数少ない国産PCが再ブレイク? ノジマ傘下で"VAIOの逆襲...の画像はこちら >>

20年以上のVAIOマニア、赤松健氏
"俺たちのVAIO"が戻ってくる!? かつて一世を風靡したVAIO。ソニーからの身売り後は法人向けにシフトし、黒字化を達成したものの世間ではすっかり影が薄いのが正直なところ......。

しかし、ノジマ傘下となった今年、その好調ぶりが評判だ。ジョブズ率いるAppleをも脅かしたVAIOの歴史を振り返りつつ、再び世界で躍進するための勝ち筋を考える!

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■実は独立後は堅実に成長を続けていた

家電量販店グループのノジマ傘下に入ったVAIOの業績が好調だ。

今年1月に買収が完了すると、3月末までにノジマ各店舗で製品の取り扱いがスタート。すでに前年の売上高を上回っており、今年度の業績としても買収前からの目標だった「年間500億円」を実現できる見通しだ。

しかし、VAIOといえば、昔は憧れの的だったものの、今や時代の流れの中で"オワコン"扱いされがちなブランドという印象が否めない。それが復活しつつあるというから驚きだ。いったい、何があったのか。

ITジャーナリストの三上洋氏がこう語る。

「VAIOは1996年にソニーのPC事業として始まりました。デザイン性の高さで一時代を築いたものの、海外企業との競争激化により、次第に業績が悪化。2014年には慢性的な赤字体質を理由に企業再生ファンドの日本産業パートナーズに売却されました。

以降、個人向けPC市場での存在感を失ったわけですが、実は独立後のVAIOは、法人向け市場を中心に堅実なビジネスを展開していました。

ソニー時代からVAIO製品を製造している長野県の安曇野工場を拠点に、品質にこだわったものづくりを続けたことが国内企業からの信頼感につながり、法人向け事業が好調に推移。

結果、個人向け事業が伸び悩む中でも、着実な成長を続けていたのです」

実際、ソニーから独立した後のVAIOは、初年度こそ赤字を計上したが、法人向け中心の戦略転換が功を奏し、2期目から4期連続で黒字化を達成。

近年の成長は特に目覚ましく、23年度にはコロナ下の特需が終わり、他社が軒並み低迷する中、2年前と比較して台数も売上高も約2倍と大きく伸ばした。

三上氏が続ける。

「VAIO独立後の10年間は、東芝やNECといった国内のPCブランドが海外企業への売却や統合を選択した時代でした。

そうした中で日本製の牙城を守り続けたVAIOは、法人向けの地道な営業努力を積み重ねてV字回復を実現しました。

ソニー時代から培ってきたブランド力と堅実なビジネス基盤を持つ今のVAIOは、決して"オワコン"ではなく、法人営業を開拓したいノジマにとっても魅力的な買収相手だったのです」

■時代を先取りした名機や珍機種たち

そもそもVAIOは単なるいちPCブランドではなく、かつては時代の最先端の象徴でもあった。自身でソニーショップを経営するほどのVAIOオタクである、ライターの君国泰将氏がこう話す。

「VAIOが発表された96年は、どのブランドも四角いゴツいデザインばかりで、『PCを見た目で選ぶ』なんて発想はありませんでした。

そんな時代に圧倒的にカッコいいデザインのPCが登場したのですから、まさに青天の霹靂(へきれき)だったのを記憶しています」

96年にソニーの新PCシリーズとして発表されたのはデスクトップ型の「PCV-T700MR」(日本発売は翌年)。このPCは「Video Audio Integrated Operation」の頭文字を取り、VAIOと名づけられた。

「その名のとおり、ただのスタイリッシュな計算機ではなく、ソニーが得意とするビデオやオーディオをPC上で統合するという野心的なコンセプト。今では当たり前すぎる発想ですが、ソニーは世界に先駆けて実現していたのです」

VAIOの躍進を決定づけたのは、次に発売したノートブック型の「PCG-505」だ。当時としては驚異的な1.35㎏という軽さを実現したスリムなデザインが受けて大ヒットを記録。

光の加減で銀色に見えるバイオレットカラーの本体は"銀パソ"と呼ばれ、空前のブームを巻き起こした。

これ以降、VAIOは個人向けのノートブック型に商品を絞り、革新的なモデルを次々と発表していく。

「特に98年の『PCG-C1』から始まるC1シリーズは、カメラ一体型のモバイルノートという市場を開拓。

静止画だけでなく、動画の撮影や編集も1台で可能な画期的なモデルで、その後のスマートフォンやタブレットの思想を先取りしていました」

その一方、時代を先取りしすぎて一般受けはしなかったモデルも少なくない。

「巨大なビデオカメラを備え、個人でインターネット放送ができるとうたった『PCG-GT1』(00年発売)なんてモデルまでありました。

当時の回線スピードが遅すぎて、まったく実用的ではなかったものの、今から25年も前にライブ配信が一般的になる未来を予見していたわけですから、驚きと言うほかありません」

02年には世界最小・最軽量(当時)のウィンドウズPCである「PCG-U1」が発売。「立ったまま使えるPC」として世間に衝撃を与えたものの、肝心のバッテリーの持ちが悪く、大ヒットには至らなかった。

■常に予想の斜め上を行っていたVAIO

しかし、こうした極端なモデルほど根強いファンがいるもので、後継機の「PCG-U101」を現役で使い続けているマニアがいる。漫画家で参議院議員の赤松健氏だ。

「02年くらいからVAIOは仕事でも家庭でも使い続けています。その中でも『U101』は特に愛着があります。今も中古で購入した2代目をカスタマイズして使っているほどです。

PCカードを挿せば拡張性もありますし、ちゃんとWi-Fiにもつながりますから、サイトのブラウジングも問題ありません」

なぜ、このモデルをそれほど偏愛しているのか。

「初めて店頭で見たときにほれてしまったんです(笑)。こんなに小さくてかわいいPC見たことないって。実際に使ってみると便利で、旅行や出張にも持参しました」

しかし、持ち運びを重視するなら、今はスマートフォンやタブレットで十分では?

「そこはやっぱりキーボードですね。私は集中して文章を打つときはメカニカルなキーボードじゃないとダメなんです。そして何より、使っていてうっとりする。こんなに魅力的なモバイルノートはありません。

一生使い続けるので、純正のバッテリーを買い込んであります。まだ未開封のものが3つもあるので、しばらくは安心です(笑)」

■ひとつの時代が終わる寂しさ

こうしたモバイルノートの系譜は「type U」というシリーズに受け継がれた。

キーボードを廃したタッチパネル型、スライド式キーボードを採用した文庫本サイズのモデルなど、さまざまな機種が発売されたが、いずれもヒットには至らないうちに07年、アップルがiPhoneを発表。モバイルコンピューターの主流はスマートフォンやタブレットに急速に移り変わる。

ブランドを代表するフラッグシップモデルの「Zシリーズ」を発売した10年には、年間販売台数で歴代最高の870万台を達成。しかし、同年にiPadが発表され、世界中の話題を集めた一方、VAIOの絶頂期は長続きせず、14年にはソニーグループからの独立が発表された。

前出の君国氏が言う。

「VAIOはコンセプトがとがりすぎて、まったくヒットしなかったモデルも多く手がけましたが、決してニッチなブランドではなく、新機種の予約開始日にはソニーストアのホームページにアクセスが殺到してサーバーがダウンするほどの人気がありました。

だから、企業再生ファンドへの売却が報じられたときは衝撃でしたし、『ひとつの時代が終わった』という寂しさがありました」

しかし、そのVAIOが10年の時を経て、今まさに大復活の時を迎えている。

今後は個人向けの販路を全国に持つノジマのネットワークを生かして、コンシューマー市場にも再び本格参入していくと明言しているように、堅実なビジネス展開だけでなく、新たな挑戦にも前向きのようだ。

では、マニアが今後VAIOに期待する勝ち筋とは?

「独立後に歩んできたように、もはや数少ない国産PCメーカーというブランドを生かした堅実路線も武器でしょう。

それでも、やはりVAIOにはガジェットとしての驚きがある機種を再び開発してほしいですね。常に予想の斜め上を行ってくれる......それがVAIOですから」

日本製PCが再び時代を席巻する日は来るか。今後の展開に注目だ。

●赤松健 Ken AKAMATSU 
『週刊少年マガジン』で『ラブひな』『魔法先生ネギま!』などのヒット作を生み出してきた漫画家であり、現役の参議院議員。20年以上にわたってのVAIOマニアでもあり、特に「PCG-U101」を愛用している

取材・文/小山田裕哉

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