小田原ドラゴン(おだわら・どらごん) 1970年、兵庫県生まれ。『僕はスノーボードに行きたいのか?』でヤンマガ月間新人漫画賞奨励賞を受賞。
24年9月から週プレNEWS(集英社)でスタートした小田原ドラゴン渾身の新作漫画『堀田エボリューション』。果たして小田原ドラゴンという奇才はどんな道のりを経て、本作品にたどり着いたのか。ジックリ語っていきます。
連載第16回は小田原先生が"盟友"との濃すぎる20年をお話します。
* * *
ライター・石川キンテツが、昨年突然この世を去りました。

不屈の名作『小田原ドラゴンくえすと』(小学館)
彼との出会いは2005年。拙著『小田原ドラゴンくえすと!』(小学館・週刊ヤングサンデー)に登場するライターとしてでした。当時、彼はヤンサンの読者ページで執筆していて......まさかこんなことになるなんて、思いもしませんでした。
石川キンテツという男は、どんな人物だったかというと──牛丼チェーンを「そんな安物、食えるか!」とバカにし、新宿・歌舞伎町の大衆キャバクラに行けば「ここは安いからお触りしてもOK」などと勝手にルールを作ってしまう。要するに、わが道を行く男でした(笑)。
実はキンテツとは、2度ほど絶縁しています。原因は、まさに『小田原ドラゴンくえすと!』。あの男、とにかく仕事をしない。最初のうちは真面目に頑張っていたんですが、途中から待ち合わせに遅刻する、決められたレポートを提出しない、サボり癖が目に余るようになり......ついに僕の方から「頼むからもう辞めてくれ」と言いました(笑)。
さらに、キンテツは人を見下し、不用意な言葉を口にすることもあり、そこにもイラっとさせられましたね(笑)。例えば僕に向かって「漫画を描くなんて簡単だ」とか......。
最近、「キンテツが生きていたら『堀田エボリューション』のブレーンになっていたはず」とか、「『堀田エボリューション』はキンテツが立ち上げるべき漫画だった」といった声が一部で飛び交っているようですが、それは大きな勘違いです。彼が僕の集大成である作品にスタッフとして参加するなんて、あり得ません。前述のエピソードを読めば、わかるでしょう(笑)。
2024年6月11日、新宿にて会食する石川キンテツ氏(手前)と小田原先生そんなキンテツと最後に会ったのは、昨年のこと。
2日経っても3日経っても既読がつかず、「これはおかしいぞ」と思いました。そこで、Xで見かけた美人な女性(特に知り合いではありません)にもキンテツにDMを送ってもらったのですが、そちらにも返信はありませんでした。これはもう、何かあったなと感じました。
永遠に既読がつかない、結婚破談の報告LINE
振り返れば、最後に会った6月11日も、どこか様子がおかしかった。300メートル歩いただけで息が上がり、目にも光がなく、グラスを持つ手も震えていた。それを指摘すると、「僕は生まれてからずっと手が震えているんです」と笑ってごまかしていましたが......。
実は僕、キンテツの自宅住所を知らなかったんです。昔は「東京タワーが見える港区のマンション」に住んでいたらしいですが、その後赤羽あたりに移り、最近は親からの仕送りで都心から離れた場所に住んでいたようで、住所を言いたがりませんでした。
2024年6月11日、新宿の街をわずか300メートル歩いただけで、石川キンテツ氏は息を切らしていたそんなキンテツの住所が、ひょんなことから判明しました。
僕はその親友から住所を聞き、すぐにキンテツの家へ向かいました。マンションは年季が入っていて、ドアにはキンテツのお父さんが書いた貼り紙がありました。そこには「7月8日に部屋の前で倒れていた」と書かれていました。奇しくも、僕が婚約破談の投稿をXにして、キンテツにLINEを送った日でした。
彼はもう、自宅の扉すら開けられなかったのです。
キンテツのお父さんとお会いできました。こういう言い方はアレですが......肩の荷が下りたような表情をされていました。そりゃそうです。老いてなお息子を養っていたのですから。自分と息子の未来を考えれば、苦悩を抱えていたと思います。
石川キンテツ氏の自宅のドアには、彼の父親が書いた貼り紙が貼られていた
キンテツは司法解剖もされたようですが、死因は不明だったとのこと。
キンテツが亡くなってから、不思議なこともありました。昨年8月2日、僕がツイキャスで話していたとき、キンテツの話題に触れた途端、「ガビガビゴボゴボ」と雑音が入ったんです。僕は普通にベッドに寝転がってスマホで話していたので、雑音なんてなかったはず。でも、聞いていた人から「雑音で先生の声が聞こえない」と言われて気づきました。
僕は、キンテツから何を書いてもOKの"石川キンテツフリー素材権"を5万円で買っていたんです。この世を去っても権利は続きますからね(笑)。もしかしたらキンテツが「だからって勝手に俺のアホ話をこんなとこですんな!」って邪魔しに来たのかもしれません。霊は電子機器に影響を与えやすいって言いますしね。僕は......そんなふうに思ってしまいました。
キンテツが亡くなってから、『堀田エボリューション』の主人公・堀田正一から「キンテツの匂いを感じる」という声をもらうことがあります。
その答えになるかはわかりませんが、僕はこう思っています。
ただ、もっと彼と酒を飲みながら、もっと人生の苦しみ、痛み、そして少しの楽しさを一緒に味わいたかった。
みなさん、これからもキンテツの匂いがする堀田正一を応援してください。
《つづく》

『堀田エボリューション』(©小田原ドラゴン/集英社)は毎月第2/第4土曜日に更新。現在、全話無料配信中