日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。顔が変われば、なりたい自分になれる? 世にも奇妙な不条理劇!* * *『顔を捨てた男』
評点:★4点(5点満点)

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コンプレックスを見つめ続けると呑み込まれる

かなり意地悪なブラック・コメディである。

神経線維腫症によりきわめて特異な容貌を持った主人公が、画期的な治療法で「普通の」顔を手に入れる。それまでは顔のせいでどこへ行っても好奇の目で見られるし、異性と親密な関係も築けなかった(と思っている)彼の生活は一変する。

ところが、それまでの自分をかなぐり捨てて、新たな人間として生きようとする主人公の前に、過去の自分とそっくりの容貌の人物が現れる。おまけに、オズワルドというその青年は明るく、社交的で、ウィットに富み、のびのびと晴れやかに人生をエンジョイしているのである。

本作はもちろん、容姿から来るコンプレックスにまつわる物語でもあるが、自分で「ここさえ直せたら何もかもうまくいくのに」と思っている「欠点」が、本人が思っている以上に己のアイデンティティの中心になっていることから来る悲喜こもごもを描いたコメディなのである。

コンプレックスというのは誰にとってもやっかいなものだが、そこばかりを見つめて暮らしていると、自分が呑み込まれてしまうこともある。オズワルド役を素顔で演じたアダム・ピアソンの快活で愉快な演技も素晴らしく、皮肉の効いた物語を輝かせている。

STORY:顔に極端な変形を持つ、俳優志望のエドワード。ある日、彼は過激な治療を受け、念願の新しい顔を手に入れる。別人として順風満帆な人生を歩み出した矢先、かつての自分の「顔」にそっくりな男オズワルドが目の前に現れる......

監督・脚本:アーロン・シンバーグ
出演:セバスチャン・スタン、レナーテ・レインスヴェ、アダム・ピアソンほか
上映時間:112分

全国公開中

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