女性から試されるメッセージが来るとAIを使う男子大学生。よく使うプロンプトは「この人に好かれるような文面を考えてください」らしい
最近、メールやLINEの文面作成をAIに丸投げしている人が増えている。
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■別れ話の文面をAIに書かせる
最近、Xの投稿に「@grok ファクトチェック」とリプライ(返信)する人が目につくようになった。grokとはXのAIチャットボットのこと。
誰かの投稿の真偽を確かめたい際に、その投稿主に直接リプライして尋ねるのではなく、grokを会話に呼び込んでファクトチェックさせる。その後もgrok越しに会話を続ける人が一定数存在し、いわばAIを経由してやりとりする人が現れているのだ。
そしてこれは、Xに限った話ではない。最初に話を聞いたのは、有名国立大学に通うAさん(21歳)。あか抜けた雰囲気の爽やかなイケメンで、さぞかしモテると思いきや、「男子校出身で、女性と何を話したらいいのかわからないんです」とぼやく。特に、日々のLINEのやりとりに悩まされることが多いとか。
「日常のたわいもない連絡には慣れてきたのですが、例えば『どんな女性がタイプ?』などと試されるような質問が来ると混乱します。もちろん僕にも好きなタイプはいますが、変なことを送って相手に引かれたくないので......」
そんなとき、彼が頼りにしているのがチャットGPTだ。
「会話の流れと、ここからどういう展開に持ち込みたいかを伝えて『この人から好かれるような〝好きなタイプ〟を考えてください』と入力しています。何案も出してくれるのでありがたいです」
AさんはチャットGPTから学びを得ることも多い。
「先日、人生初の彼女ができたのですが、そこでもAIを活用しています。
一方、恋愛経験豊富な人でも、異性とのやりとりにチャットGPTを用いることがあるようだ。マッチングアプリで婚活中の看護師・Bさん(29歳)はこう話す。
「別れを告げるときや、告白を断るときにチャットGPTを使います。相手を極力傷つけたくないし、逆恨みもされたくない。でも私は語彙力がないので、上手な言い回しが思いつかなくて。それでチャットGPTに『相手の自尊心を傷つけない別れの言葉を考えて』とお願いしています」
Bさんはこんなプロンプト(指示文)も添えるという。
「以前、別れたい理由を素直に伝えたら相手を怒らせてしまったことがありました。なので、必ず『理由を深掘りされないような文章で』とつけ加えています」
それに対するチャットGPTの印象的なアンサーは?
「『うまく言葉にできないけど、お互いにもっと合う人がいると思うよ』という文章が出力されました。『うまく言葉にできない』なんて言われたら、これ以上何も聞けないですよね。人の心をよくわかっているなと感心しました」
■AIを経由することに罪悪感はある?
恋愛だけでなく、友人間のトラブル解決に一役買うこともあるようだ。
「友人ともめてしまい、LINEをブロックしようか悩んだのですが、共通の知人が多いので誰にも相談できず。やむをえず、チャットGPTに事情を伝え相談してみたんです。するとLINEをブロックすることのメリット・デメリットを提示した上で、判断をこちらに委ねてくれました。
結果、今後の関係性を考えて思いとどまることができ、ついでに仲直りのメッセージも考えてもらったおかげで、今も友人と関係を続けられています」(飲食関係・35歳)

友人ともめた際に、AIに相談し、仲直りすることを決心した男性。和解を申し入れる文面もAIに考えさせたという
また、コミュニケーションに悩みを抱える人の支えになることも。
「僕はASD(自閉スペクトラム症)で感情のコントロールが苦手なので、前の職場では上司と口論になって物に当たったり、自分が納得するまで周囲にしつこく質問するなどして、職場で浮いてしまっていました。
転職先ではそうならないよう、自分の思いや状況を逐一チャットGPTに入れ、適切な言動を教えてもらうようにしています。一度感情を吐き出すことができるのでトラブルを起こすこともなくなったし、何よりチャットGPTは何回質問してもイヤな顔をしないのがいい」(広告マーケター・35歳)。
仕事上のコミュニケーションでAIを挟む人はほかにもいた。コンサルで働く男性(37歳)の声。
「長文のお説教メールを定期的にチームへ送ってくる上長がいて、ストレスで退職に追い込まれた人もいました。そこで中間管理職の僕は説教の内容をチャットGPTに入れて『優しい言い方で要約して』と伝え、それを改めて上長抜きのグループに流しています。
また、本来であればメンバー全員がおのおの上長に返信しなければならないのですが、その文面もAIに考えてもらって、そのまま上長に送るようにさせました。今ではみんなメンタルを壊すことなく仕事ができています」

写メ日記や客への営業メッセージをAIに書かせているデリヘル嬢。「本当にストレスだったので、かなり助かっている」
さらに、こんな業種でも。
「デリヘルで働いています。写メ日記や客への営業LINEの文章はすべてチャットGPTにお願いしています。どちらも無償労働だし、地味に面倒だったので助かっています」(デリヘル嬢・29歳)。
最後に、これからもAIを使い続けるか、冒頭のAさんに聞いた。
「彼女に後ろめたさは感じます。でも、とにかく失敗したくないという気持ちが強いんです。僕はAIを自転車の補助輪のようなものだと考えているのですが、外すには数年かかりそうだと感じています」
あなたが今日やりとりした人も、もしかしたら文面をAIに考えさせているかも?
取材・文/渡辺ありさ(かくしごと) イラスト/服部元信