日本の武器輸出が、確実に加速している。フィリピンへの護衛艦6隻の輸出契約、豪州との新型フリゲート艦の共同開発。

長年、厳しい制約でほぼ不可能だったはずの武器輸出が、なぜ今、動き出したのか? ここから武器輸出大国への道を歩むのか? その勝ち筋、そして山積みの課題とは。

■〝拡大解釈〟が開いた輸出ルート

佐藤栄作内閣が1967年に表明した「武器輸出三原則」を基盤に、長らく武器輸出を全面禁止してきた日本。

そんな日本が今、初めて護衛艦を輸出する。相手はフィリピン、そしてオーストラリアだ。いったい何が起きているというのか?

フィリピンに供与されるのは、海上自衛隊の中古の「あぶくま型」護衛艦6隻だという。護衛艦というと、〝守るためのもの〟のように聞こえるが、その実態は駆逐艦やフリゲート艦に等しい。

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日本がフィリピン海軍へ供与する予定なのは、海上自衛隊のあぶくま型護衛艦。中古艦6隻を改修した上で"共同開発"として輸出する

世界の軍艦に詳しく「あぶくま型」に乗艦取材した経験もあるフォトジャーナリスト・柿谷哲也氏はこう語る。

「『あぶくま型』は小型でヘリコプター格納庫がないため哨戒(しょうかい)ヘリコプターの運用はできませんが、ハープーン対艦ミサイル、アスロック対潜ロケット、76㎜速射砲、魚雷発射管など、汎用(はんよう)護衛艦と同等の対水上戦・対潜戦・近接防空能力を備えており、警戒監視にも十分対応できる艦です。

日本近海の防衛任務を担っていたため沿岸でしか活動できないと思われがちですが、実際には南西諸島方面の警戒監視や北太平洋での多国間訓練など長期航海も行なっています。

近年、フィリピン海軍は艦隊近代化を進めており、韓国からはミサイルフリゲート艦やコルベット艦を、イスラエルからは高速ミサイル艇10隻を、米海軍からは中古サイクロン級哨戒艇3隻を導入しています。そこに日本の護衛艦を追加するのでしょう。

ちなみに、『あぶくま型』は艦齢30~40年とは思えないほどきれいに保たれているため、それが点検・整備費用の10億円負担のみで入手できるのはフィリピンにとってはうれしい買い物なはずです」

武器輸出三原則は2014年、安倍晋三政権によって防衛装備移転三原則に改定され、実質的に輸出条件が大幅緩和された。

これによって、日英伊による次期戦闘機「GCAP」などの〝共同開発〟は可能になった。しかし、攻撃能力を持つ護衛艦をそのまま輸出することはできない。

そこで日本は、フィリピンに提供する「あぶくま型」護衛艦から武器をすべて外し、通信機器や同国仕様の装備を新たに搭載することで、形式上は〝共同開発〟扱いにするという、お得意の〝拡大解釈〟で規制を擦り抜けた。このスキームは、過去に海上保安庁がフィリピン沿岸警備隊に巡視船を供与した際にも使われているという。
 
そして、もう一国がオーストラリアだ。オーストラリア政府は海軍に導入を計画している新型フリゲート艦について、日本が提案する三菱重工業の最新鋭「もがみ」型護衛艦(FFM)をベースにした共同開発案を正式採用すると発表。値段は1隻当たり約863億円。総額9500億円にもなる大型プロジェクトだ。

日本が"武器輸出大国"になる日はすぐそこまで!?
オーストラリアが採用したのは、三菱重工業の最新鋭「もがみ」型護衛艦(FFM)をベースにした共同開発案。高いステルス性と省人化設計が特徴

オーストラリアが採用したのは、三菱重工業の最新鋭「もがみ」型護衛艦(FFM)をベースにした共同開発案。高いステルス性と省人化設計が特徴

この座を巡って争ったのは、日本、ドイツ、韓国、スペインの4ヵ国。予選で韓国、スペインを退け、決勝はドイツのフリゲート艦「MEKO A-200」型との一騎打ち。結果、日本案がドイツを下した。

決め手となったのは、わずか90人の乗員で回せる省人化設計、32基のミサイル発射セル、そして高いステルス性だといわれている。老朽艦と人員不足に悩む豪海軍にとって、まさにドンピシャの提案だったのだ。

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豪州が日本案と最後まで悩んだドイツ案は「MEKO A-200」型をベースにする案。高い航続力を備え、南アフリカやエジプトも採用している。写真はアルジェリア海軍の同型艦(撮影/Merzoug Gharbaz)

豪州が日本案と最後まで悩んだドイツ案は「MEKO A-200」型をベースにする案。高い航続力を備え、南アフリカやエジプトも採用している。写真はアルジェリア海軍の同型艦(撮影/Merzoug Gharbaz)

「ドイツも日本も両者一長一短でした。コストや実績を取るならドイツのMEKO。一方で、ステルス性や武器搭載などの汎用性を取るなら日本の新型FFM。そこに将来的な日米豪のシステム共有や、日本企業からの協力も期待できるとあって日本案が選ばれたのでしょう」(柿谷氏)

フィリピンへの輸出とは違い、豪州案件は新規共同開発の例外規定を満たすため、武装をフル搭載したまま輸出が可能となる。来年初めに契約を結び、29年からの納入を目指す予定だ。

■急成長する韓国と同じ道を進む日本

日本が武器輸出で大型契約を結ぶ日が来ることには驚きだが、近年、東アジアの武器開発に世界が熱視線を送っているようだ。

特に隣国、韓国の成長はすさまじい。20年までは年間20億~30億ドルにとどまっていた武器輸出額が、21年には73億ドル、22年には173億ドルへと急増。同年、尹錫悦大統領(当時)は、武器輸出を200億ドル規模へ拡大して、27年までに世界第4位の武器輸出国になることを目指すと発表。

実際、この成長によって韓国は世界の武器輸出国ランキングで10位に入り、世界市場シェア2%を確保した。

主な輸出先はポーランド、アラブ首長国連邦、フィンランド、インドネシア。K9自走榴弾砲(りゅうだんほう)、FA-50戦闘機、K2戦車、そして「チュンム」多連装ロケット砲システムといった兵器が売れているという。

「韓国の国策主要貿易品である『K-POP』『K-FOOD』と並び、武器産業『K-DEFENSE』も大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の支援を受けた国策貿易品です。

韓国産業通商資源部によると、24年の上半期だけで武器産業の総輸出実績は過去最高の240億ドルを突破。25年は290億ドルに迫る見込みです」(柿谷氏)

伸張し続ける韓国の武器産業には目を見張るが、柿谷氏は「今が成長のピークにある可能性もある」と指摘する。

「例えば、造船業でいうと、韓国の大手造船所は地理的に敷地の拡張が難しい。また、受注は民間船舶のほうが圧倒的に多いため、軍艦は自国で生産するのではなく、ライセンス契約を結んで導入国に生産を委ねるスキームで対処していくようです。

さらに、韓国はハイテク機器分野の新規人材不足が深刻化しています。アメリカの科学技術系や航空宇宙系の大学・大学院に留学しても、卒業後は高給の欧米企業に流れているのです」
 
そこで、次なる成長の場として日本に注目が移った。その萌芽はすでに育っている。

今年6月、造船において国内最大手の今治(いまばり)造船が、業界2位のジャパンマリンユナイテッドを子会社化し、国内最強の造船会社となった。

24年の両社の建造量を合算すると469万総トンとなり、世界4位の建造力を持つことになる。

「ここ数年、米海軍艦の修理を日本の造船所が請け負う例も増えてきています。背景にあるのは米国内の労働力不足とコスト高。日本としては、これを足がかりに米国だけでなく、各国の新造艦を受注するビジョンがあるはず。

韓国も20年前からこのスキームで進めており、ここ数年で成果が出始めている状況です。日本は試験海域も多く、環境にも恵まれています」

戦後、日本や韓国、フィリピン、台湾の海軍力を支えてきたのは米海軍からの中古艦供与だった。しかし現在、その米国の造船能力は中国のわずか200分の1にまで落ち込んだといわれる。日本が武器輸出大国への足がかりを築くとすれば、その鍵は造船業にあるのかもしれない。

■政府の支援制度なしでは民間企業が割を食う

では、〝海〟以外ではどうか。〝陸〟に関して、元陸上自衛隊中央即応集団幕僚長の二見龍氏は「非殺傷車両で勝負すべきだ」と指摘する。

「韓国は戦車や自走砲を安価かつ大量に輸出しています。火を噴く装備では勝ち目が薄い。

であれば、フィリピンに輸出する護衛艦のように、無線装備の取りつけを共同開発と見なす。そうした隙間を突くやり方をまねるべきです。

例えば、小松製作所が製造するLAV軽装甲機動車に冷蔵した輸血用血液を加温できる装置を搭載する。あるいは、重機関銃を据えるための金具を追加する。いすゞ自動車製の3.5tトラックに、担架を併設できる構造を組み込み、これらを〝共同開発〟名目で輸出可能にする。

何しろ日本が世界に誇る自動車技術ですから、各国は欲しがるはず。結果として、他国の安全保障に日本製品が寄与できるのです」

日本が"武器輸出大国"になる日はすぐそこまで!?
陸自のLAV(軽装甲機動車)は最高時速100キロ、行動距離約500㎞を誇り、防弾性能を備えた多用途車両だが、"共同開発"とすれば輸出できる可能性も?

陸自のLAV(軽装甲機動車)は最高時速100キロ、行動距離約500㎞を誇り、防弾性能を備えた多用途車両だが、"共同開発"とすれば輸出できる可能性も?

では、〝空〟ではどうか。フィリピン軍は空自のF-2支援戦闘機に関心を示しているという。

F-2の主任設計者である故・神田國一氏の下で、初期段階から開発に携わり、現在は航空コンサルタントである陶山章一氏は「護衛艦を輸出したように、F-2にフィリピン仕様の通信機器を搭載することは技術的には問題なくできる」と語る。

「しかし、問題は機体改修後の後方支援体制。日本には米国のFMS(対外有償軍事援助)のような枠組みがないため、国家が後方支援できないのです。そのため、『日本版FMS』制度を政府主導で早期に創設するべきでしょう」

FMSとは、武器を売った後も、部品供給、整備・補修、アップデート、訓練までを国家が契約上保証し相手国に提供する制度だ。

これがある米国では、企業は〝売って終わり〟ではなく、30年単位の長期契約を国家経由で確保でき外交交渉まで政府が盾になる。韓国政府も14年1月に同制度を導入するための「防衛事業法の改正」を明言し、政府間契約を可能にして品質や契約履行を保証している。

だが日本はこの枠組みがないまま武器輸出に動き始めている。結果、契約後の維持や補給はすべて企業の自己責任。戦地で故障すれば、部品手配から技術者派遣、時には政治的交渉まで、企業が単独で背負わなければならない。

「FMSのような枠組みがないため、日本がC-2輸送機、P-1哨戒機、US-2水陸両用機の営業活動を行なっても売れていません。考えれば当然のこと。買う側は『ちゃんと維持してくれるのか』も重要な検討材料になるのですから」(陶山氏)

日本が"武器輸出大国"になる日はすぐそこまで!?
三菱重工業とロッキード・マーティンが共同開発したF-2支援戦闘機も輸出できるかもしれないが、課題は後方支援体制だ

三菱重工業とロッキード・マーティンが共同開発したF-2支援戦闘機も輸出できるかもしれないが、課題は後方支援体制だ

しかも、維持契約がない状態では、価格を引き下げられたり、維持コストを丸ごと負担させられたりして、「売れても儲からない」という構造に陥る可能性もある。

さらに考えなければならないのは、輸出した艦や戦闘機が戦闘で使われ、死者を出した場合だ。FMSがある国なら政府が外交ルートで対応するが、日本では責任追及や賠償問題の矢面に立つのは企業だ。

陶山氏は「日本政府が企業を支援する形でやるなら理解できるが、FMS制度なしではビジネスとして成立しない。企業任せにすれば足をすくわれる」と断言する。

もし輸出した艦や戦闘機が敵艦を沈め、その結果、数百、数千人の命が失われたら......。その責任を企業だけに押しつけるのか。国家は何も関与しないのか。

日本は確かな技術を持つ。しかし〝売った後〟の後方支援制度がなければ、世界市場で信頼を得ることはできない。すでに始まってしまった日本の武器輸出。性能だけでなく、責任の設計図を描けるのか。今、その覚悟が問われている。

取材・文/小峯隆生 写真/柿谷哲也

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