もうもはやプレイヤーではない(!?)「三大帝国」末裔のひとり、英・スターマー首相。それにしても、キャラ立ってないねえ......(写真:PA Images/時事通信フォト)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。
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――英独仏三大帝国の末裔の運命に関してなのですが、まず、独第三帝国の末裔、ドイツです。フリードリヒ・メルツ独首相が突然「独軍を欧州最強の戦力に」とロシアに対する西側結束を訴えました。これは、第三帝国復活の狼煙ですか?
佐藤 いや、虚勢ですよ。ドイツにそんな国力はありません。虚勢を張ってロシアに対抗するふりをして「できません」と引きます。トランプ関税と対応は同じです。関税に仏独は対抗すると言って、実際は何もできていませんよね。
――ドイツは虚勢を張らないとダメなほど、追い詰められているのですか?
佐藤 追い詰められています。4年前まではドイツはヨーロッパで向かうところ敵なしの勢いでした。それがいまや、完全にヨーロッパの病人です。
――確かに。ウクライナ戦争が始まって、米国がドイツに対していろいろと画策したんですか?
佐藤 エマニュエル・トッドは「今回のウクライナ戦争では、アメリカエリートのもうひとつの隠れた目的がドイツの弱体化だったのかもしれない」と、以前から言っていますが、その可能性はあります。
あのころのドイツの勢いは、ロシアから購入した安い天然ガスがあってのことです。それで、莫大な収益を上げていたわけですから。
――その動脈であった天然ガス海底パイプラインは、事故なのか工作なのか、壊されて不通となった。昔、ドイツにやられたヨーロッパからすると、ウクライナ戦争で一番良かったのはドイツが弱くなったこと。これに関しては西洋諸国はOK、なんですか?
佐藤 そうです。特にアメリカにとっては大きな利益となりました。
――では次は、イギリスです。先日の選挙では二大政党が大敗して、反移民右派新興政党「リフォームUK」が大躍進してます。
佐藤 このあたりは、これから力を持ってくる可能性がありますよ。
――なぜですか?
佐藤 イギリスは大陸国家ではなく、海洋国家です。だから、ヨーロッパのゲームから離れてアメリカに接近していきます。党首のナイジェル・ファラージは、トランプと親密な関係になるでしょうね。
――するとどうなるんですか?
佐藤 新たな米英同盟が生まれます。
――なんと!! では、リフォームUKは結構、有望ですね。
佐藤 その可能性はあります。リフォームUKの方向性は大英帝国イズムですからね。トランプと同じ帝国主義です。
ただし、イギリスは安全保障に大きな問題を抱えています。英海軍が持つ原子力潜水艦の基地はスコットランドですよね。
――はい。クライド海軍基地に英海軍戦略艦戦力の核ミサイル搭載原潜があります。すると、スコットランドの分離独立がある、とか?
佐藤 そうなった場合、スコットランドは非核化宣言します。すると、そこに原子力潜水艦を置いておけなくなりますが、イングランドのプリマスとかに持っていけると思いますか?
――プリマスのデヴォンボート英海軍基地は英国海峡に面していて、核ミサイルの装填はできますが、原潜の出撃基地としては無理です。クライド海軍基地は、フィヨルド的な地形の中にあり、北大西洋にすぐ出られる戦略的要衝にあります。
佐藤 だから、そういう問題を孕(はら)んでいるから、いまのイギリスの安全保障は本当に危機的なんですよ。
――イギリスはこれから攻撃型原潜を最大12隻建造します。すると、それを作っても「すみません、米国で預かって頂けますか?」となる可能性もあると?
佐藤 いや、1年半ぐらいはずっと外洋にいることになるんじゃないですか。
――それはさすがに乗組員に無理が......。すると、独英はトランプ米帝国を前に三流国家になってしまう?
佐藤 その通りです。すでにそうなっています。
――佐藤さんのよく言う「プレーヤー」ではなくなってしまう?
佐藤 はい。だから、日本の赤沢亮正経済再生担当相のようにはなれません。日本の閣僚であれば、アメリカに行ってもトランプが相手にしてくれます。しかし、ヨーロッパの閣僚の誰が訪米しようと相手にしてもらえませんよ。
――そりゃまた、すごい事態になっています。
佐藤 つまり、ヨーロッパはもう終わってしまっているんです。
――その後始末は、これから大変そうですね。
佐藤 熊、ロシアは来ないのですけどね。なぜなら、人口が減少している国が対外膨張した事例は、世界に例がないんですよ。今回のウクライナに関しては、ウクライナ東部にいるロシア人を守るための動きです。そこの自国民保護が目的です。でなければ、わざわざ国境を越えません。
しかし、ヨーロッパは熊を怒らせたと思って、どう暴れるかわからないから怖いんですよ。
――ウクライナ戦争が終わっても、プーチンからしたら「この落とし前、どないしてくれんねん?」となる。
佐藤 「誠意を見せなさい」とね。
――いやー、数千発の核兵器を保有しているロシアにどんな誠意を見せれば......。
佐藤 ドイツは「ドイツのための選択肢」、フランスなら「国民戦線」が権力を握れば誠意はいくらでも見せられますよね。
――すさまじい誠意であります。
佐藤 独英だけでなく、フランスも同じで、すでにダメです。だから、ヨーロッパに関しては、もう見ないでいいくらいの状態になっている。小さな進出はありますが、基本は衰退していくので、もはやプレーヤーではありません。
米露で決めた枠組みに抵抗する力は、ウクライナのあるヨーロッパにはないということです。だから、日本としてはヨーロッパと極力関わらず、商売で儲かる分野だけに限定して関わることです。あくまで政治には関与しないと。
――すると、G7と言いながらも実質上、話し合っているのは日米となる。
佐藤 そうですね。日米においては、トランプ政権で日本は非常に上手くやっています。
――なるほど。
佐藤 内政基盤がこれほど弱いのにも関わらず、日本が上手くいっているのは、やはり外交政策的にこれまでの陰徳が効いているからですね。
次回へ続く。次回の配信は2025年6月27日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生