で間違いないだろう。単品で税込350円の餃子6個に、ごはんとスープと漬けものがついて600円。腹ペコならば倍の12個になる「ダブル餃子定食」(870円)という手もある。あの焼きたて餃子をおともに熱々の白メシを思いっきりほおばる幸福は、この世でも最上級と言わざるをえない。
ただ、僕は酒飲みだから、そんなにもりもりと食事を楽しみたいモードでないときもよくある。
たいていは、ほんのりと甘めのオリジナルレモンサワー「スーパーチューハイ」(400円)と、「冷奴 ハーフサイズ」に、「メンマ ハーフサイズ」か「ザーサイ ハーフサイズ」か「大根キムチ ハーフサイズ」を合わせて始める。ちなみに今名前の出たハーフサイズ軍団は、なんとすべて110円。で、スーパーチューハイを飲み終えたあたりで酒を「紹興酒グラス」(300円)に切り替え、「焼餃子」か「水餃子」(380円)か、はたまた「野菜炒め」(400円)あたりを追加してのんびりやる。というのが、ほとんど固定してしまった僕のパターンだ。
が、しばらく前に存在に気がつき、なんだか妙に気になっていたメニューがある。それが「素ラーメン」。「しょうゆ」と「しお」の2種類があり、それぞれ400円だ。ちなみに0.5玉だと 370円、1.5玉だと450円と、かなりリーズナブル。

「素ラーメン」
写真を見たところ、本当に素のラーメンに、刻みねぎがのっているだけのようだ。そういえば僕は、注文のパターンがほぼ決まってしまっているゆえ、満州でほとんどラーメンを食べたことがない気がする。
なんて言っているとなかなかそのいつかはやってこないので、先日、思いきって素ラーメンを食べに満州に行ってみることにした。
席に着き、なにはともあれスーパーチューハイを注文する。

「スーパーチューハイ」
ラーメンは、塩味にしてみるか。それと餃子とのセット、その名も「素ラーメン・しおと焼餃子」というのがあることに気づき、素ラーメンだけではあまりにも......という気もしてきて、それを頼んでみることにする。

「素ラーメン・しおと焼餃子」
届いた瞬間、美しい! と思った。必要最低限の構成のラーメンと、焼き加減ばっちりの餃子。そのシンプルな組み合わせに、様式美のようなものすら感じる。
これは、いいかもしれないぞ......。
スープをすすり、麺をすする。あっさりながらもかなりの深みを感じるのは、アサリだしと沖縄の塩、シママースを使ったというスープのこだわりゆえだろう。

食欲をそそる香りが立ち上る

これがベストと思える麺
今までの僕はラーメンに対して、ちょっと具材に頼りすぎていたのかもしれない。この一杯を食べ、そう感じた。
少なくともチャーシューやメンマはラーメンの上にのっていてほしかったし、トッピングに煮玉子があれば必ず注文していた。けれども、素ラーメンのミニマムな世界観。それを味わってみると、むしろラーメンとはこんなにもうまい食べものだったのかと、感動が押し寄せてくるのだ。
しかもだ。そんなラーメンの魅力をぞんぶんに味わいつつ、さらなる満足度をもたらしてくれるのが、かたわらの餃子の存在。

これがベストと思える麺
何度も食べたから知っている、その信頼の味。それをラーメンと交互に味わえる。なんてぜいたくなことなんだろうか。

やっぱりうまい!
後日、どうしても気になって、醤油のほうの素ラーメンも食べにいってみた。またその際、前回はあんなにもシンプルな構成ながら、それでもかなり満腹になってしまったこともあり、ラーメンは0.5玉にしてみた。「素ラーメン・しょうゆと焼餃子」。価格はこのご時世に驚きの720円だ。

「素ラーメン・しょうゆと焼餃子」
醤油ラーメンは、国産丸鶏、かつお節などの魚介、野菜の旨味をそれぞれ抽出して合わせたトリプルスープで、たれには特選丸大豆醤油を使用しているそう。ほっとする味わいながら、塩と比べるとぐぐっとパンチがある。

これぞ醤油ラーメン! だ
で、この半ラーメンが、来月47歳になる自分の胃袋に、あまりにもちょうど良かった。餃子と一緒に食べて、ぴったり満腹。これこそが満州において、現在の僕にもっともちょうどいいセットと言えるかもしれない。
ちなみに、塩と醤油でいえば、個人的にはほんの少しだけ塩のほうが好みだったような気がするけれど、いや、それもその日の気分次第な気もする。気になる方は、ぜひ食べ比べてみてください。
今まで知らなかった新たなる魅力に気づけ、なんだかまた満州にハマってしまっている昨今だ。
取材・文・撮影/パリッコ